↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王国を読む者たち I - 統学院の五人  作者: なみみか
戦いの前の戦い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
66/74

第42-2話 取り返さない攻勢(2)

ヒルデガルドは地図上の駒を動かした。


「南を下げます」


総指揮官が聞く。


「結局?」


「はい。でも、全部じゃない」


南部集落から主力を後退させる。


その北。


高地。


道路。


「ここで止める」


マリエッタが見る。


「補給距離は三割ほど縮みます」


「東は?」


「維持できます」


「中央予備は?」


「戻せます」


ヒルデガルドが頷いた。


「なら、それで」


白軍総指揮官が聞く。


「南部集落を青軍に返すことになるぞ」


「取りに来れば」


「来なければ?」


ヒルデガルドは少し笑った。


「もっと面白いですね」


     *


午後。


白軍南部で撤収が始まった。


青軍偵察が確認し、報告が本部へ入る。


「白軍、南部集落から後退」


軍務参謀が立ち上がった。


「今だ」


総指揮官が見る。


「何が」


「奪還です。空いた」


別の学生も同意する。


「領域点を戻せます」


エリアスは地図を見る。


南部集落。


白軍は後退。


集落そのものは、ほぼ無傷。


「行かなくていいと思います」


軍務参謀が振り返る。


「またか」


「白軍が下がった理由は、中継地点を取ったからです」


「だから成功したんだろう」


「はい」


「なら成果を取るべきだ」


「成果はもう取っています」


「何を?」


エリアスは白軍の新しい線を見る。


短くなった。


「向こうを下げました」


「土地は?」


「いりません」


軍務参謀の顔が、明らかに不満になる。


「演習判定では土地も点になる」


「分かっています」


「なら」


「南部集落へ行けば、僕たちもまた広くなります」


静かになった。


エリアスは昨日まで白軍がいた場所を見る。


「同じことをしたくないです」


     *


青軍総指揮官が聞く。


「では放置するのか?」


「偵察だけ置きます」


「白軍が戻れば?」


「また考えます」


「領域点は捨てる?」


「今は」


総指揮官は少し考えた。


「採用する」


軍務参謀は何も言わなかった。


     *


観戦武官天幕。


白軍は南から後退。


青軍は追わない。


立体図上、その間に奇妙な空白ができた。


一人の武官が首を傾げる。


「誰もいない」


「はい」


「得点地点だぞ」


「はい」


「青軍は取らないのか」


学院教官が答える。


「取らないようです」


武官が少し笑った。


「学生演習で、土地を取らない戦争を始めたか」


別の武官が言う。


「だが白軍を下げた」


「青軍は進んでいない」


「それでも白軍は狭くなった」


     *


少し離れた席。


官吏らしい服装の観戦者が、記録用紙に何かを書いていた。


隣の軍人が見る。


「誰を見ている」


「参謀です」


「フェルマー生?」


「それだけではありません」


視線を白軍側へ移す。


「兵站担当の学生も」


「セラン生か」


「そうです」


官吏は白軍の輸送線を見る。


「撤退判断を可能にしたのは、あの数字でしょう」


     *


夕方。


雨はほぼ止んだ。


ガイウスの第一大隊は、中継地点から帰還した。


泥だらけ。


だが、損耗は少ない。


「勝った」


ガイウスが言う。


リオネルが振り向く。


「また?」


「今回は一方的」


「すごいすごい」


「軽いな」


ガイウスは水を飲み、地図を見る。


南部集落。


空白。


「取らなかったのか」


「うん」


「せっかく下がったのに」


「うん」


ガイウスは少し考える。


「前なら、俺、怒ってたな」


リオネルが聞く。


「今は?」


「……ちょっと怒ってる」


「変わってないじゃん」


「でも」


ガイウスは地図を見る。


白軍は昨日より狭い。


「俺たち、あそこまで行ってないんだよな」


「うん」


「なのに、向こうが下がった」


「うん」


ガイウスが呟く。


「変な感じだ」


エリアスも地図を見る。


「僕も」


     *


白軍本部。


ヒルデガルドも、同じ空白を見ていた。


「来なかった」


マリエッタが答える。


「ですね」


「普通、取るでしょう」


「領域点がありますから」


「取らなかった」


「はい」


ヒルデガルドは椅子の背にもたれた。


「嫌ね」


「何がです?」


「私なら」


少し考える。


「たぶん、取ってた」


マリエッタが言う。


「昨日までなら?」


ヒルデガルドが彼女を見る。


「何、その言い方」


「いえ」


少し笑った。


     *


白軍総指揮官が地図の前へ来た。


「明日以降だが」


二人が見る。


「戦線は安定した。東橋は維持。南は新防御線。中央も再編できる」


ヒルデガルドが頷く。


「はい」


「青軍も攻めてこない」


「今日のところは」


「なら」


総指揮官は青軍側を見る。


「次はこちらから動くべきかもしれない」


ヒルデガルドの目が少し変わった。


マリエッタは輸送表を見る。


「どの程度なら可能か、計算します」


     *


夜。


観戦武官天幕。


判定上は、まだ白軍優勢だった。


東橋は白軍が保持。南部前方からは後退したものの、領域点もなお白軍が上回る。中央中継地点は青軍が確保した。


一方で、両軍とも戦線を短縮したことで継戦能力は回復し始めていた。


一人の武官が言う。


「振り出しに戻ったように見える」


別の者が答える。


「違う」


「何が」


「最初は、互いに相手を知らなかった」


立体図。


白と青。


二つの軍が向かい合う。


「今は知っている」


     *


その頃。


青軍本部では、エリアスが翌日の地図を作っていた。


リオネルが横から覗く。


「何してる」


「白軍が攻めるなら、どこかなって」


「攻めると思う?」


「たぶん」


「なんで?」


エリアスは今日、白軍が下がった線を見る。


短い。


補給距離も縮んだ。


予備も戻る。


部隊も休める。


「僕なら」


一度、言葉を止めた。


「攻められるようにするために、下がるから」


リオネルが少し嫌そうな顔をする。


「お前とヒルデガルドって」


「何?」


「似てないのに、時々すごく嫌なところで話が通じるよな」


エリアスは地図から顔を上げた。


「そう?」


「褒めてない」


     *


同じ頃。


白軍本部でも、ヒルデガルドが地図を見ていた。


マリエッタが計算結果を置く。


「明日なら」


「うん」


「一個大隊相当を、半日だけ攻勢運用できます」


「半日」


「それ以上は予備輸送力を食います」


「十分」


ヒルデガルドは青軍側を見る。


エリアスが戦場を小さくした。


だから白軍も、小さくした。


そして。


小さくなった戦場には、もう一度、戦力を集中できる。


「じゃあ」


ヒルデガルドは新しい駒を取った。


「今度は、こっちから行きましょう」


白い駒が。


青軍中央へ置かれた。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。