第14-2話 誰が決めるか(2)
各寮から戻ってきた意見を、記録係がまとめる。
賛成。
条件付き賛成。
反対。
最も多かったのは、条件付き賛成だった。
独立機動班は全体指揮官の指揮下に置く。
通常時は命令に従う。
通信不能、あるいは即応が必要な場合に限り、事前に共有された戦略目標に基づく自主判断を認める。
行動後は、通信が回復し次第、全体指揮官へ報告する。
修正案が再び各寮へ送られる。
大きな異議はなかった。
そこで初めて、方針が確定した。
独立機動班は三つ。
「レオニス生」
進行役が言った。
「提案者として、一班を率いてください」
「はい」
ガイウスは答えた。
「班員は?」
「第一班の五人で」
即答だった。
エリアスは何も言わない。
狙い通りだった。
後方で見ていたハルヴェイン中尉が、隣の教官へ小声で言った。
「レオニス生は、ずいぶん話が上手くなりましたね」
教官がエリアスを見る。
「本人の発想でしょうか」
「本人の発想ですよ」
ハルヴェインは答えた。
一拍置く。
「考え始めた場所が、本人ではないだけで」
*
会議終了後。
大会議室から出たガイウスとエリアスは、他の三人と合流した。
五人はそのまま装備準備室へ向かう。
演習で携行できる装備には重量制限がある。
食料。水。雨具。交換用靴下。応急手当具。簡易天幕。偵察魔道具。地図。信号具。
そして個人装備。
「全部持ったら重い」
リオネルが言う。
「全部必要です」
マリエッタが答える。
「それが困るんだよ」
ガイウスは重量表を見ている。
エリアスは早々に申告した。
「僕、十五キロくらいにしたい」
ガイウスが見る。
「正直だな」
「二十持って一日目で疲れるよりいいでしょう」
「それはそうだ」
リオネルが口を挟む。
「俺なら二十余裕だけど」
「リオネルは十五」
ガイウスが即答した。
「なんで?」
「お前、軽い方が動けるだろ」
「分かってるじゃん」
*
装備一覧を見ていたマリエッタが、突然言った。
「買い足していいんですよね?」
「申請すれば」
ヒルデガルドが答える。
「何?」
「下草刈り鎌」
四人が彼女を見る。
「鎌?」
リオネルが聞き返した。
「農家で使う、柄の長いものです」
両手で長さを示す。
「このくらい」
「武器?」
「違います」
マリエッタは地図を広げた。
丘陵部。
雑木林。
「ここ、春から初夏なら低木と下草がかなり茂っていると思います」
「剣で切れば?」
ガイウスが言う。
「高い枝や太い蔓なら剣鉈でいいです。でも膝下の草を剣で払うのは効率が悪いです」
「そうなの?」
エリアスが尋ねる。
マリエッタが彼を見る。
「農家では誰もそんなことしません」
説得力があった。
「低い草は長柄の鎌。高いものは鉈。役割を分けた方が速いです」
ガイウスが少し考える。
「何本?」
「二本あれば」
「重量は?」
「一本一キロもありません」
エリアスが重量表を見る。
「二本なら許容範囲」
リオネルが笑う。
「軍事演習に農具持っていく班、俺たちくらいじゃない?」
「使えるなら何でもいいでしょう」
マリエッタは真顔だった。
*
申請担当の教官は、装備表を見て一度止まった。
「下草刈り鎌?」
「はい」
マリエッタが答える。
「用途は?」
「丘陵植生突破時の進路確保です」
教官は彼女を見る。
次にガイウス。
エリアス。
「許可します」
判を押す。
それだけだった。
廊下へ出てからリオネルが言った。
「もっと変な顔されると思った」
ヒルデガルドも頷く。
「私も」
エリアスは後ろを振り返った。
教官はもう次の班の書類を見ている。
「何?」
ガイウスが聞く。
「いや」
エリアスは少し考えた。
「簡単に通ったなと思って」
「便利だからだろ」
「そうかな」
ヒルデガルドが見る。
「また何か疑ってる?」
「まだ分からない」
「始まる前からそれ?」
彼女は小さくため息をついた。
*
その日の夕方。
第七寮の談話室。
五人の前には地図と装備一覧が広がっていた。
ガイウスが最終確認する。
「役割を決める」
自分を指す。
「俺が班長」
次にヒルデガルド。
「偵察と対人判断」
リオネル。
「先行偵察、連絡」
マリエッタ。
「地形、水場、野営」
最後にエリアス。
「副官。全体状況、補給、行動時間の管理」
エリアスが頷く。
「あと、ガイウスが変なこと言い出したら止める」
「それ役割に書くな」
マリエッタが笑う。
リオネルも笑った。
ヒルデガルドだけが、少しエリアスを見る。
今日の会議。
ガイウスの提案。
独立機動班。
偶然ではない。
たぶん。
「何?」
エリアスが気づく。
「別に」
彼女はそれ以上言わなかった。
ガイウス本人が考え、納得して提案した。
だが、その考えを始めるきっかけを作ったのは、おそらくエリアスだ。
自分が前に出るのではなく、相手に考えさせる。
そして最後には、相手自身の判断として動かす。
意図してやっているのか。
それとも、いつもの癖なのか。
まだ分からない。
*
消灯前。
第七寮一階の談話室。
他の三人が戻ったあとも、ガイウスとエリアスは地図を見ていた。
「なあ」
「何?」
「会議の時」
「うん」
「お前、自分たちを独立班に入れるところまで最初から考えてた?」
エリアスの手が止まる。
「最初からではないよ」
「どこから?」
「議論聞いてたら、できそうだなって」
「できそう?」
「ガイウスなら、言えば通ると思った」
ガイウスが少し黙る。
「俺を使った?」
エリアスは考えた。
「協力してもらった」
「言い方」
「嫌だった?」
ガイウスは地図を見る。
しばらくして。
「いや」
答えた。
「でも次から先に言え」
「分かった」
「本当に?」
「たぶん」
ガイウスが丸めた紙を投げた。
エリアスが避ける。
「危ないよ」
「避けられるじゃないか」
「そういう問題じゃない」
二人は笑った。
談話室の閉室を知らせる小鐘が鳴る。
明朝。
まだ暗いうちに起床。
装備確認。
朝食。
そして学院外へ。
今夜まで地図の上にしかなかった丘陵を、明日からは自分の足で歩く。
エリアスは壁際に置かれた長柄の鎌を見る。
「本当に使うかな」
ガイウスが答える。
「使わなかったら、ただの重りだな」
実際には。
その鎌は、草を刈るためだけに役立つことにはならなかった。




