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第12話:すれ違う道と、不穏な警告



### 第12話:すれ違う道と、不穏な警告


静まり返る秘境の広場。

俺と、Aランク冒険者たちの間に横たわっていたのは、埋めようのない暗い深淵だった。


(駄目だ……何を言っても届かない)


血だまりに映る自分の凶悪な姿。

そして、俺に向けられる彼らの、本気の殺意と底知れない恐怖の眼光。


俺は助けたつもりだった。だが、彼らにとってみれば、恐怖の秘境で魔物を貪り喰らう「新たな脅威」が現れただけに過ぎないのだ。


「もう……いい」


重く低い俺の声に、冒険者たちがビクッと体を強張らせ、さらに武器を強く握り直す。

これ以上ここにいても、不毛な戦いが生まれるだけだ。人間を傷つけるつもりなんて毛頭ない。


俺はゆっくりと背を向けた。


「おい……ッ!? 逃げる気か……!?」

「待て……! どこへ行く気だ……!?」


背後から飛び交う困惑の叫びを無視し、俺は樹海の中へと歩き出した。

一歩足を踏み出すたび、重厚な肉体が落ち葉を踏みしめ、巨木を揺らす。俺は人間社会へ戻ることを諦め、再び薄暗い秘境の深部へと――「逃走」した。


(俺の居場所は……やっぱりここしかないのか)


160キロの肥満体として日本で蔑まれ、異世界に放り出され、怪物となって人間から恐れられる。

深く溜め息をつくと、口から漏れた息すらも重く湿った怪物の吐息となって森に消えていった。


◇


「……消えた、のか……?」


ハイオークの王を思わせる凄惨な巨躯が、鬱蒼とした木々の奥へと消え去ったのを見届け、冒険者パーティーのリーダーは崩れ落ちるように膝をついた。


「助かった……のか……? 俺たち……あの化け物に食われずに済んだのか……!?」

「信じられない……Aランクの連撃魔法を素肌で弾くだなんて……。あんな生物、帝国の図鑑にも載っていないぞ……!」


メンバーたちが荒い息を吐きながら、互いに無事を確認し合う。

命は拾った。だが、彼らの胸に刻まれたのは、圧倒的な「恐怖」と「危機感」だった。


「隊長……どうしますか? 目的の『緋霊草』の採集は……」


「……中止だ。撤退する。あんな化け物が徘徊している死地に、これ以上留まるのは愚の骨頂だ」


リーダーは震える手で剣を鞘に収めると、秘境の深部を硬い表情で見つめた。


「それと……ここから物凄く遠いが、秘境の街道沿いに一番近い『ガルバ村』があるな」


「ええ、ここから徒歩で最短でも一週間はかかる最寄りの開拓村ですが……」


「戻り次第、村長と警備隊に一番乗りで知らせるぞ。『秘境狂獣の果てに、人語を解する超大型の不審な亜人――いや、未知の脅威が住み着いている』とな」


あの怪物が村まで下りてくるかはわからない。

だが、もしあの圧倒的な質量と硬度を持つ化け物が人里に現れれば、一村どころか街一つが一夜にして踏みつぶされる。プロとしての責務が、彼らに警告を発することを義務付けていた。


「あの怪物は……言葉を話した。だが、話が通じる相手じゃない。人間社会の脅威になる前に、国へ報告して討伐隊を編制してもらう必要がある……!」


冒険者たちは血の気の引いた顔で頷き合い、傷ついた体を引きずりながら、秘境の外へと急ぎ足で引き返していった。


――知らぬ間に張り巡らされていく、人間たちからの包囲網。

森の奥深くでただ静かに生きようとする山田大輔と、人間世界との本格的な「衝突」の芽が、秘境の風の中で静かに膨らみ始めていた。

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