第十五話 大聖堂の若き獅子[3]
◇
大聖堂の内部は、まさに荘厳そのものだった。
建国以来の歴史を誇るその空間は、国中から集まった高位貴族と周辺諸国からの賓客で埋め尽くされていた。
見上げれば、天井の高窓から差し込む陽光が、色鮮やかな薔薇のステンドグラスを透かし、大理石の床に美しい大輪を咲かせていた。
儀式を控え、参列者たちの抑えられた囁き声が重なり合い、場内に満ちていた。
次期国王となる王太子の誕生を見届けようと、大聖堂の空気は糸のように張り詰めていながらも、その奥底には隠しきれない熱狂がじわじわとにじみ出している。
ロゼリアは遥か後方に設けられた見学席の一角に腰を下ろしていた。公爵令嬢とはいえ、デビュタント前という身分では末席に座るのが慣例。それでも、祖国の歴史的な瞬間に立ち会えるのは光栄なことであった。
やがて、高らかなファンファーレとともに、重厚な大聖堂の扉が両側へとゆっくりと開け放たれた。
中央に敷かれた深紅の絨毯の上を、迷いのない足取りで宮廷正装に身を包んだ少年が進んでいく。
純白のシルクジャガードを纏ったその姿。光の加減によって、生地の表面に織り込まれた白銀の地模様が美しく浮かび上がる。
一歩進むたびに、翻るマントの裏地は重厚感のあるクリムゾンレッド。
ディープサファイアの大綬が胸元から腰にかけて斜めに横切り、彼の青い瞳を一層際立たせている。
リュシアンだった。
居並ぶ参列者たちの間から、ため息にも近いどよめきが波のように広がっていく。
後方の見学席からロゼリアも、その様子をじっと見つめていた。
(ご立派ですわね、リュシアン殿下)
十五になったばかりの彼は、前世で婚約破棄を告げたときの、あの冷淡な印象よりもずっとあどけなく、まだ少年の面影を色濃く残している。
(今世では婚約破棄などさせませんわよ)
心の内で深くその言葉を噛み締めた。
リュシアンは玉座の階段前まで進むと、両陛下と参列者に向かって恭しく一礼した。
それを見届けると、玉座に鎮座していた国王フレデリックがゆっくりと立ち上がる。
「我が国の気高き諸卿よ。そして遠路はるばる集いし親愛なる友邦の皆々様、静粛に」
厳かな声が大聖堂の隅々まで響き渡り、囁きとざわめきが一瞬で静まる。
「これより、我がオルヴェリアの未来を確たるものとし、大いなる栄光を次代へ繋がんがため、余が宣言する。リュシアンよ、前へ」
リュシアンは歩み出て、国王の御前に片膝をついた。
「本日ここに、第一王子リュシアンを正統なる王位継承者――次期国王と定め、『王太子』に指名する」
その宣言とともに国王は階段を降り、王太子に指名されたばかりの息子の前へと歩み寄った。深く下げられたその頭に冠を戴く。
続いて、国章にもなっている白銀の剣を水平に掲げ持ちリュシアンに差し出した。
国王を見上げ、その剣を両手で受け取ったリュシアンは、掌に伝わる重みにわずかに表情を硬くした。
「ただいま国王陛下より、厳かなる命を謹んで拝受いたしました」
リュシアンの声が静まり返った聖堂内の空気を力強く震わせた。
「我が剣は国を護る盾となり、さらなる栄華と安寧をもたらす光とならんことをここに誓います」
彼がその剣を高く掲げた瞬間、聖堂内は割れんばかりの歓声と拍手に包まれた。
――ここに、名実ともに王国の新たな光が誕生した。
ロゼリアもほかの参列者たちに合わせ拍手を送る。けれど、その拍手に込めた想いは周りのだれとも違っていた。




