52. 蔵の捜索
その日の夜、容は蔵の前にいた。
幸せは大事だけれども、誠吾のことも忘れてはいけない。誠吾を殺した犯人が誰なのか、突きとめないといけない。まずは誠吾の親戚を探すため家系図を見つけるのだ。それからその親戚に聞き込みをするつもりだ。
家系図が屋敷のどこにあるのか、新しい部屋を訪れる度に収納スペースを観察してきたが、それらしいものはなかった。綾乃のいる東棟は見られていないが、それ以外となると、後は蔵くらいしか思いつかなかった。
考え込んでいた容は、俯いたまま突っ立っていたことに気づいて、顔を上げた。時間が惜しい。いつここを通り過ぎる人がいるかわからないのだ。足音を立てないようにしながら、蔵の扉の前に立つ。幸いにも今は人の気配がない。
顔を下げて手の中を見る。蔵の鍵は拝借した。先日、楓が蔵の掃除のために鍵を持って行ったので、鍵束の場所を知ることができた。
容は天贖の身内とはいえ、今していることは盗みと侵入だ。罪悪感が心を覆う。
「ごめんなさい。天贖様、私は悪事を働きます……っと、開いた」
中は真っ暗だ。とりあえず懐中電灯を持って来ていたので、それをつけてみると、電気のスイッチのありかがわかった。スイッチを押し、懐中電灯を消す。
「充分明るいな」
容は蔵の中を見渡し、ふと柱の下の方に目線を落とした。
「手錠? あと足枷? まだある」
天贖が16歳まで繋がれていた場所だろうか。手錠が蔵の中の柱に固定されており、綺麗に磨かれている。蔵も定期的に掃除しているようだ。だが、手錠を磨く必要はあるのだろうか。また使う予定もないはずなのに。
「天贖様が壊したはずだけど。また、お義母様が用意するよう指示したのかな。あ、それより探さないと」
今は9時だが、容の部屋に10時までに戻らなければならない。天贖が部屋まで迎えに来る時間だからだ。
壁一面を覆い尽くすように箪笥や長持ちが並んでいる。
「じゃあ、今日は左だけやるか」
上から順に引き出しを開けていく。中は骨董品や書物が多かった。書物のページをパラパラとめくるが、それらしきものはない。
「巻物とかだとそれらしいよな――あった! ああ、でもこれ掛け軸だ。ないなぁ」
巻物を箪笥に仕舞い、隣の引き出しを開ける。
「あっ、この巻物、これ字が連なってる!」
読めそうもない達筆な巻物を読み込むが、人物名ではなさそうだった。手がかりを見つけたと思ったので、落胆した。
結局、左側の一部を探しただけでは見つからなかった。
「しょうがない。後日また探そう。埃まみれだな。早めに帰って内風呂に入らなきゃ」
だが連日蔵に行くと、天贖が不審に思うかもしれない。
「天贖様には別の何かを探してるって言って、堂々と蔵に入った方がいいかな。でも、それって何がいいの? わかんないな」
顎に手をやり思案する。
「探して見つからなかったら正直に天贖様に言おうか。あ、でも、お義母様に知られたら、天贖様に迷惑かけちゃうよな」
制限時間はもうない。
「ごめんね義兄さん。必ず見つけるからね」
容は蔵の鍵を名残惜しげにかけた。




