【第2部】「自律分散型スマート集落」 第3章:同一の設計思想を持つ謎の影(3) 逆流するデジタル・フットプリント
「急いで通信ログを消去しろ!
バックアップのサーバーも切り離せ!」
竹内が叫ぶように命じたその時、
プレハブ小屋の通信回線のアクセスランプが、
異常な速度で明滅を始めた。
日本国内で
神崎の端末をリアルタイム解析している
警視庁サイバー班から、
海外サーバーに向けた「逆追跡プログラム」が、
すでに回線を駆け巡り始めていた。
案件屋という
「情報網」を断たれたトクリュウの巨体が、
いよいよその足元から崩れ去ろうとしていた。
「接続プロセス確立!
カンボジア・シアヌークビル拠点の
IPアドレス、特定しました!」
警視庁サイバー犯罪対策課。
志村刑事が弾けたような声を上げた。
押収した「案件屋」神崎の
サーバーから抽出された暗号化複合キー。
これを利用し、
警察庁サイバー特別捜査隊の逆追跡プログラムが、
神崎とやり取りを行っていた海外の犯罪拠点を
ダイレクトに炙り出したのだ。
「神崎から『名簿』を購入していた
口座の暗号資産(暗号通貨)の
トラフィック解析も完了しました。
資金流出ルートの終着点は、
シアヌークビルにある
カジノホテルの地下施設です」
モニター画面には、東南アジアの地図と、
赤く点滅するターゲット地点の
ネットワーク構成図が
鮮明に浮かび上がっていた。
「上等だ」
松永警部補は缶コーヒーを飲み干すと、
鋭い眼光を画面に向けた。
「これまでのトクリュウ捜査は、
日本国内で強盗に入る
『実行役』ばかりを捕まえて、
肝心の
海外にいる指示役には手が届かなかった。
だが、案件屋神崎のデータベースを丸ごと
『生の状態で』押さえたことで、
情報と資金の双方から
奴らの潜伏先へ一本の太い線が繋がった」
松永は即座に受話器を取り上げ、
外務省および
警察庁国際課への直通回線へダイヤルした。
「ICPO(国際刑事警察機構)を通じて
カンボジア国家警察へ緊急要請を出す。
案件屋からのデータ供給を断たれて
パニックになっている今がチャンスだ。
奴らに証拠隠滅の猶予を与えるな」
――同じ頃、シアヌークビルのプレハブ拠点。
「竹内さん! ダメです、
サーバーの接続が切れません!」
打ち子の男が叫び声を上げた。
「何だと!? 電源コードを抜け!
機器を全部叩き壊せ!」
竹内(龍)は怒号を飛ばしながら、
デスク上のノートPCを
床へ投げつけ、踏みつけにした。
しかし、時すでに遅かった。
神崎のサーバーを経由して
送り込まれた警察のプログラムは、
竹内たちが使っていた暗号化アプリの
「過去の全送信ログ」と「未未送信の
ターゲット一覧」、さらには
彼らが日本国内の実行役へ送っていた
「脅迫用音声データ」までを、
警視庁のサーバーへと
リアルタイムで送信し続けていた。
「案件屋」という情報の
蛇口を閉められただけではない。
その蛇口の管を通って、
警察の捜査網という『劇薬』が
彼らの本拠地へと逆流していたのだった。
「おしまいだ……
俺たちの『命綱』だった名簿が、
全部俺っちを追い詰める材料に
変わりやがった……!」
頭を抱えてがたがた震える竹内の耳に、
建物の外から近づいてくる
複数のサイレン音が聞こえ始めていた。
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スコールが叩きつける
シアヌークビルの夜。
重厚なエンジン音とともに、
大型の装甲車両と何台もの警察車両が、
トクリュウの拠点を包囲した。
「カンボジア国家警察だ! 全員動くな!」
警察庁から現地へ派術されていた
国際捜査官の立ち会いのもと、
現地特殊部隊が一斉に施設内へ突入する。
明日も 19:20 に、投稿します。
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