【第1部】亡霊の混迷:手探りの犯罪インフラ(2024-2026) 第3章:亡霊の思考 (5) 要塞の崩落
「動くな! 警察だ!」
凄まじい爆音とともに、オフィスの重厚な木製扉が吹き飛んだ。閃光弾の強烈な光と爆音が室内に炸裂する。
「何だ!? なにごとだ!」
指示役の石川は、椅子ごとひっくり返りながら悲鳴を上げた。
室内にいた十数人の「打ち子」やリクルーターたちが一斉に頭を抱えて床に伏せる。自動小銃を構えたカンボジア国家警察の特殊部隊が怒号を上げながら踏み込み、パソコンに向かっていた男たちの腕を次々と組み伏せていった。
石川はパニックになりながらも、机の上の「マスター公衆端末」へと手を伸ばした。日本国内の全実行役のテレグラムを一斉に遠隔消去し、証拠を隠滅するための緊急ボタンだ。
「させるか!」
床を滑るように突入してきた日本の国際捜査専従班の捜査員が、石川の腕を容赦なく踏みつけた。鈍い骨擦音が響き、石川は絶叫する。端末は即座に確保され、通信状態のまま警察のデータ吸い上げ装置へと接続された。
「石川拓哉。日本の警察庁および国際刑事警察機構(ICPO)の要請に基づき、現地の不法就労および日本国内における強盗教唆の容疑で身柄を拘束する」
黒い防弾ベストを着た日本の警察官が、冷徹に告げた。
「な、なんでだ……ここは日本じゃないぞ! 俺を捕まえられるわけがない!」
石川は泥まみれの顔を床にこすりつけながら狂ったように叫んだ。リゾート地での豪奢な暮らし、安全な海外から日本の若者をチェスの駒のように動かしていた絶対的な優位性は、完全に瓦解していた。
「お前たちが暗号資産のウォレットをどれだけ経由させようと、国際連携したサイバー合同捜査班の追跡からは逃れられない。お前らが金を吸い上げていた口座は、すでに凍結した」
捜査員の手によって、石川の両手首に重い手錠がかけられる。
部屋の窓からは、シアヌークビルの青い海が広がっていた。だが、彼がこれから連行されるのは、その美しい海ではなく、日本行きの航空機であり、厳しい日本の法律が待つ鉄格子の世界だった。
デスクの上に残された無数のスマートフォン。その一つの画面には、日本国内で逮捕された拓海の事件の進捗を示すログが残されていた。
トクリュウの心臓部である「海外拠点」が、日本の警察の執念の国際リレー捜査によって、ついに完全陥落した瞬間だった。
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