↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一章 完結 ♕ 第二章 開幕】処刑された公爵令嬢は、敵国皇子と国を盗る  作者: 有明 莉琉
第一章 紅薔薇は返り咲く

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/60

第八話 未来を告ぐ者[1]




 彼が光の間(グラン・シャイン)に足を踏み入れたその瞬間、示し合わせたわけでもないのに、広間の視線はその一点へと注がれていた。



(彼で間違いないわ)



 ロゼリアは心の中で呟いた。

 自身に課した二つのうちの一つ――「第一皇子を見逃さぬ」という、一時は遂行不可と思われたミッションは、どうやら問題なく達成できそうだ。


 恐ろしいほどに整った容貌でありながら、そこににじむのは、華やかな親しみやすさなどではない。刀の切っ先を思わせるような、冷たい鋭さを孕む美しさだった。

 悠然とした足取り、深淵を覗かせる無機質な翡翠色の瞳。そして、なによりも遠巻きにして様子を窺っているロゼリアの肌にまで、びりびりと伝わってくるほどの隠しきれない強者の気配。


 あの日、ドリィが森で語った言葉が脳裏に鮮明に蘇ってくる。



(彼が――オルヴェリア王国を破滅に陥(おとしい)れる人物)



 戦場で無敗を誇る黒牙の狂獣。

 目の前の人物がその本人であることを、ロゼリアはもはや疑う余地もなく確信していた。


 けれど、確信と同時にひとつの違和感が、するりと胸の中に滑り込んできた。



(そうだとしたら、おかしいですわね)



 第一皇子という身分であれば、通常、幾人もの護衛がその周りを固めているはず。だが、彼の周囲にはそうした気配が見当たらない。


 数歩ほどの距離を空けて、遠巻きに眺める人々はいる。しかし、だれも彼のすぐ傍には近づこうとしない。


 むしろ、彼自らが周囲を遠ざけ、己だけの領域を作り出しているようにさえ見えた。



(護衛もつけずに、単身で敵国との晩餐会に? それとも……護衛など必要がないと、そうおっしゃっているのかしら)



 考えれば考えるほど、疑問は深まっていく一方だった。

 確かに彼ほどの強者であれば、並の護衛などいてもいなくても大差はないだろう。

 それでも、皇族という立場を考えれば、あまりにも異常事態だ。


 シャンデリアの光を受けて、礼装用の軍服が金糸の刺繍を鈍く輝かせている。

 幾つもの勲章が胸元できらめき、威容(いよう)を際立たせていた。

 その装飾に負けることのない、しなやかながらも鍛え上げられた体躯(たいく)。歩くたびに、周囲の空気そのものが厳かな緊張を帯びていく――そんな錯覚さえ覚える。


 ロゼリアはそっと唇を引き結んだ。



(いつかその胸に、オルヴェリアを滅ぼした証(しるし)も燦然(さんぜん)と輝かせるのね)



 この男が、――この男こそが、祖国(オルヴェリア)を灰燼(かいじん)に帰す黒牙の狂獣。


 心臓が痛いほど強く脈打っている。

 それは恐れからくる震えなのか、それとも、ようやく巡ってきた好機への興奮なのか。ロゼリアは自分でも判別がつかなかった。おそらくその両方だったのだろう。


 努めてさりげなく、視線を彼から逸らす。

 今、あからさまに見つめ続ければ、それこそ余計な注目を集めるだけだ。グラスに口をつけるふりをしながら、ロゼリアは会場の喧騒に紛れるように、ひっそりと次の機会を窺い始めた。



(この瞬間をずっと待っていましたわ)



  そう淡い含み笑いをこぼす。長い旅路の末、ついに視界に捉えた因縁の相手。

 この機会を逃す気など微塵もなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。