↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王国を読む者たち I - 統学院の五人  作者: なみみか
戦いの前の戦い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
71/74

第44-3話 そして終焉へ(3)

観戦武官天幕では、残り二十分を切っていた。


立体戦場図は朝とは別物になっている。


中央では青白両軍が激突している。


北では両軍部隊が移動中。


南は白軍が維持。


東橋も白軍。


その西側の指定拠点だけが、青へ変わった。


一人の武官が聞いた。


「これで青軍が上か?」


評価担当は即答しなかった。


「現時点では僅差です」


「どちらが」


「青軍」


白軍側を見ていた武官が眉をひそめる。


「拠点一つで?」


「拠点だけではありません」


残存戦力、継戦能力、交通路、領域、損耗。


すべてが統合される。


白軍は領域確保で優勢。兵站評価も高い。


青軍は残存継戦能力で優勢。


そして、最終指定拠点の一つを確保した。


     *


残り十五分。


白軍本部にも、おおよその状況は分かっていた。


正確な総合点は学生には知らされない。


だが、ヒルデガルドは察している。


「東の拠点」


白軍総指揮官が答える。


「奪還できる部隊はない」


マリエッタが言う。


「東橋守備を出せば」


「橋が落ちる」


「はい」


ヒルデガルドは時間を見る。


「中央を下げて予備を作る?」


総指揮官が首を振った。


「ガイウスが来る」


「……そうね」


どの選択にも代価がある。


白軍は、最後まで広い。


ヒルデガルドは地図を見る。


朝なら、エリアスが何をするかを考えた。


今は違う。


ガイウスが何をするのか。


リオネルが何をするのか。


青軍の別の指揮官が何をするのか。


そしてエリアス自身も、全部は決めていない。


それが一番読みづらい。


「東橋は守る。中央も維持」


ヒルデガルドが言った。


白軍総指揮官が聞く。


「拠点は?」


少し笑う。


「諦めます」


マリエッタが見る。


「いいんですか?」


「取り返すために別の何かを壊す方が、たぶん悪い」


白軍総指揮官が頷いた。


「了解」


白軍は最後の配置を維持した。


     *


残り五分。


ガイウスは中央前線で時間を知らされた。


「あと五分!」


副官が叫ぶ。


「押しますか!」


白軍は目の前にまだいる。


「押す!」


青軍が前進する。


白軍も耐える。


魔法。


剣。


精霊兵。


部隊フィールド。


両軍とも黄色。


一部は赤。


それでも崩れない。


リオネルは帰路の丘から、遠く中央の魔法光を見ていた。


「すごいな」


副官が聞く。


「戻ります?」


「もう間に合わない」


「では?」


「見る」


「いいんですか」


「仕事しただろ」


     *


エリアスは青軍本部で、もう何もしなかった。


出す命令がない。


中央はガイウス。


東は別部隊。


リオネルは帰投中。


総指揮官が全体を維持している。


あとは現場だった。


残り一分。


観戦天幕でも誰も話さなくなった。


立体戦場図には、白軍の広い領域と青軍の狭い領域が残っている。


ただし、東の指定拠点だけは青い。


三十秒。


中央は白軍が持つ。


東橋も白軍。


東指定拠点は青軍。


南部も白軍。


十秒。


ガイウスが最後の攻撃をかける。


白軍が耐える。


五秒。


青軍東部指揮官が、拠点外縁にいた精霊兵を内側へ戻す。


三秒。


管理精霊が占有判定を示す。


青。


演習終了。


     *


魔導通信に一斉停止信号が流れ、戦場が静かになった。


ガイウスは剣を下ろす。


向かいの白軍学生指揮官も息を吐いた。


精霊兵たちは、その場で停止した。


しばらくして判定が出る。


白軍は領域確保と兵站維持で優勢。初期から中盤の作戦でも優勢。


戦術戦果は、ほぼ互角。


青軍は残存継戦能力と終盤作戦で優勢。最終指定目標でも上回った。


総合判定。


青軍、僅差優勢。


     *


青軍本部では歓声が上がった。


