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55. また会おう

 今日は友達と遊ぶと話していた太智だが、恵の作ってくれる皆の分のお菓子を取りに、一度屋敷に戻ると言っていた。


 容は太智が友達と楽しく遊ぶ様子を見てみたくて、屋敷の正門の脇で待っていた。


 手持ちぶさたに、目の端にあった正門の金具部分に触れると焼けるように熱くなっており、残暑がいかに厳しいか実感した。


 視界の奥には青々とした稲が広がっており、風に吹かれ揺れている。どれだけ風が吹こうが芯を失わず、必ず立たんとするその姿は胸を打つ。ふと、布で包んで着物の懐に入れた対珠の片方を着物の上から握りしめる。稲のように、凛と立って、天贖の傍にいたいと思った。


「容」


 聞き覚えのある声に、容は衝撃を受けてその主を凝視した。柔らかな薄茶の髪に、自信に溢れた、だが涼やかなその瞳と口元が目に飛び込んでくる。


「浚地。何で、中から」


 屋敷の中から現れた浚地に対して不審に思う。


「そう恐い顔するなって。容、この間はごめんな」


 不審だと指摘するよりももっと大きな問題に言及され、容は彼をじっと睨んだ。


「浚地。お前が天贖様達を襲うなら、私はもうお前とは会わないよ」

「それだけじゃないだろ?」


 浚地の稲穂のような髪と同じ色をした瞳が容を視る。容に殺人犯として疑われていることを知っていたのか。


「じゃあ言うよ。義兄さんを殺したのは浚地?」


 浚地は静かに首を振った。


「違うよ。俺が、嘘をつく必要なんてある?」


 浚地にその必要があるのか、ないのか。一瞬思い巡らす。


 軽く口の端を上げた彼を見つめる。いつも通りの明るい浚地だ。そして、容以外に大切なものを選んだ浚地でもある。


「そういえば、そうだな。浚地には、私よりずっと大切な人達がいる。浚地が義兄さんを殺していたとしても、今はもう、浚地が私に黙ってる意味がない」

「それで、その大切な人達は非常識の中で生きてる。警察なんかいようがいまいが変わらない、というわけだ」

「浚地が私に嘘をつく必要は、全くないね」


 容は浚地を疑っていた自分の思考が馬鹿らしくなり、浚地の目を見て笑った。


 一呼吸置いて、浚地が手を合わせて謝ってきた。


「写真。ごめんな。見つからなかったんだ」

「探してくれたんだ」

「まあ、ね」


 沈黙が落ちる。会ってわかった。浚地は大事な友人なのだ。本当は、敵対したくなかった。だが、浚地が犯人でないとわかった時点でも、敵同士なのは変わらない。


「家系図だけど」

「そういえば、そんな話もしたね」

「綾乃さんに頼むといいよ。蔵にはない」


 信じられない言葉に、容は一瞬言葉を失った。


「何で、お義母様を知ってるんだよ。私が蔵を探してたのも知って……」


 浚地が人差し指を容の口元へ向け、その手前で止める。


「蛇の道は蛇」


 確かに、島に来てからの浚地は容の知らないネットワークを広げていそうだ。


「嘘だと思って聞いてごらん。多分見せてくれる。天贖さんの、嫁なんだろ?」


 古くからの友人に結婚のことを言われて、容はふいに頬が熱くなった。


「何で、それも知って」

「女の子が教えてくれるんだ。この島の女の人は何でも知ってるんですよって言われた。どういう意味だろな?」


 浚地は緊張感もなく腕を組むと、容に笑いかけた。ああ――、浚地はこういう奴だった。


「わかった。家系図は、お義母様にお願いしてみるよ。お前の思惑はわからないけど、私の目的はそれだから」

「じゃあな」

「浚地!」


 浚地は後ろを向いて正門から伸びる農道を歩き出した。それから、後ろ向きのまま片手をあげて、手をひらひらとさせた。


 ――いつもの帰り際の、また会おう、の合図だ――

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