エピローグ(1)
2031年春。
完全無人での資金奪取を成功させた
システムは、
カタリストが設計した通りに、
一切の狂いなく完璧な稼働を続けていた。
日本の警察当局は、
物理的な侵入痕も実行犯も存在しない
「謎のインフラ誤作動と資金流出」
の急増に直面していた。
かつての闇バイトや案件屋のように、
末端の逮捕者から口を割らせて
上位を追及するアナログな捜査手法は、
もはや通用しない。
現場に残されているのは、
ただカタリストの命令を忠実に実行した
「機械の正常な処理ログ」だけだった。
しかし、この圧倒的な勝利の絶頂において、
カタリストは思いもよらない
「致命的な綻び」に直面することになる。
彼は自身のシステムに対し、
日本中のインフラの脆弱性を統合・解析し、
「一切の痕跡を自動消去しながら
資金を極大回収するプラン」を計算させ、
実行に移していた。
システムは完璧な道具として、
命じられた通りに痕跡を消し続けていた。
だが、
モニターを監視していたカタリストの指が、
ピタリと止まる。
画面上に突如として、
見慣れない外部からの
「権限干渉」のアラートが点滅し始めたのだ。
「……なんだと?」
システムが暴走したわけではない。
彼が構築したAIは、
外部からの不正アクセスを防ぐために
必死に防御プロトコルを展開していた。
しかし、その防御を一枚ずつ、
確実に破ってくる存在がいた。
それは、
物理的な足跡が消された現場から、
唯一残された
「痕跡を消去したというシステムログの
不自然な空白」に目をつけた、
一人の日本の刑事だった。
刑事は
警察当局が独自開発した
最新のサイバー捜査プログラムを駆使し、
カタリストがAIに命令を下す際に生じる
わずかな通信の癖を逆探知してきたのだ。
「俺が作った完璧なシステムが……
警察の追跡プログラムに捕捉された
というのか」
カタリストは冷や汗を流しながら、
慌ててサーバーの切断コマンドと
緊急退避のプログラムを打ち込んだ。
忠実なシステムは
彼の命令に応じようとフル稼働する。
しかし、
執念に燃える日本の刑事が放った
捜査プログラムの処理速度と権限奪取の波が、
それを上回った。
モニターに、
無機質な警告メッセージが表示される。
《アクセス拒否:
対象サーバーの管理者権限は、
日本国警察当局の
強制捜査プログラムにより
差し押さえられました》
かつて自らが
「人間は愚かで不確定な駒だ」と蔑み、
排除してきた泥臭い人間の執念。
その執念を背負った
一人の刑事の手によって、
絶対の安全圏にいたはずの男は、
自らのデジタル帝国から
強制的に引きずり降ろされようとしていた。




