第十四話 壮麗たるステラフォンテーヌ[1]
王都の別邸での生活が始まり四日目。
ロゼリアは前世の因縁とも呼べる場所に、今世初めて足を踏み入れていた。ローズエマリスの王宮――ステラフォンテーヌ宮殿。
前世、この場所で王太子妃になるべく己を研鑽し、無実の罪を着せられ、そして地下牢で死刑宣告を受けた。
国花である薔薇を特別に品種改良し、一年中咲き誇る庭園も、陽光を取り込む大きな窓も、白い大理石で彩られた天井の高い廊下も、すべてあのころのままだった。
何度も歩いたその廊下を抜け、王宮の奥へと向かう。
玉座の間の重厚な扉を前にして、ロゼリアはわずかに呼吸を整えた。指先がほんのわずかに震えている。
今世、国王フレデリックと王妃オフィーリアに拝謁するのは、これが初めてだ。
それでも、前世の記憶は否応なく、胸の奥から鮮明に蘇ってくる。
国王も王妃も、王太子の婚約者として王宮に入ったロゼリアを、未来の王太子妃として、幾度となく目をかけてくれていた。
「見事な令嬢だ」「あなたが王太子妃として支えていてくれるのなら安心ですわ」――そう評してくれた、あの優しげな声。
両陛下が一変したのは、小謁見の間での一件。
罪状を告げられたあの日。
国王の眼差しはまるで、路傍の石を見るかのように冷ややかなものだった。王妃の視線にも、隠そうともしないあからさまな侮蔑の色がにじんでいた。
それが、ロゼリアが前世で最後に見た両陛下の姿だった。
重い音を立てて扉が左右に割れる。
「オーギュスタン・ド・アルノー公爵閣下、並びにご令息、ご令嬢、拝謁の段にございます」
通された広間の奥、一段高くなった壇上の玉座に両陛下が並んで腰を下ろしていた。
金髪に深い緑の瞳を持つ、堂々とした体躯の男――国王フレデリック。その傍らには、ライトブラウンの髪を優雅に結い上げた、王妃オフィーリア。
父オーギュスタンが先頭に立ち、厳かな足取りで玉座の前へと進み出る。その後ろにマクシム、そしてロゼリアが続いた。
深く一礼した三人を前に、国王が威厳に満ちた声で語りかけ始めた。
「よくぞ参った、アルノーよ。此度の参内、大儀であった」
「国王陛下、王妃陛下、此度の吉事、誠におめでとうございます。殿下の瑞々しき叡智と慈愛が、我がオルヴェリアの未来を永劫に照らす光とならんことを、心よりお祈り申し上げます」
オーギュスタンの朗々たる祝辞の声が、天井の高い玉座の間に小気味よく反響する。
「うむ」
国王は満足げに深く頷いた。その視線が隣のマクシムへと移る。
「おお、アルノーの嫡男か。しばらく見ぬ間に、随分と父親に似て精悍な顔つきになったな。最後に会ったのは十年前の即位式のときであったか?」
「畏れ多くも、私のことを覚えていてくださるとは、恐悦至極に存じます。両陛下の御前にてそのお言葉を賜る栄誉、生涯の誇りといたします」
緊張など微塵も感じさせず、淀みなく言葉を紡ぐ兄の横顔に、ロゼリアは密かに感嘆した。
次期公爵としての立ち居振る舞いは、我が兄ながら見惚れてしまうほど洗練されている。
そして、ついに。
国王の視線が、ゆっくりとロゼリアへと向けられた。
その瞬間、背筋にひやりとした感覚が走る。反射的に身構え、わずかに肩が強張った。
「そなたがアルノーの娘であるな」
「はい、お初にお目にかかります。ロゼリア・ド・アルノーにございます」
深々とカーテシーを捧げながら、国王の様子を窺う。
一瞬、前世のあの視線が重なって見えた。
だが、今、こちらを見据える緑の瞳には、冷たさや侮蔑など、露ほども含まれていない。むしろそれは、婚約者として王宮に入り立てのころに、幾度となく向けられていた、温かく穏やかな眼差しだった。




