33. 戦場の采配
昼食にそうめんや薬味も含めた野菜、茹で卵、茹で鶏などを作った容は、案外好評を得た。
各々の膳によそうのが面倒で巨大なガラスボウルにそうめんを突っ込み、男4人と容で箸をつつき合った。天贖にとっては珍しかったらしく、喜ばれた。
食事の後は食休みのために皆テーブルについていた。いつもは膳で食べるので小広間だったが、テーブルがある部屋は今いる中広間だ。
これから異能組織と渡り合うというのに、男衆は皆落ち着いていた。なぜなのか聞くと、直大が心外だ、と呟いた。
「これでも私も緊張している。何しろ天贖様のお命を守らないといけない」
直大が両手を組んで祈るようにすると、天贖は机越しにそれを涼やかな声で一蹴した。
「心配するな。1人で対処するつもりだ」
直大の横に座っていた直志が天贖を上目遣いに睨む。
「もう、天贖様はいつも1人1人って。頼られないと僕達逆にショックですからね」
「そのとおりそのとおり」
義喜の言葉に天贖は軽く笑むと、次の瞬間には真剣な顔を見せた。
「あいつらは、能力があるのを俺だけだと思っているはずだ。どうか、軽はずみなことはするな。――容」
容は天贖の横にいたので、近い距離で目線を合わせた。
「はい」
「俺が敵と相対している間、この3人を指揮しろ」
余りにも突拍子のない話に、容は心底狼狽えた。
「は、はーー!? む、無理ですよそんなの!」
喧嘩をしてきたくらいで、浚地のように強くなく、知略からも最も遠い位置にいる容だ。無理なことは明白だ。
「この3人は案外血の気が多い。俺が不利になれば躊躇なく飛んでくる。おそらく止められるのは冷静なお前だけだ。つい昨日、傷だらけの俺をそれでも戦えると見越し、負けるなと励ましてくれた、お前だからこそ、その判断力も買っている。大丈夫だ」
義喜が机の上の歌舞伎揚げを手に取り、齧りながら何度も頷く。
「天贖様がそう言うんなら、いいでしょ。頑張ってねっ」
義喜の他人事だとばかりの軽い態度に、容は憎しみに似た感情を抱いた。炊事場の戸棚から持ってきた隠し菓子をわざわざ義喜の前に置いた自分にも苛立つ。
「さあ、時間だ。出るぞ」
天贖が立ち上がって皆を見渡す。
容は狼狽して頷く余裕もなかったが、もう反論している時間がないと悟ると、覚悟を決めて彼の後ろについて行った。
縁側に履物を持ってきていたので、皆、素早く履いて地面へ降りる。容は緊張で運動靴の紐を結ぶ手が震えていた。結び終わった後、縁側の板を両手で叩き、根性で震えを止めた。立ち上がり、腕時計を見ると8分前だった。5分くらい前には正門に到着するだろう。
ふいに、庭を走りながら直大が顔を合わせてきた。
「容さん。天贖様のご様子を見てきた貴女ならわかるはず。天贖様がどこまで耐えられるのか。容さんなら大丈夫ですよ」
直大の励ましを嬉しいと思う余裕などなかった。とにかく混乱しており、どうしたらいいかわからない。とりあえずついて行く他ない。




