↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一章 完結 ♕ 第二章 開幕】処刑された公爵令嬢は、敵国皇子と国を盗る  作者: 有明 莉琉
第一章 紅薔薇は返り咲く

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/62

[4]




 晩餐会での使命(ミッション)はふたつ。

 招待客としてどこかにいるはずの父オーギュスタンと、決して鉢合わせしないこと。

 そして、まだ顔も知らない第一皇子を見逃さぬこと。


 しかし、二つ目の使命についてはどうやら、第一皇子(ターゲット)不参加につき、遂行困難となりそうだ。



(だからといって、手ぶらで帰るつもりは毛頭ないわ。かの国の方々をこれほど間近でお見かけする機会なんてそうそうありませんもの)



 視線を巧みに配りながら、それとなく、周囲の会話に耳を澄ませていく。

 給仕からウェルカムドリンクのグラスを受け取る際のわずかな瞬間も、慣れた所作でグラスを傾けるふりをしながら、聞き耳を立てるくらいは、造作もなかった。



「美しいな。後ろ姿で顔は見えないが、立ち姿が実に優雅だ」



 不意に、背後から届いた囁きに、ロゼリアはぎくりとした。



「ああ、どこのご令嬢だろうな。しかし……少し若くないか? 社交界デビュー(デビュタント)前だったりして」

「やめろよ。僕には少女愛の(そういう)趣味はないんだ」



(まずいわ)



 内心で、焦りが広がる。



(なぜかわたくし、注目を集めていません? 確かに前世で最後にこういった社交の集いに参加してからブランクはあるけれど、無作法などなかったはずよ)



 デビュタント前なのはあくまで今世の話だ。

 前世から数えれば、こうした夜会に出席するのはもう何度目か覚えていないほどだった。



(むしろ、その完璧さがかえって目を引いてしまったのかしら? だとしたら悪い気はしませんけれど、今はご遠慮したいわ)



 理由はどうあれ、これ以上注目を集めるわけにはいかない。

 ロゼリアは視線から逃れるように、自然な動作で壁際へと身を寄せた。







 ――そのときだった。



「……まぁ、ご覧になって。なんて涼やかで端正な」

「いやはや。たいそうご立派だ。実にかの国らしい顔つきをなさってるな」

「ちょっと、あなた。よしなさいったら。聞こえましてよ」



 さざ波のようにざわめきが会場に広がっていく。

 潜めていた声が、いっせいに、ある一点へと向けられていくのが、肌で感じ取れた。

 ロゼリアもまた、その空気に引き寄せられるように、声のするほうへと、そっと顔を向けた。


 大広間の中央付近、道が割れるように人々が下がった、その先。集まる視線の中心に、ひとつの人影が、悠然と立っていた。



 漆黒の髪がシャンデリアの光を受けて、艶やかに輝いている。

 長身を包むのは、金糸の刺繍が施され、幾つもの勲章を連ねた礼装用の軍服だった。

 装飾過多になりがちな儀礼服でありながら、着崩れひとつない隙のない着こなしが、かえって本人の佇まいの鋭さを際立たせている。


 年のころは、十六、七といったところだろうか。


 伏せがちな睫毛の下から覗く瞳は、美しい翡翠色をしていた。

 ただ、声を掛ける者があっても、彼は口元にわずかな微笑ひとつ浮かべず、感情の読めない冷たい眼差しを、ただ前方に向けている。


 整った容貌でありながら、その表情の冷ややかさが、周囲との間に見えない壁を作り出していた。


 近寄りがたい。だれもがそう感じずにはいられないだろう。


 それでいて、目を逸らすことすら許さないほどの、圧倒的な美しさを纏っていた。




 周囲の貴族たちとは明らかに一線を画すなにかを、ロゼリアは瞬時に感じ取っていった。

 ――いや、わかってしまった。



「――……あれが、第一皇子?」



 ロゼリアは知らず知らずのうちに息を止めていた。






《つづく》








© 2026 有明 莉琉/Riru Aria

【無断転載・翻訳禁止】All Rights Reserved. Reproduction and translation are prohibited.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。