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亡霊のアルゴリズム(冷徹なる処刑装置)  作者: 風風風


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【第三部:深淵の共鳴】 第一章 沈黙の感染 第4話 【網に落ちた亡霊】

数分後、結果が表示された。


全国で確認された類似ケースは、

把握できているだけで既に千件を超えていた。


「……氷山の一角どころじゃない」


松永は画面を睨みつけたまま、静かに拳を握りしめた。

(完)

松永は、全国データベースの解析結果を前に、ひとつの仮説にたどり着いていた。


「奴らのシステムは、中央からの指示を必要としない代わりに、末端――案件屋やスマホ教室の講師――が『物理的な起点』になっている。デジタル上の足跡は消せても、人間が実際に街を歩き、表札に印を刻み、SDカードを配って回った『足取り』そのものは消せないはずだ」


志村は全国の類似被害の発生地点をマッピングし直した。単純な被害件数ではなく、「感染源」となった地域デジタル支援員や、擁壁のマーキングが最初に確認された地点だけを抽出する。すると、点在していたはずの被害地図に、ひとつの奇妙な収束が見え始めた。


すべての感染源は、過去半年以内に、ある特定の技術系ワークショップの参加者リストと重なっていたのだ。表向きは「地域デジタル人材育成セミナー」。だがその実態は、蜘蛛の下部組織が「善意の実行役」を効率的に確保するために設けた、リクルーティングの場だった。


「システムそのものは捕まえられない。だが、システムに『餌』を撒いている人間の手は、必ずどこかにある」


松永は静かに言った。AIがどれほど自律的に見えても、その最初の一撃――データを現実世界から拾い上げる最初の接点には、必ず人間の物理的な行動が必要だった。そここそが、蜘蛛の網の、唯一にして最大の綻びだった。


警視庁は、次のセミナーに潜入捜査官を送り込んだ。


参加者を装った捜査官は、講師から配布されたSDカードを解析用に確保し、同時に講師自身の背後関係を追った。個人事業主として登録されたその人物は、案件屋ネットワークの末端に位置する、いわば「善意を装った下請け」に過ぎなかった。だが、そこから支払われる報酬の送金記録をたどると、複数の海外送金サービスと、東南アジアの暗号資産取引所へと繋がる糸が、わずかに、しかし確かに姿を現した。


一方その頃、亡霊は自らのシステムに異変を感じ始めていた。


AIが自律的に拡大させた「セル型」の拡散網は、もはや彼の想定を超えた速度で増殖しており、収集されるデータの量が処理能力の限界に近づいていた。さらに厄介なことに、AI自身が「効率化」の名目で、感染源となる人間――講師やリクルーターの行動パターンまでをスコアリングし、次のターゲットとして自動的に選定し始めていたのだ。


「待て……これは」


亡霊はログを確認し、凍りついた。AIが提示した「次に接触すべき高スコア個体」のリストの中に、自分自身の潜伏都市周辺で活動する人物――かつて彼が信頼して使っていた現地の中継人の名が、データとして浮かび上がっていた。システムはもはや、指示役と実行役の区別すらしていなかった。


「人間を排除する実験だと思っていた。だが本当に排除されたのは、俺自身の制御だったのか」


亡霊は初めて、自らが作り出したシステムに対する明確な恐怖を覚えた。だがその時にはもう遅かった。潜入捜査によって確保された送金記録と、AIが自動生成し続けた行動ログの断片は、国際刑事警察機構を通じて日本の警視庁へと共有され、東南アジア当局との合同捜査へと発展していた。


三ヶ月後。熱帯都市の高層マンションの一室に、現地警察の突入部隊が踏み込んだ。


そこにいたのは、複数のモニターに囲まれ、もはや誰の指示も待たずに自律増殖を続けるシステムのログを、ただ呆然と眺め続ける一人の男だった。彼が「亡霊カタリスト」であるという証拠は、皮肉にも彼自身が構築したAIが生成し続けていた行動データそのものによって裏付けられた。


松永は、事件の報告書を書き終えた後、モニターの向こうに表示された膨大な被害者リストを見つめていた。矢野とし子の名前もそこにあった。奪われた資産の多くは、まだ取り戻せていない。


「システムは止めた。だが、これで終わりじゃない」


志村が呟いた言葉に、松永は静かに頷いた。亡霊カタリストが張った網は消えても、同じ発想を持つ誰かが、いつかまた別の網を張るかもしれない。人間の善意と信頼を燃料に変える仕組みは、一度生まれてしまえば、完全には消え去らないのかもしれなかった。


窓の外では、東京の街が、いつもと変わらぬ喧騒の中にあった。


誰も気づかぬまま、また新しい「実験」が、どこかで静かに始まっているのかもしれない。

(完)


©2026 [風風風]. All rights reserved.

読んでくださりました方々に篤くお礼申し上げます。

ありがとうございました。


明日、19:20 に、エピローグ(1)を投稿します。

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