69. 鬼退治の応援
中棟中広間は浚地達の憩いの場となっていた。各々の客室は別に用意しているのだが、浚地達は仲が良いのか、ここに集まって楽しそうに話をしている。
容もつられてここに来ることが多い。浚地と話したいからとも思うが、大きな理由は双子と清良が可愛いと思うためである。太智がいてくれず寂しい分、可愛い子供達を見て癒されている。ついでに、容がここに来るならば天贖もやってくるし、天贖が来れば直大も直志も来るので結局全員集まることになるのだ。
「天贖さん、俺達しばらくここでやっかいになっていいですか。お願いします」
浚地は後ろに清良と双子を従え、頭を下げた。
「まだファーザーの死亡がばれていないけど、もしかしたら、他のチームの奴らか他のファーザーが俺達を狙ってくるかもしれません。そこで、涼音の足が問題になります。涼音の足が。天贖さんに折られた涼音の足が」
しつこい発言に、後ろで双子と清良が頷いている。涼音は別室のベッドで休養中だ。屋敷には布団しかないと言ったら、浚地達が天贖に代金はツケてくれと言って病院から無理やりベッドや器具一式を持って来たのだ。
足が痛いため疲れで涼音は眠っていることが多く、この中広間と離れた客室で彼女は養生している。
「何度も言わなくてもわかっている。好きにしろ。確かに、追手が来た場合は容の家より俺の屋敷の方が安全だろう。守り手として俺達もいることだしな」
浚地が天贖に対して満面の笑みを向けた。
「ありがとう! 天贖さんはやっぱ優しいな。高い診療費もベッド代も全額出してくれたし。容、いい買い物したな」
清良が首を傾げる。
「いい買い物って、何買ったの?」
清良に双子のうちの1人が説明する。兄らしく、あっさりとした優しさが感じられる。
「容さんがいい旦那さんと結婚できて良かったなっていうのを、『いい買い物をした』と表現してるわけ」
その言葉に清良は驚いた後、意気込んだ。
「お金、今から貯めなくちゃいけない」
「そういう意味じゃない」
天贖は微笑ましいやり取りに微笑した。
「浚地、この子達はまだ学校に行く歳だろう。涼音の足が完治した後、どうするつもりなんだ」
「組織から逃げるしかないですね。引っ越す度、学校を変えて通うしかないでしょう。大丈夫です、転勤族にしか見えないですよ」
浚地を援護するように、座っている浚地の肩に双子が手を置く。
「組織にいたら、学校にすら行けなかった。自由もなかった。何も選択できないまま一生を終えるより、浚地といるのを選ぶよ、俺達は。涼音もそう言うって」
双子の言ったことに清良が強く頷く。浚地の大切なものが無事でいて、浚地のそばにいてくれて、良かったと容は思った。
「お前達が望むなら、このままこの島にいてもいいが、どうする」
「追手を殺すのは俺達だけで十分です。島の人に、――天贖さんに、人殺しはさせられませんよ。だから、島にはいられない」
天贖が和やかに話した。
「そうか。わかった。浚地、お前は突拍子もない考え方の持ち主だが、近しい者に対する責任感と思いやりはあるようだ。短い間だが、この島を故郷と思ってくれて構わない」
「故郷……」
行儀良くしていた清良が急に泣き出して、周囲の人間は皆慌てて覗き込んだ。双子が清良の背中を優しくさする。
「清良は、涼音達と家族になりたかった。浚地が来てくれて、家族になれた。十分だった。なのに、故郷もできた。嬉しいよう……」
浚地は清良の前へ行き、膝立ちする。それから日本の屋敷に似合わないスマートさで腕を広げた。
「ファーザーの胸でお泣き」
「「馬鹿か」」
双子が同時に蔑んだ顔をした。青い目が顰められると、元が綺麗な分、鋭さに身の毛がよだつ。
「浚地は恐いファーザーじゃなくて、浚地っていう、ファーザーっぽい、ちょっと面白い人なの」
清良は泣き笑いのまま浚地の胸に飛び込んだ。しかし浚地は不満そうだ。
「あれ? 俺、ファーザーになりたいって言ったよね。ファーザーっぽいって何だ?」
双子の内の1人が気だるげに畳に寝っ転がって言う。
「大体ファーザー、っつーわけ。わかれよ。清良は浚地がファーザーみたいに恐くないからそう言うんだよ」
「そうなの? でも恐くなくても俺はファーザーだよ。涼音がファーザーって呼んでくれたもんね」
容から見るに、まるで自分の奥さんに「あなた」と初めて言われたかのように浚地は惚気ていた。当の本人は自覚なく、得意げに胸を張っている。
「――容!」
容は天贖と広間を後にしようとしていたが、浚地に呼ばれて振り返る。
「そっちの、綾乃さんの問題も、片付くといいな」
「うん。浚地、これから頑張って」
浚地は天贖にも声をかける。
「天贖さん!」
縁側に出るところで、天贖も浚地を振り返る。この前は浚地に対し面倒そうだったが、少し浚地を見直したのだろう。顔を顰めることなく普段通りだった。
「俺が容を助けて天贖さんへ届けたんですからね。あ、容の首を絞めたのは演技なので許してください。――容は、小さい頃から、俺が見守って来ました。俺の大事な人を力にして、鬼退治、頑張ってくださいね」
幼馴染のように、兄のように、浚地に見守られながら容は育ってきた。その浚地と敵同士ではなくなり、元通りになれたことが嬉しかった。
「鬼退治とは物騒だな。しかし、わかった。浚地、お前はお前で大切な者を守れ。だが容の件は許していない」
天贖の言葉は、前半は優しかったが、最後、「許していない」と発言した時は地鳴りのような恐ろしい口調だった。浚地は怯えずただ困ったようにしてから、容に全開の笑顔で応えた。
天贖は本当に鬼退治をするのだろうか。容は、できれば、鬼の改心と幸せを望みたいと思った。




