↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王国を読む者たち I - 統学院の五人  作者: なみみか
勝利条件を疑え

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/74

第30-2話 盤上の戦争(2)

対戦。


ガイウスは、また強かった。


重装歩兵を中央へ。


軽歩兵を森林へ。


騎兵を街道へ。


一つの手番で、それぞれを迷いなく動かしていく。


分かりやすい。


だが、崩れない。


騎兵を動かせる場所があっても、不用意には出さない。


軽歩兵も深追いさせない。


相手が攻めれば、別の兵種が支える位置に必ずいる。


「正面から来いよ」


「嫌だよ」


相手が即答した。


「なんで?」


「お前が待ってるからだよ!」


     *


リオネルは速い。


軽歩兵と騎兵を多用する。


自分の手番になると、正面戦闘を避けながら、側面、後方、空いた場所へ次々と駒を滑り込ませる。


ただし。


「本陣!」


「あ」


攻撃へ夢中になると、自分の指揮所を空ける癖がある。


手番を終えた時には、指揮駒の周囲が見事に薄くなっていた。


相手の手番。


敵の軽歩兵が隙間を抜ける。


指揮駒へ飛び込む。


短剣が閃き、光が消えた。


「またですか?」


マリエッタが言った。


「攻める方が楽しいんだよ」


「戦争は楽しさでやるものではありません」


「ゲームだからいいじゃん」


「ヴァレンティ生」


教官の声。


「はい」


「今の発言、記録しておくぞ」


「撤回します」


     *


ヒルデガルドの対戦相手は、軍務志望の男子学生だった。


成績上位。


序盤。


彼女は丘を取らなかった。


見ていた学生がざわつく。


中央の丘。


明らかな要地。


相手が占領する。


弓兵を上げ、重装歩兵で守る。


盤石。


その代わり、左翼が薄くなった。


ヒルデガルドはそこへ行かない。


右翼へ兵を寄せる。


相手も次の手番で対応する。


今度は中央が少し薄くなる。


「何してるんだ?」


ガイウスが呟く。


エリアスも盤を見る。


分からない。


三ターン。


四ターン。


互いの配置が少しずつ変わっていく。


五ターン目。


相手は騎兵を街道へ出した。


ヒルデガルドの右翼へ圧力をかけるためだった。


続いて弓兵の向きを変え、重装歩兵を一つ前へ出す。


「終了」


相手が告げる。


ヒルデガルドの手番。


彼女は盤全体を見た。


相手の騎兵は街道。


重装歩兵は丘の前面。


弓兵の射線は右翼へ向いている。


次の相手の手番までは、どれも動かない。


「軽歩兵、森林を抜けて左へ」


淡い緑光をまとった駒が木々の間を走る。


「騎兵、中央街道」


青い光が盤上を滑る。


「弓兵、丘の南側へ」


三つの部隊が次々に位置を変える。


最後に中央の歩兵を進めた。


相手の顔が変わる。


騎兵を戻すか。


弓兵の射線を戻すか。


丘の重装歩兵を動かすか。


次の手番では全軍を動かせる。


それでも、一つの部隊を二つの場所には置けない。


相手が迷う。


その迷いが、配置に出た。


次の手番。


ヒルデガルドが中央へ突入した。


     *


重装歩兵同士がぶつかる。


小さな盾と盾が衝突し、淡い光が弾けた。


側面から軽歩兵。


さらに騎兵。


相手の指揮駒を包んでいた光が消える。


駒が倒れた。


勝利。


「どうして丘を取らなかった?」


教官が聞いた。


「取らせたかったからです」


「なぜ?」


「彼は、要地を取ったら守りたくなると思いました」


対戦相手が苦笑する。


「俺を見てたのか」


「前の二試合を」


「地形ではなく?」


「両方です」


教官は記録板に何かを書いた。


挿絵(By みてみん)


