↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王国を読む者たち I - 統学院の五人  作者: なみみか
戦いの前の戦い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
62/74

第40-2話 白軍優勢(2)

観戦天幕では、ガイウスの部隊を示す大きな青い矢印が、白軍の小さな矢印を押し潰すように前進していた。


「強いな」


武官の一人が言った。


「局地指揮も悪くない」


別の者が頷く。


「魔法だけではないな。兵を止めていない」


「損耗は?」


「一割弱」


「白軍は?」


「三割近い」


明確な勝利だった。


ガイウスの部隊の継戦能力も、まだ十分に高い。


武官が言った。


「これなら追える」


学院教官は何も答えなかった。


立体図の別の場所を見ていた。


南。


白軍が前進している。


     *


集落。


ガイウスは、それに気づいていない。


目の前では白軍が逃げている。


あと少し押せば、さらに削れる。


副官が聞く。


「追撃しますか?」


ガイウスは剣を持ったまま、敵を見る。


行ける。


勝てる。


たぶん。


その時、通信精霊が光った。


目標地点確保後、停止。追撃禁止。


エリアスではない。


青軍総指揮官名義。


ガイウスは、しばらく紙を見た。


「……止まれ!」


青軍前衛が止まる。


「追うな! 集落外縁まで戻せ!」


副官が少し驚く。


「よろしいんですか?」


「命令だ」


剣を鞘へ戻す。


「それに」


逃げていく白軍を見る。


「たぶん、あいつがうるさい」


     *


青軍本部。


集落確保の報告に、小さな歓声が上がった。


軍務参謀が地図に青軍印を置く。


「中央、勝った」


「うん」


「ガイウス、追わなかったな」


「偉い」


「子供扱いするなよ」


「褒めてる」


その時。


南から通信が入った。


青軍情報担当が一枚目を読む。


顔が変わる。


「南部集落」


総指揮官が振り返る。


「何だ」


「白軍が侵入」


もう一枚。


「守備隊、後退」


さらに。


「白軍騎兵を確認。規模不明」


会議室の空気が変わった。


中央では青軍勝利。


南では白軍前進。


東には白軍橋頭堡。


軍務参謀が呟く。


「同時か」


エリアスは、すぐに時刻を見る。


中央でガイウスが白軍前衛と接触した頃、南でも白軍が動いている。


偶然ではない。


「中央を見てたんだ」


総指揮官が聞く。


「何?」


「僕たちが中央へ主力を出すのを」


     *


白軍本部。


南部集落確保の報告。


ヒルデガルドは、大きく喜ばなかった。


「中央は?」


「前衛後退。損耗三割。指揮官戦も敗北」


白軍総指揮官が苦い顔をする。


「高くついたな」


「はい」


ヒルデガルドも認める。


「ガイウス、強すぎ」


マリエッタが聞く。


「予想より?」


「少し」


「では、失敗ですか?」


ヒルデガルドは地図を見る。


中央は青軍が集落を確保した。


だが、そこで止まっている。


南は白軍。


東橋も白軍。


「いいえ」


指を中央から南へ動かす。


「ガイウスを、ここに置けた」


マリエッタも意味を理解する。


中央で勝った青軍第一大隊は強い。


しかし、今すぐ南へは行けない。


戦闘直後の部隊再編、損耗整理、魔力回復。その後に、移動。


「南への増援が遅れますね」


「ええ」


白軍総指揮官が聞く。


「なら、南をさらに押すか?」


ヒルデガルドはマリエッタを見る。


マリエッタは首を振った。


「予定線までです」


「理由は?」


「補給が伸びます」


「一日なら?」


「できます」


「なら」


「できますが」


マリエッタは南部街道を指した。


「ここから先は道路が悪いです。荷車一台あたりの往復時間が増えます。輸送量を維持するなら、東か中央から荷車を回す必要があります」


「東橋が薄くなる」


「はい」


「中央の再編も遅れる」


「はい」


総指揮官が地図を見る。


「止めよう」


「賛成です」


ヒルデガルドも頷いた。


「十分です」


     *


午後。


戦況は、見た目だけなら白軍優勢だった。


白軍は東橋と南部集落を確保。青軍は中央集落を奪っている。


領域では白軍が広い。


