第44-2話 そして終焉へ(2)
中央前線で通信精霊が光った。
ガイウスは命令票を受け取る。
読む。
もう一度読む。
そして笑った。
「副官」
「はい」
「今度は行っていい」
「どこまで?」
ガイウスは紙を見せた。
敵中央線を突破し、指定高地まで前進。敵主力を拘束せよ。
「止められるまでだ」
副官が笑う。
「分かりやすいですね」
「やっとな」
ガイウスが剣を抜く。
「全隊、前進準備!」
管理精霊が一斉に光り、青軍第一大隊の部隊フィールドが広がった。
*
白軍本部には、すぐに報告が入る。
「青軍中央、前進!」
ヒルデガルドが目を閉じた。
「来た」
白軍総指揮官が言う。
「中央予備を戻す」
「今戻したら、高台交差路を取れません」
「ではガイウスを止められない」
「分かっています」
ヒルデガルドは地図を睨む。
エリアスが交差路を取らせた。
こちらが対応し、中央が薄くなる。
そこへガイウス。
単純できれいな連動だった。
でも。
「これだけ?」
マリエッタが聞く。
「何がです?」
「エリアスなら、これで終わらない気がする」
「では、まだ何か?」
「分からない」
白軍総指揮官が促す。
「判断を」
ヒルデガルドは決めた。
「高台奪還は続行。ただし中央へ、南防御線から一個小隊を移します」
マリエッタの顔が変わる。
「南が薄くなります」
「分かってる」
「補給は出せます。でも、移動に一刻半」
「それでも」
マリエッタは地図を見る。
南側。
青軍は、空いた集落を取らなかった。
だから白軍も、そこを完全には警戒していない。
「……分かりました」
*
ガイウスの攻勢は、これまでで最も激しかった。
白軍中央も迎え撃つ。
魔法弾。
防御幕。
弓矢。
精霊兵が次々と損耗し、光となって消える。
青軍は兵力優勢。
白軍は地形優勢。
正面は狭い。
ガイウスは全部を押し込まなかった。
「左中隊、止まれ! 右を二十歩開けろ!」
白軍の魔法攻撃が右へ流れる。
その隙に中央へ命令が飛ぶ。
「前へ!」
青軍歩兵が一気に入る。
白軍は防ぐ。
一度押し返す。
ガイウス自身が前へ出た。
魔法強化。
青軍支援火力。
もう一度。
白軍防御膜が砕ける。
それでも白軍は逃げない。
指揮官役の学生が後方から部隊を整理し、局地戦は激しく続いた。
だが、本当に重要な変化は別の場所で起きていた。
*
白軍南部では、中央へ一個小隊を出した直後、青軍の小規模偵察部隊が現れた。
攻撃するほどではない。
見るだけ。
白軍側学生指揮官は報告する。
「青軍偵察確認。規模小」
白軍本部でヒルデガルドが答えた。
「増援は出さない」
「しかし」
「偵察よ」
情報担当が聞く。
「後続がいる可能性は?」
「ある」
マリエッタが南部補給量を見る。
「今なら南は維持できます。ただし中央へもう一個送るなら無理です」
白軍総指揮官は頷いた。
「中央は今いる戦力で持たせる」
*
高台交差路では、リオネルが白軍増援を確認していた。
「二方向から来ます」
副官が地図を見る。
「そろそろ帰ります?」
「命令上は帰っていいです」
「なら帰ろう」
「もう少し」
「何するんです?」
リオネルは道路を見る。
白軍輸送列は止まったまま。その後ろに荷車、伝令、部隊が詰まっている。
「壊せるものないかな」
「演習です」
「知ってるよ」
見つけたのは、小さな農業用水路を渡る木橋だった。
精霊兵も荷車も渡れる。
ただし狭い。
「ここ」
副官が聞く。
「何を?」
「魔法葡萄弾、残ってる?」
「二発」
「橋には当てない」
「では?」
「橋の手前」
前日の雨で柔らかくなった地面。
「穴にしよう」
二発の演習用魔法葡萄弾が地面へ撃ち込まれた。
炸裂。
泥と土が跳ねる。
路面が大きく崩れた。
橋そのものは無傷。
だが、荷車が通るには補修が必要になった。
判定役の下士官が確認する。
「道路損傷。荷車通行制限」
リオネルが頷く。
「よし」
「帰ります?」
「帰る」
「やっと」
青軍軽装部隊は撤退を始めた。
*
