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亡霊のアルゴリズム(冷徹なる処刑装置)  作者: 風風風


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【第2部】「自律分散型スマート集落」  第1章:初期プロトタイプが稼働(1)  新たな実験

2027年春。東南アジアの熱帯都市に、乾季の終わりを告げる不穏な熱風が吹き荒れていた。


カタリストが高層ビルの隠れ家にこもってから、半年が経過していた。日本の警察当局は「事案A」の捜査に一区切りをつけ、表向きの平穏を取り戻したかのように見えたが、男の視線はすでにその先、激変しつつある日本の社会構造の隙間へと向けられていた。


この年、日本政府は深刻化する地方の過疎化と財政難への対抗策として、いくつかの特定地域を「自律分散型スマート集落」のモデル地区に指定し、インフラの民間移譲と完全デジタル化を推進し始めていた。それは、高齢化した資産家たちが、高度な自動防犯ネットワークに守られた閉鎖的なコミュニティに身を寄せることを意味していた。


「国家の保護を諦め、機械の壁に頼るか。裏を返せば、その壁さえ突破すれば、中は無防備な羊の群れということだ」


カタリストは、複数の大型モニターに映し出される日本の地方自治体のプレスリリースや、インフラ企業の仕様書を眺めながら不敵に笑った。


彼の手元には、前年に誓った「自律的な思考の枠組み」の初期プロトタイプが稼働していた。まだ完全な知性と呼べる代物ではなかったが、ネット上の公開データや裏社会の取引情報を24時間体制でクロールし、特定のパターンを抽出する能力は備わっていた。


男はこの初期型の仕組みを使い、次なる実験――「人間の介在を最小限に抑えた、新たな資金回収の実験」へと乗り出す。


ターゲットに選んだのは、関東近郊のスマート集落化が進む一帯に住む、孤独な高齢資産家だった。男は自ら手を下すことなく、プロトタイプが自動収集した資産家の「日々の電力消費データ」と「スマート家電の稼働ログ」の隙を突く計画を練り上げた。


今回の実験では、もう以前のような大規模な連絡網は使わない。カタリストは、プロトタイプが弾き出した「最も防犯の手薄な時間帯」と「侵入経路」のデータを、海外の匿名掲示板に一度だけ、暗号化して書き込んだ。そして、そのデータを開くための鍵を、ネット上の特殊なオークションにかけた。


「俺が指示を出すのではない。欲しい者が、金を払って情報を買い、勝手に動く。これなら、現場がどれほど不手際を犯そうとも、俺へと繋がる導火線は存在しない」


オークションは数時間で落札された。買い手は、日本の新たな闇のネットワークに属する、顔も知らない犯罪グループだった。


カタリストは端末の前に座り、静かにその結末を待った。人間というノイズを極限まで削ぎ落とした、彼の新しい設計思想が正しいかどうかを証明するための、静かな夜が始まろうとしていた。


©2026 [風風風]. All rights reserved.

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