第十五話 大聖堂の若き獅子[2]
◇
扉を開けた瞬間、幾つもの視線が一斉にこちらへ突き刺さった。
(ふふっ。これも前世と同じですわね)
思ったとおりの展開にこっそり苦笑する。一歩、また一歩と進むたび、値踏みするような視線がまとわりついてくる。それは、前世も今世も変わらないらしい。
控室の中は、国中から集まった名家の令嬢たちで埋め尽くされていた。それぞれが趣向を凝らしたドレスと宝飾品で身を飾っている。
色とりどりの生地が艶やかに居並ぶその様は、まさに花の品評会そのものだった。
ロゼリアは控室の中ほどに、空いている椅子を見つけると腰を下ろした。周囲の視線など、どこ吹く風と受け流す。
だが、それも長くは続かなかった。
「まあ、ご覧になって。なんてかわいらしいドレスかしら」
部屋の奥からくすくすと笑い声が聞こえてくる。
「こちらは淑女の控室ですわよ。育児室とお間違えではなくて?」
顔は正面に向けたまま、ロゼリアは視線だけをそっと横に滑らせた。
普通、こうした嫌味は扇子やハンカチで口元を隠し、だれの発言か悟られぬよう声を潜めるものだ。
けれど、声の主にはそうした素振りすらない。むしろ、見せつけんばかりのあからさまな挑発。
露出を抑えた、デビュタント前の少女が着るにふさわしい控えめな衣装。それを見て、瞬時に年若い身であると見抜かれたのだろう。
(わたくしをご自分より年少者と断定したうえでの発言ね)
ちらりと声の主を盗み見ると、冷ややかに目を細めた。
薄い金髪にブラウンの瞳。取り巻きたちを従えるように椅子に腰掛けているのは、エレオノール・ド・フォントネー公爵令嬢だった。
フォントネー公爵といえば、王都で政務に就く宰相、その人だ。その娘であるエレオノールは、ロゼリアと同じく王太子妃候補に名が挙がっている、四人のうちの一人だった。
(前世に続き、今世でも絡まれてしまいましたわ)
ロゼリアは心の中で愚痴をこぼし、わずかに眉をひそめる。
前世では、控室に入った途端、「時代遅れのドレス」だ「国家の大典にふさわしくない」などと盛大に笑いものにされた。
その様子を見て、義妹メリゼルがしてやったりと、ほくそ笑んでいたものだ。あのときのみじめな自分は小さく震えて、涙がこぼれないよう耐えるしかなかったのを思い出す。
前世と今世とでは、エレオノールの反応は違っている。けれど、ここで真正面から相手をするつもりはなかった。
今日、ロゼリアがここにいる意味は、もっと別のところにある。こんなくだらない挑発にいちいち付き合っている暇などない。
エレオノールは思ったような反応が返ってこないことに少々不満だったらしい。
「あら、あいさつの仕方もご存じないの? いいわ、わたくしが教えて差し上げますわ」
取り巻きたちを従えて立ち上がった。
ちょうど、そのとき。
「皆さま、立太子の儀、もう間もなく開始でございます。聖堂内へご移動くださいませ」
助祭のよく通る声が控室に響いた。令嬢たちが一斉に立ち上がる。
ロゼリアも椅子から腰を上げた。エレオノールの視線がまだこちらへ向けられているのを感じつつ、当然のことながら気づかぬふりをした。
(次に話しかけられるのは、臣従の礼のときでしたかしら?)
前世の記憶を手繰り寄せながら、移動する令嬢たちの流れにそっと身を紛れ込ませた。




