第十四話 壮麗たるステラフォンテーヌ[2]
「聞けば、此度の祝いの品、選定から手配まで、すべてそなたが行ったとのこと。品の意匠もさることながら、それを入れる箱、緩衝に用いた羊毛に至るまで、礼と心を尽くした実に見事なものであった」
「身に余るお言葉にございます、国王陛下」
張り詰めていた糸がふっと緩み、小さく安堵の息をつく。
国王の口から直接語られる評価に、これまで今世で積み上げてきた苦心が、ようやく形になったという実感が湧いてくる。
「リュシアンもいたく気に入っておってな」
国王の口元に、ふっと、柔らかな笑みが浮かんだ。
「本日は同席する予定だったのだが、連日の儀式の予行練習でな。どうしても来られなかったのだ」
「さようにございますか」
(本日は両陛下との拝謁でしたわよね。リュシアン殿下も同席される予定だった、とはどういう……?)
疑問に思いつつも、ロゼリアは続ける。
「第一王子殿下にもお目通りが叶えばと願っておりましたが、御盛儀当日に勇ましいお姿が拝見できますのを、今から楽しみにしております」
そのとき、それまで静かに様子を見守っていた王妃オフィーリアが、ふわりと口を開いた。
「まあまあ、なんと聡明で知的な。これでまだ成人前とは信じられませんわ。さあ、面を上げて。その顔を見せてくださいな」
その呼びかけに、ゆっくりと顔を上げる。
慈しむような青い瞳が、優しくこちらを見つめていた。
「マルグリットから聞き及んでいるとおり、我がオルヴェリアにふさわしい可憐な薔薇ですこと」
「ありがたきお言葉にございます、王妃陛下」
表向きの笑みの奥で、ロゼリアは冷静にこの場の空気を読み続けていた。
マルグリットの名前まで飛び出している。彼女は王妃教育まで見据えて雇っている専属家庭教師。
その名を王妃が口にすることは、内々にロゼリアが王太子妃候補のうちで最有力と認めているに等しかった。
ちらりと父と兄を盗み見ると、なんとも形容しがたい表情でそのやりとりを聞いていた。
国王はなにかを思い起こしたかのように、言葉を継ぎ足した。
「そういえば、そなたが選んだあの葡萄酒、ともに酌み交わす日を心待ちにしておるぞ」
その一言に、玉座の間の空気がさらに含みを持ち始める。
言葉そのものは何気ない雑談のようでありながら、その裏には、明らかな意図をにじませているのを父オーギュスタンは聞き逃さなかった。
「お、お言葉ですが国王陛下。正式に王太子妃と決まったわけでは……」
「なにを言っておる。余の意向は八年前に送った書状の通りだ」
「それは、そうなのですが」
オーギュスタンが珍しく口ごもる。
――『盟約がなくとも、ロゼリア嬢以外は考えられぬ』
八年前の書状。その内容をロゼリアは知らない。
だが、国王の口から語られた言葉と父の反応を見る限り、これはロゼリアを王太子妃へ近づける、なによりも心強い後押しであることは疑いようもなかった。
一礼を終え、玉座の間を退出する道中、ロゼリアは父と兄に挟まれながら、アーチ窓の外に広がる王宮の庭園を静かに見つめた。
一年中花を咲かせる品種の傍で、固く閉じた蕾をつける薔薇を見つける。王都が温暖といっても、それはノエルヴァルトと比べての話。
冬の寒さに耐えるその姿は、まるで自身を見ているようだった。
(必ずや、大輪を咲かせて見せますわ)
その先の未来で、咲き誇る日が来るのだと確信して、ロゼリアは人知れず微笑んだ。




