【第2部】「自律分散型スマート集落」 第2章:初期プロトタイプが稼働(5) 証言者の決意
『あなたを脅迫していた案件屋の
神崎達也は、本日午前、捜査班に
よって逮捕されました。
神崎が所有していたサーバーも
押収済みです。あなたの
マイナンバーカードのデータも、
実家の情報も、すべて警察の管理下
にあります。もう、誰もあなたや
家族を脅すことはできません』
静まり返った暗い部屋に、松永の
言葉がゆっくりと染み渡っていく。
自分が囚われていた底なしの恐怖が、
一瞬にして霧散したことを理解した
瞬間、蓮の膝から一気に力が抜け、
その場に崩れ落ちた。
「本当……なんですか?
母さんたちも……大丈夫なんですか……?」
スマートフォンを握りしめたまま床に
へたり込み、蓮は声にならない声で尋ねた。
涙が溢れて視界が激しく歪む。
『ああ、神崎の端末から得た情報を元に、
すでに実家周辺の警察署にも手配済みだ。
お前たちの身の安全は確保されている』
電話の向こうで、
松永警部補が静かに答える。
『片桐、お前が罪を犯したことは事実だ。
指示に従って強盗の下調べを行い、
敷地内に侵入して写真を撮った。
それは犯罪であり、
決して許されることじゃない』
耳に痛い言葉だった。しかし、
不思議と恐怖はなかった。
松永の言葉には、
自分を単なる「駒」ではなく、
一人の人間として見据える重みが
あったからだ。
「だが、お前は指示役に脅され、
極限状態に追い詰められていた。
今ならまだ、引き返せる。
神崎を挙げたが、この名簿を買っていた
海外の『指示役』や、日本国内の
『実行役』はまだ野放しだ。
これ以上の被害者を出さないために、
お前の知っていることをすべて
警察に話してくれないか」
「話します……! 何でも話します!」
蓮は涙を拭い、叫ぶように答えた。
「俺がどんな調査をさせられたか、
どんなメッセージが来たか、
全部話します! だから……これ以上、
誰の人生も壊させないでください……!」
「よし、いい返事だ」
電話の向こうで
松永が短く息を吐く気配がした。
「今から捜査員をそっちに
向かわせる。部屋で待っていろ」
通話が切れた後、蓮は深々と頭を下げた。
自分の甘さから足を踏み入れ、
一度は人生のすべてを諦めかけた闇。
だが、警察の手によってその糸が
切られた今、自分にできるのは
逃げることではなく、
己の罪と向き合い、
捜査に全面協力することだけだった。
数十分後、蓮の部屋のドアがノックされた。
現れた志村刑事に促され、
蓮は静かに警察車両へと乗り込んだ。
神崎の逮捕、そして
「生きた証言者」となった蓮の確保――。
案件屋が構築した「見えない名簿」の
全貌が解明されたことで、
警視庁の捜査班はついに、
トクリュウの最深部、
海外から指示を出し続ける「本当の悪」を
追い詰めるための最終作戦へと舵を切るの
だった。
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2028年のカタリストです。
関東での失敗から1年、
カタリストは東南アジアのアジトで
完全な孤立を選択していた。
現地のハッカーグループすら遠ざけ、
自みずからの手だけで端末に向かう日々。
前回の実験が残した教訓は明白だった。
「人間に行動を委ねる限り、
どれほど高度なデータを提示しても
現場で破綻する」。
ならば、……。
明日も 19:30 に投稿します。
よろしくお願いいたします。