     *


エリアスの番。


相手は別の軍務志望。


開始。


エリアスは中央の丘を取った。


合理的だった。


弓兵を配置し、騎兵を街道へ出し、軽歩兵を森林へ入れる。重装歩兵は中央を支える。


一つの手番で、各部隊を無駄なく配置した。


きれいだった。


教科書通り。


相手も教科書通りに見えた。


しばらく互角。


エリアスは考える。


相手の次の手番。


最も合理的なのは、中央を維持しながら右翼の騎兵を前進。弓兵は丘の射界を確保。軽歩兵は森林を使って側面へ。


なら、自分はその次に。


相手の手番が始まった。


騎兵が動く。


予想通り。


弓兵も動く。


これも予想通り。


軽歩兵が。


反対側へ行った。


「え?」


対戦相手が顔を上げる。


「何?」


「そっちに行くの?」


「行っちゃ駄目?」


「いや」


さらに、中央の重装歩兵を一歩下げた。


エリアスは盤を見る。


最善ではない。


たぶん。


でも、面倒だった。


一つなら修正できる。


二つ、三つと想定外の配置が重なると、考えていた次の局面そのものが消える。


自分の手番。


組み直す。


配置を変える。


次の相手の手番。


また。


予想と違う。


「……なんで?」


対戦相手が笑う。


「知らないよ」


     *


十二ターン目。


エリアスは中央の攻撃に備えていた。


相手の重装歩兵が動く。


中央。


予想通り。


弓兵も射線を取る。


そこまでは読んでいた。


だが。


騎兵が中央へ来なかった。


大きく迂回する。


エリアスの指揮所へ。


「そっち?」


気づいた時には遅かった。


直前の自分の手番で、騎兵を中央へ寄せすぎている。


相手の騎兵が指揮駒へ届いた。


小さな剣が振り下ろされる。


青白い光が消え、指揮駒が倒れた。


エリアス、敗北。


「また負けた」


リオネルが言った。


「見れば分かる」


「エリアスさ」


「うん」


「相手が一番いい動きをすると思ってない?」


エリアスが見る。


「普通そうじゃない?」


「普通じゃないと思う」


ヒルデガルドも来る。


盤を見る。


「あなた、相手じゃなくて盤と戦ってるのね」


エリアスは少し考えた。


「盤は嘘つかないから」


「人は?」


「変なことする」


対戦相手が顔を上げる。


「悪かったな」


「悪いとは言ってないよ」


     *


授業終了。


結果が掲示された。


上位には軍務志望者が多い。


ガイウスもいる。


ヒルデガルドは、さらに上。


リオネルは中の上。マリエッタは中位。


エリアスは、ほぼ中央だった。


「へえ」


後ろから声がした。


軍務志望の学生が記録を見ている。


「分析課題の成績と、戦術は別物らしいな」


隣の学生が笑う。


「盤上じゃ数字だけ見ても勝てないってことだろ」


聞こえている。


エリアスは特に何も言わなかった。


結果表を見る。


勝率。


ちょうど半分。


「本当に普通ね」


ヒルデガルドが言った。


「うん」


「悔しくない?」


「少しは」


「少し?」


「僕、将軍になりたいって言ったことあった?」


横にいたガイウスが答える。


「ないな」


「じゃあ別に」


軍務志望の学生たちが、少し離れたところでまた何か話している。


エリアスは気にしない。


代わりに、戦術盤を見る。


駒、地形、敵、味方。


全部、見えている。


それなのに。


相手が何をするのか、よく分からない。


「難しいな」


ヒルデガルドが横を見る。


「何が?」


「人間」


「今さら?」


     *


教官が戦術盤の前に立った。


「次回」


学生たちが振り返る。


教官は盤の上へ手をかざした。


精霊灯が一つずつ消える。


それまで淡い青や緑の光をまとっていた敵の駒が、次々と霧の中へ沈んでいく。


森林の向こう。


丘の向こう。


街道の先。


白い霧が盤面を覆っていった。


「今日まで、諸君には敵が見えていた」


最後に、敵指揮駒の光が消えた。


「次からは、見えない」


ヒルデガルドの目が少しだけ細くなる。


エリアスは、霧に覆われた盤を見る。


「偵察し、推測し、判断する」


教官が学生たちを見回した。


「戦場で、敵が諸君のために駒を並べて待っていてくれると思うな」


終業鐘が鳴った。


誰も、すぐには席を立たなかった。


白い霧の向こうで。


小さな精霊駒が一つ、音もなく動いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。