第47-1話 (オマケ) ガイウス、大地に立つ(1)
【要注意。本話は単なる妄想です。本編中における事実ではありません。】
あれを最初に見た時、私は純粋に軍人として評価していた。
これは強調しておきたい。
本当に。
最初は。
*
総合軍事演習、最終日。
私は白軍中央部隊に派遣された中央軍兵士の一人として、学生指揮官の補助についていた。
精霊兵はよくできている。
隊列を組み、命令に従い、設定された疲労に応じて動きが鈍る。損耗判定を受ければ、その場で行動を停止する。
部隊指揮を学ぶ教材としては、生身の兵士を何百人も動員するより、はるかに合理的だ。
ただし、精霊兵は精霊兵である。
命令を聞き違えない。勝手な判断もしない。足が痛いのを隠して歩き続けたり、逆に大して疲れていないのに疲れた顔をしたりもしない。
だから総合演習では、各隊に私たち中央軍の兵士も配置されていた。
学生に、人間を動かす感覚を覚えさせるためだ。
その日。
青軍中央が動いた。
「来ます!」
白軍の学生指揮官が声を上げた。
正面。
青軍の精霊兵が前進する。
その先頭近くに、一人の学生がいた。
大きい。
まず、そう思った。
「青軍指揮官、前に出すぎじゃない?」
隣にいたエッダが言った。
「でも、部隊はついてきてるよ」
ニナが答える。
私は相手の動きを見た。
右を開ける。こちらの魔法攻撃を誘う。防御側の意識がそちらへ寄った瞬間、中央を押す。
「うまい」
「判断、速いね」
「声も通る」
ここまでは正常だった。
軍人としての観察。
何も問題はない。
青軍指揮官がさらに近づいてきた。
身体強化。
速い。
踏み込み、こちらの防御幕へ攻撃を入れる。
光が散った。
「強っ」
思わず声が出た。
エッダが頷く。
「身体強化、かなり乗ってる」
ニナは黙って見ている。
青軍の学生が叫ぶ。
泥を踏み、剣を振り、また指示を出す。
近づく。
顔が見える。
若い。
当然だ。
学生なのだから。
でも。
肌がきれい。
私は一瞬、自分が何を観察しているのか分からなくなった。
いや。
待て。
軍人として重要な情報かもしれない。
健康状態は重要だ。
顔色がいい。身体もできている。歯もきれい。
髪もある。
……髪?
私は横を見た。
エッダが見ている。
ものすごく見ている。
さらに横。
ニナも見ている。
三人の視線が交わった。
誰も何も言わなかった。
その時、私は初めて理解した。
今日の敵は。
青軍だけではない。
*
演習終了後。
女性兵舎。
「ガイウス」
エッダが言った。
私は寝台から顔を上げる。
「何?」
「名前」
「誰の?」
エッダが私を見る。
そんなことも分からないのか、という顔だった。
「青軍中央」
「ああ」
知っていた。
もちろん知っていた。
でも、知らなかったふりをした。
これは牽制である。
「ガイウス・レオニス。統学院四年。軍務志望」
ニナが言った。
私とエッダが同時に振り向く。
「なんでそこまで知ってるの?」
「聞いた」
「誰に」
「派遣下士官」
「いつ!?」
「帰り」
速い。
この女。
演習では斥候だった。
本職でも斥候である。
情報収集能力が違う。
エッダが腕を組んだ。
「四年か」
「そうみたい」
「じゃあ卒業間近ね」
私は頷く。
統学院四年。
軍務志望。
総合軍事演習で前線指揮。
しかも、あれだけ暴れた。
中央軍へ進む可能性は高い。
士官候補としては、かなり有望なのではないだろうか。
強い。若い。健康。将来性あり。
私は頭の中に浮かんだ言葉を慌てて消した。
何を査定しているんだ、私は。
エッダが言った。
「まあ、年下は趣味じゃないけど」
「何歳差?」
「聞くな」
ニナがぽつりと言った。
「ガイくん」
私とエッダが同時に振り向いた。
「今なんて?」
「ガイくん」
「まだ一言も話してないでしょ!」
「呼ぶだけなら自由」
「自由じゃない!」
「何が?」
答えられなかった。
エッダが鼻で笑った。
「二人とも馬鹿ね」
「何よ」
「そもそも、もう会わないでしょ」
沈黙。
それだった。
演習は終わった。
私たちは中央軍へ戻る。
向こうは統学院。
卒業後に中央軍へ来るとしても、部隊はいくつあると思っているのか。
同じ駐屯地。
同じ部隊。
まして、同じ中隊。
そんなもの。
「……無理ね」
「うん」
「寝よっか」
「そうしよ」
その夜。
ガイウス・レオニスは、我々三名の人生から消えた。
はずだった。




