36. 大切なもの
天贖と共に屋敷に帰って来た太智は、泣き腫らしたような真っ赤な目で容の居室に駆け込んできた。天贖もそれに続いて訪ねて来た。呼ばれて寝室から出て、居間の木目のテーブルの前に座る。ミシン台としてしか使ったことのなかった容からすると、自分の部屋のテーブルにつく客人がいることがくすぐったく感じた。
「容、大丈夫?」
容の隣に座った太智が不安そうに横から容を覗く。元は天贖が心配するから寝室で布団に入っていただけなのだ。天贖には言えないが、早めに布団を仕舞っておいてよかった。
「もう治ったよ。大丈夫。それより、私が頑張ったんじゃなくて、天贖様が頑張って追い払ってくれたんだよ」
「天贖様は強いから、心配なんてしてなかった!」
太智が容とは逆の方向にいる天贖を見て元気に言う。
「そっか。その強い天贖様がいたから、私は大丈夫だよ」
「……」
黙ってしまった太智を慰めようと、容はその頭を撫でた。
「太智はいい子だね。そういえば言ってなかったけど、いい子じゃない太智でも、太智なら何でも、好きなんだよ。だから、恐い時は我慢しないでよ」
太智はそう聞くと、抑えていた感情が溢れてしまったように、泣き出した。
「うぇ、うっ、うっ」
「太智、ほら、こっちおいで」
テーブルの角からおずおずと寄って来た太智を容が膝をついてそっと抱きしめる。太智は泣くのを必死に我慢しているのか、苦しそうなうめき声が耳元から聞こえてきた。
「心配してくれて、ありがとう。恐かったよね」
天贖が何か逡巡した後、容に抱きしめられている太智を、容の身体ごと抱きしめた。天贖と容で太智を挟む形だ。力強い掌が背中に回されて、容はその熱さに思わず肩に力が入った。
「うわっ」
太智も驚きに一瞬身を固くする。
天贖は一度息を吐くと、静かに目を細めた。
「お前達は俺にとって大切なものだ。太智、俺をもっと頼れ。容、お前は運命共同体だったな。抜け駆けはするなよ」
「ふふっ」
容は小さく笑いながら太智の向きを変え、天贖に向かい合うようにした。太智が遠慮がちに天贖に手を伸ばすと、天贖はさらに強く、容と太智を抱きしめた。