白軍の奪還部隊が到着した時、交差路に青軍はいなかった。
白軍学生指揮官は、泥と損傷した路面、止まった荷車を見る。
「……やられた」
すぐに本部へ報告する。
マリエッタはその紙を一度読み、もう一度読んだ。
「道路損傷?」
「はい。橋は使用可能ですが、荷車は補修まで通れません」
「どのくらい?」
「工兵判定、最短一刻」
マリエッタは黙る。
ヒルデガルドが見る。
「まずい?」
「演習全体から見れば、大きくはありません」
「なら」
「でも、南から中央への補給増量ができません」
中央ではガイウスが攻勢を続けている。
白軍補給にも圧力がかかっている。
「今、必要なんです」
*
ヒルデガルドは地図を見る。
交差路。
中央。
南。
東橋。
青軍が取ったものは、ほとんどない。
高台も放棄した。
南部集落も空白のまま。
東橋も白軍が保持している。
それなのに、白軍は動かされている。
「エリアス……」
ヒルデガルドが呟く。
マリエッタは首を振った。
「違うと思います」
「何が?」
「道路を壊したのは、リオネルでは?」
ヒルデガルドも止まった。
そして、小さく笑った。
「そうね」
*
青軍本部には、リオネルから通信が届いていた。
高台交差路離脱。白軍輸送路一時阻害。帰投中。
エリアスが読む。
総指揮官が聞く。
「道路を止めた?」
「みたいです」
軍務参謀が言う。
「指示したのか?」
「してません」
「では」
「リオネルです」
エリアスは地図を見る。
中央ではガイウスが押している。
白軍中央への補給は遅れる。
残り時間は二刻弱。
総指揮官が言った。
「今なら中央を取れる」
エリアスは頷く。
「はい」
「そして?」
エリアスが初めて東橋を見る。
ずっと白軍が持っていた橋。
「東は?」
軍務参謀が驚く。
「今さら?」
「白軍は中央と北へ予備を出した」
「東橋の守備はまだいる」
「います」
「ガイウスは中央だ」
「別の部隊でいいです」
総指揮官が聞く。
「目的は?」
「橋を取ることじゃありません」
エリアスは東橋西側の指定拠点を指した。
演習最終判定対象。
「ここへ圧力をかけます」
軍務参謀が聞く。
「また動かすだけ?」
「はい」
「何のため」
エリアスは時間を見る。
「白軍に、最後の予備をどこへ置くか決めてもらいます」
*
白軍本部へ、東側青軍部隊前進の報告が届いた。
ヒルデガルドが本当に嫌そうな顔をした。
「今?」
マリエッタが答える。
「東橋予備は薄いです」
「守れる?」
「橋だけなら」
「拠点まで?」
「厳しいです」
中央ではガイウスが押している。
北の奪還部隊は帰還途中。
南からは一個小隊を中央へ移動中。
白軍総指揮官が聞いた。
「最後の予備は?」
「一個小隊」
「どこへ」
誰もすぐには答えなかった。
ヒルデガルドは目を閉じる。
エリアスなら、どこを欲しがる。
中央は戦略価値が高い。
東は得点が高い。
ただし、どちらも単独では決定打ではない。
だから。
エリアスは、どちらでもいい。
白軍がどちらかを捨てること。
それ自体が目的。
ヒルデガルドが目を開いた。
「中央」
白軍総指揮官が確認する。
「東を捨てる?」
「橋は残存兵力で守らせます。拠点は取られても構いません」
マリエッタが言う。
「総合点では」
「分かってる」
「本当に?」
ヒルデガルドは苦笑した。
「エリアスに似てきた気がする」
*
白軍最後の予備が中央へ向かった。
その判断は間違っていなかった。
ガイウスの攻勢は本当に危険だった。
最後の一個小隊が到着しなければ、中央の白軍防御線は崩れていた可能性が高い。
白軍は持ちこたえた。
青軍の損耗も増える。
ガイウスの部隊フィールドは緑から黄色へ。
白軍中央も黄色。
双方、ぎりぎりだった。
一方、東では青軍の別部隊が前進する。
白軍橋頭堡は抵抗し、橋そのものは落ちない。
だが、橋西側の指定拠点は守備が薄い。
青軍学生指揮官が判断した。
「橋は攻めるな。拠点へ!」
白軍も気づく。
しかし、間に合わない。
青軍が指定拠点へ進出した。




