70. 祈りと無力
想え想えや 繋げ繋げりゃ
ねっとりと絡みつくような不気味な童謡。
夢の中でいつも響いていたそれが、また頭の中で残響している。
また、夢だとわかる夢を見ている。
「また繋がりましたね」
――……。――
男は 帰らぬ 戻らぬ
山の神のいずこにあれど
詮無きことよ
帰らぬ 戻らぬ
ならば生かさぬ
詮無きことよ
「何も知らないでこれを歌っていた女の子達は、いずれ、能力が覚醒した時に、この意味を教わるんですね。男の子は……この歌では仲間外れにされて、大きくなっても仲間外れか。じゃあ、また貴女の記憶を見せてくれますか?」
――やめろ――
「無理強いはしませんよ」
――嫌――
――でも、抱えるには重過ぎる――
細身の獣が、大の男の首を噛みちぎると、噛み切った肌や肉を吐き出した。
「どうか……。祝福を……」
そう言いながら男は絶命した。
「やめて……やめろ! 近づくでない、やめてくれ……! そなた達、これでいいとでも思うておるのか」
「来るべき時が来ただけです……うっ」
女2人の身体は爪で幾重にも刻まれている。
「痛い……ッ、お願いだから、早く殺して」
その声に応じるように、獣はその女の身体の中心に腕で穴を開けた。もう1人の女にも同じようにする。
「……ッ、幸せ……だったわ、後悔しなかったわ……」
女は涙を流しながら獣に抱きつくと、そこで息絶えた。
「私の分も生きてね……っ」
もう1人の女も、笑顔を見せると、最後は苦悶の表情を微かに滲ませ、死んでいった。
女は――綾乃だ――涙にむせぶと、心底憎そうに獣を見た。
「皆もそなたも、わらわの家族じゃった……、なのに、そのそなたが……っこのようなことをして、許されるとでも思うのか……っ」
綾乃が、血の海に倒れ込んで泣きじゃくった。
獣は、それまでの凶行が嘘のように大人しくなり、天を仰ぐと、崩れ落ちた。
容は、夢の中で、動こうとした。獣の正体を知っている。
手を伸ばそうにも、自分の手が見つからない。足もない。
気がつけば、真っ赤な血の海に、自分こそがただ、横たわっている。
獣の正体である男は天窓から差し込む光の中で、膝を折り、ナイフを自らの心臓につきつけている。
やめて。私が、貴方を助けるよ。なのに、手足がないんだ。
人は、どういう時、無力になるのだったか。
――天贖様、いつか、金色の目をして跪いた貴方自身が、言っていましたね。
最愛なる者を前にして、己は無力だと。
容は呼吸も荒く、飛び起きた。
「この夢の主は」
隣で眠る天贖を見ると、彼も夢にうなされているのか苦悶の表情だった。
どうしようか。起こそうか。きっと――同じ夢を見ている。
しばらく迷っていると、天贖の苦しげな表情は和らぎ、安らかな寝息が聞こえるようになった。起こすのはやめにする。
天贖と夫婦になってから、段々と2人が悪夢を見るタイミングが一致していった。彼から所々聞く夢の内容もほぼ同じだった。
天贖と心を通わす度、身体を結ぶ度、彼との繋がりが深くなっているような気がする。
このような夢も、容は女の力も得ているため見ることができるのは当たり前なのだが、天贖はそうではない。おそらく、互いの繋がりによって、互いの力を共有するようになってきている。
「山王司と月島の力が混ざると、何かとんでもないことが起きたりして」
それは良いことか、悪いことか。自分達に課されるものはどちらなのかと不安になった。妄想を振り切るように、容は頭を振った。
「お義母様に会うのか。ちょっと恐いな。でも……きっと、可哀そうな人なんだ」
容は天贖の頬に軽く口づける。起きてしまうかもしれないと危惧していたが、取り越し苦労だったようだ。夫婦なのだから当たり前だとも思うが、天贖が容を心から愛し信頼しているのかがわかる。敵を気配だけで察知したことのある彼を容は知っていた。
「おやすみ。今度はいい夢を」




