【第2部】「自律分散型スマート集落」 第3章:同一の設計思想を持つ謎の影(2) 文壇されたパイプライン
カタリストは
冷ややかな乾いた笑いを漏らした。
現場の技術力や手順を
どれほど制御しようとも、
成果を手にした後の人間の愚かさや
感情までは計算に組み込めない。
人間を『指先』として利用することすら、
すでに危険な妥協なのだ。
どれほど精密な罠を仕掛けようとも、
人間というノイズが存在する限り、
完全犯罪という方程式は永遠に解けない。
男の思考は、ついに人間そのものを
システムから完全にパージ(排除)するという、
究極の結論へと加速していくのだった。
一方こちらは、カタリストの対抗組織
竹内たちのグループの2025年、夏。
「クソッ、神崎の野郎、なんで応答しない!」
熱帯の夜気がまとわりつく東南アジア某国の一角。
冷房が効きすぎたプレハブ小屋の中で、
トクリュウの指示役「龍」こと
竹内(31)は、デスクを激しく叩きつけた。
目の前の
モニターに表示された暗号化チャットの画面には、
案件屋である神崎のアカウント名が
寂しく灰色のまま表示されている。
神崎からの定期連絡が途絶えて、
すでに十二時間が経過していた。
竹内たちのグループは、
神崎が精製した「AAAランク」の資産家名簿と
防犯データを買い取り、それを元に日本国内の
「使い捨ての若者たち」へ強盗の指示を出していた。
指示役にとって、神崎は
喉から手が出るほど欲しい「高精度な標的データ」を
供給する唯一無二のパイプラインだったのだ。
「竹内さん、日本国内の実行役(叩き班)から
『現地に着いたが、
追加の進入ルートのデータが送られてこない』と
催促が入っています」
隣で無数のスマホを操作していた
「打ち子」の男が、引きつった声で報告する。
「チッ、神崎から次のデータが届かない以上、
今日の案件は中止だ!
実行役にコード『スクラップ』を送れ!」
「は、はい!」
神崎が逮捕され、
彼が管理していた巨大なデータベースが
警察に押収された影響は、
即座に海外の犯罪拠点へと波及していた。
これまでのトクリュウは、
実行役が捕まろうと、指示役が海外に逃げていようと、
供給される「名簿」さえあれば
いくらでも新しい標的を見つけて犯罪を継続できた。
しかし、警察が「案件屋」という
情報供給の心臓部を直接叩き潰したことで、
彼らの犯罪システムは
完全に機能不全に陥り始めていたのだ。
「神崎が落ちたとなると、
俺たちのサーバーもヤバいかもしれん……」
竹内は焦りから爪を噛んだ。
神崎から買っていたデータには、
暗号化通信のバックドアが含まれていた。
もし日本のサイバー警察が
神崎の端末からその通信ログを解析すれば、
海外にいる自分たちの
IPアドレスまで辿り着く可能性がある。
「急いで通信ログを消去しろ!
バックアップのサーバーも切り離せ!」
竹内が叫ぶように命じたその時、
プレハブ小屋の通信回線のアクセスランプが、
異常な速度で明滅を始めた。
日本国内で神崎の端末をリアルタイム解析している
警視庁サイバー班から、
海外サーバーに向けた「逆追跡プログラム」が、
すでに回線を駆け巡り始めていた。
案件屋という
「情報網」を断たれたトクリュウの巨体が、
いよいよその足元から崩れ去ろうとしていた。
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「接続プロセス確立!
カンボジア・シアヌークビル拠点のIPアドレス、
特定しました!」
警視庁サイバー犯罪対策課。
志村刑事が弾けたような声を上げる。
押収した「案件屋」神崎のサーバーから
抽出された暗号化複合キー。これを利用し、
警察庁サイバー特別捜査隊の逆追跡プログラムが、
神崎とやり取りを行っていた海外の犯罪拠点を
ダイレクトに炙り出す。
明日も 19:30 に、投稿します。
よろしくお願いいたします。