ただし、それほど大きくはない。


皆、疲れていた。


それに、勝ったと言われても、白軍より上だったという実感があまりない。


ガイウスが戻ってくる。


「勝った?」


リオネルが答える。


「らしい」


「らしいって何だ」


「俺、最後ほとんど戦ってないし」


やがて、マリエッタとヒルデガルドも白軍側から歩いてきた。


演習区域中央。


もう敵味方ではない。


ヒルデガルドが最初に言った。


「負けた」


エリアスが答える。


「僅差だよ」


「負けは負け」


マリエッタが言う。


「兵站では勝ちました」


エリアスはすぐ頷いた。


「完全に」


マリエッタが少しだけ嬉しそうな顔をする。


ガイウスが聞く。


「俺は?」


ヒルデガルドは即答した。


「うるさかった」


「褒めてる?」


「半分くらい」


リオネルが笑った。


     *


少しして、リオネルがエリアスを見る。


「なあ」


「何?」


「俺、最後かなり勝手に動いたけど」


「うん」


「怒らない?」


「なんで?」


「予定の場所、ほとんど行ってない」


「知ってる」


「道路も勝手に止めた」


「それも聞いた」


「じゃあ」


エリアスは少し不思議そうな顔をした。


「そのために任せたんだけど」


リオネルが止まる。


ヒルデガルドもエリアスを見る。


「そこ」


「何?」


「昔と変わったわね」


「そう?」


「そうよ」


マリエッタも小さく頷いた。


ガイウスが聞く。


「何が変わった?」


リオネルが答える。


「俺に勝手にやらせるくらい、雑になった」


「違うでしょう」


ヒルデガルドが即座に返した。


     *


その時、戦場にいた精霊兵が消え始めた。


一体。


また一体。


半透明の兵士たちが光の粒になっていく。


大隊、中隊、小隊。


数千人いたはずの戦場が、急速に空になる。


残ったのは、学生、中央軍の下士官、泥、壊れた演習用道路、天幕。


そして広い野原だった。


ガイウスが周囲を見る。


「急に寂しいな」


リオネルが答える。


「さっきまで軍隊だったからな」


マリエッタが言う。


「実際には、最初からこのくらいの人数ですけど」


ヒルデガルドが苦笑した。


「言わない方がいいこともあるのよ」


エリアスは、消えていく最後の精霊兵を見ていた。


盤上では駒だった。


今回も大部分は精霊だった。


それでも。


誰かが動かした。


誰かが食料を計算した。


誰かが情報を集めた。


誰かが疲れた。


誰かが判断した。


一人ではできなかった。


挿絵(By みてみん)


     *


観戦武官天幕では、まだ誰も帰っていなかった。


立体戦場図は停止したまま、最後の配置を示している。


一人の武官が言う。


「アルトハウゼン生は、青軍の意図を何度も読んでいた」


学院教官が答える。


「はい」


「セラン生の兵站も最後まで崩れなかった」


「はい」


「レオニス生は戦術戦闘で強い」


「はい」


別の武官が、北から高台へ伸びた青い軌跡を見る。


「これは?」


「ヴァレンティ生です」


「フェルマー生の指示か」


教官が記録票を見る。


「目標と撤退条件だけです」


「経路は?」


「現地判断」


「道路阻害も?」


「ヴァレンティ生自身の判断です」


武官は少し黙った。


別の者が聞く。


「では、青軍の勝因は誰だ?」


教官は立体戦場図を見る。


レオニス生。


ヴァレンティ生。


総指揮官。


各部隊。


青軍兵站。


通信。


偵察。


そしてフェルマー生。


「一人にすると」


少し考える。


「間違えると思います」


     *


天幕の外では、五人が学院へ戻る準備をしていた。


その頃、別の机では評価票が積まれていく。


青軍と白軍。


勝った者と、負けた者。


前線に立った者と、後方で支えた者。


学生たちはまだ知らない。


この演習について、これから一番長く話すのは自分たちではない。


軍事演習は終わった。


だが、彼らの名前をめぐる話は、すでに始まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。