青軍第一大隊は局地戦で勝った。白軍前衛を撃破し、指揮官戦にも勝利。損耗も少ない。


だが、その勝利で戦域全体が青くなったわけではない。


     *


夕方。


ガイウスが本部へ戻ってきた。


泥と汗にまみれている。


それでも、機嫌は悪くない。


「勝ったぞ」


リオネルが迎える。


「聞いた。相手の指揮官、瞬殺したって?」


「三合だ」


「細かいな」


「大事だ」


エリアスも地図から顔を上げた。


「お疲れ」


「おう」


ガイウスは水を飲み、地図を見る。


止まった。


「……南、何だこれ」


リオネルが答える。


「お前が華々しく勝ってる間に取られた」


「俺のせいか?」


「誰も言ってない」


「言い方がそうだろ」


ガイウスは南部集落を見る。


次に東橋。


そして、自分が取った中央集落。


「勝ったのに」


誰に言うでもなく、呟く。


エリアスが答えた。


「勝ったよ」


「でも、負けてるみたいだ」


「全体では、今は白軍が優勢」


ガイウスがエリアスを見る。


「こういうこと、あるんだな」


「あると思う」


「お前、知ってた?」


「図上では」


「実際は?」


「初めて」


ガイウスは、もう一度地図を見た。


「気分悪いな」


リオネルが笑う。


「負けるより?」


「勝ったのに悪い方が、もっと悪い」


挿絵(By みてみん)


     *


夕刻。


観戦武官天幕の立体戦場図は、朝とはかなり違っていた。


白軍は東と南へ広がり、青軍は中央に凝集している。


ガイウスの第一大隊は残存兵力こそ大きいものの、戦闘、移動、魔力消費、小さな損耗が積み重なり、継戦能力を落としていた。


一方、白軍の各部隊も無傷ではない。それでも、広い地域を維持しながら戦力を残している。


一人の中央軍武官が、ガイウスの部隊表示を指した。


「ここだけ見れば、青軍の圧勝だ」


隣の武官が答える。


「だが、戦域は白い」


「アルトハウゼン生か」


「作戦面では大きいでしょう」


別の席。


軍務ではない官服の男が聞く。


「南への補給を成立させた学生は?」


学院側の記録官が名簿を確認する。


「セラン生。白軍兵站参謀です」


「商家の出か」


「はい」


男は、その名前を書いた。


     *


夜。


青軍本部では、その日最後の戦況整理が行われていた。


総指揮官が言う。


「明日は中央から圧力をかける」


軍務参謀が続く。


「東橋奪還も検討すべきです」


別の者も言った。


「南を戻さないと、領域点で負ける」


意見が飛び交う。


エリアスは地図を見ていた。


東は白軍。


南も白軍。


中央は青軍。


白軍は強い。


ヒルデガルドが局地を動かし、その後ろをマリエッタがつなぐ。


そして、白軍総指揮官も無理をしない。


「エリアス」


総指揮官に呼ばれた。


「何かあるか」


「まだ」


「まだ?」


「考えてます」


軍務参謀が少し苛立つ。


「このままなら白軍優勢だぞ」


「はい」


「なら動かないと」


「はい」


「何を考えてる」


エリアスは、地図の端から演習区域全体を見た。


東。


南。


中央。


それから、補給拠点、道路、河川。


白軍が確保した地域。


その広さ。


「白軍」


呟く。


「広くなったな」


ガイウスが言う。


「そりゃ、取られたからな」


「うん」


エリアスは白軍の領域を指で追った。


東から南へ。


そして、後方へ。


「広い」


もう一度言った。


今度は、少し違う意味で。


     *


観戦武官席では、立体戦場図がそれをもっと明確に示していた。


白軍の展開範囲は大きい。


青軍は小さい。


一人の武官が言う。


「明日、青軍はどうする」


学院教官が答える。


「分かりません」


「参謀は?」


「考えているようです」


「何を」


教官は青軍本部を示す光を見る。


「たぶん」


少し間を置いた。


「負け方を」


     *


その夜の判定は、白軍優勢だった。


白軍は中央で敗北したものの、東橋と南部集落を確保し、戦域全体では前進している。対する青軍は中央戦に勝利し、主力も健在だったが、確保地域では後退していた。


ガイウスは勝った。


白軍前衛は負けた。


それでも、地図を広げれば白軍の方が大きかった。


そしてエリアスは、その大きくなった白軍をずっと見ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。