第八十二幕 水晶のように
息抜きに小説書いたり先の先の展開を書いてたり機関が開いてしまいました~ (今世紀最大土下座降臨)
「ひっぐ……忘れて……」
泣き腫らして赤い顔はそう簡単には元には戻らない。未だズズっと鼻をすすっている所を見るによっぽど怖かったらしい。恐怖が抜けきっていないのか僕の袖を掴んで離してくれない。
恐怖に引っ張られてか口調が女児のようになっている。
「────」
何も言わずに頭を撫で続けているが、正直言って申し訳ないの一言に尽きる。
マサミチの知っている吸血鬼のイメージでは空が飛べるから高い所から落ちることなど恐怖の対象ではない。と、勝手に思っていたのが間違いだった。
まぁ、落ち着くまで待とう。
それがマサミチの出した結論だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
十分ほど経過しただろうか、ワルプルギスが落ち着きを取り戻したのでボレアリスの場所に向かう事にした。
と言ってもすぐに着くので移動らしい移動はしていない。少し歩いたくらいだ。
「こんにちは、ボレアリスさん」
「ん、こんにちは」
数日ぶりにあったボレアリスはちゃんと喋れるようになっていた。
外での数日がここでの何日分に相当するかは知らないが、頑張ったのだろう。
それと、この二人のお陰でもあるだろう。
「ありがとうね紅玉、緑玉」
『礼など要りんせんえ。旧き友と久方ぶりに顔を合わせ、話に花を咲かせておっただけでありんす。その折、言葉を教えただけのこと。何も、礼を言われるようなことじゃありんせん』
『そだよー! 友達とお話してただけ! お礼なんてむず痒いたらありゃしないわ!』
ボレアリスの周りに浮かぶ二つの色の付いた魔力。その二人に触れ、感謝の意を伝えると、妖艶な声と元気な声が帰って来た。
紅玉と緑玉。琥珀が判断した今の僕では使いこなせない二人。その二人にボレアリスの世話? 介護? を任せたのだが。
「まさか短期間でこんなに普通に喋れるようになるものなんだね」
『まーね! それに関してはね! こーちゃんの教え方がうまいからねー!』
『そういう意味で言えば、主はなかなか危うき橋を渡っておったようじゃ。わっちらがこの短き間に、言葉を教え切れておらなんだら――さて、どうなっておったことやら。』
「えっ?」
何やら不吉な言葉を吐いた紅玉の言葉に冷ややかな物言いを感じる。
くすくすと笑う紅玉はいたずらっぽく、それでいて咎めるように言い放った。
『最悪、命まで落としておったやもしれんえ? 何せ、詠唱すらままならぬ有様でありんしたから』
「んな!?」
そうじゃないか! 完全に失念していた。最悪能力でどうにかできたかもしれないが咄嗟には無理だ。
えっ、あっぶなぁ……。
「ぁ、あ──」
自分の置かれていた危うい状況に心中を乱されていた所、僕の目的が果されたようだ。
全身を白で包んだボレアリスの前に、赤と黒で飾り付けられたワルプルギスが立つ。
無垢と華美。時代を超えた会合が果された。
「ん、ヴァンとは少し違うようね」
「──ぇ、あ、はい」
何に詰まったのか、言葉がスムーズに出てこない様子。動きに、少しばかりの硬さ。所謂緊張が見られる。他の誰にも推し量れないワルプルギスの心中は揺らぎ、乱れている。
「ん、まだ子供。でも大きくなったようね」
「は、はい」
どこかよそよそしく聞こえる返事。それに対してボレアリスは親戚のおばちゃんみたいだ。
数年に一度会うか会わないかの親戚に会って、どう接していいものかわかっていないように見える。
そんなよそよそしくも微笑ましい状況に僕が口を挟む必要はない。
過去の話の清算をしている。その架け橋になれただけで嬉しかった。ここからは彼女たちだけの話だ。
『粋だなマサミチ』
「そう?」
話始めたワルプルギスとボレアリスから少し離れたところに移動し、彼女たちを見守っていると身体の内から声が聞こえた。
どこか嬉しそうな、感謝の念を含んだ声が優しき響く。
ああそうか。元は父さんと一緒にいた琥珀たちは二人の関係を知っているのか。
『いや、あいつらの関係は知らねぇぞ。俺が知ってるのはヴァンとの関係だ』
成る程、と理解を心の中で示し、限無の塵もとい時廟の墓を後にするために足を動かす。
ここにこれ以上いても無粋な真似をする可能性だけしか残らない。だからすぐにでもここを出る。
琥珀から聞いているから知っているのだが、バリオスの血には”共有”の力が宿っているそうだ。思考、感じている事、考えている事を共有する繋がりをつくる力。
その力があるから正直のところバリオスであればだれでもよかった。ヴァンにもベィリィーンにもこの会話の内容は伝わるだろうから。
「っと、忘れてた」
ただ一人で出るだけでは意味がない。前回はすぐにでも外に出たかったから暇はなかったが今は時間を十分に使える。ちゃんとした足場を創ってから出よう。次来るときのために。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……っはー。言われてから自覚するってこういう感じなのか」
外、決して綺麗とは言えない場所でも空気が澄んでいる、気がする。正直のところ違いはあんまりわからないが肺に入って来る空気は美味しいと感じる。
どの環境でも同じような状況でいられると解釈すればいい事のように思える。オブラートをぶち破った言い方をすれば馬鹿鼻ってところだ。
もしかしなくても毒とかの匂いに気づかない可能性すらあると考えたら鳥肌ものだ。
「──あれ?」
入り口付近でじっとしておくのもなんだと思いとりあえずでバリオス邸に戻ろうとしたところ不審な人影が目に入る。確かワルプルギスが人払いをしているはずだからここには入れないようになっているのだが。
少し違和感と親近感を感じた。
とりあえず不審者にせよバリオス関係者にせよ声を掛けない理由はない。もし敵だった時ように気配を緩和する”調”を使用し背後を取る。備えあれば患いなしだ。
「あの──」
肩に手を置き、出来る限り口調を柔らかくして声をかける。敵意や警戒心を持って声をかけては無用な争いに発展しかねない。出来ることなら戦いたくない、ただその為に。
だが相手はそうではないようだ。大きな荷物を抱えたまま、振り向かずとも敵意を向けてきている。
敵意というのは向けられて気持ちのいいものではない。
針で心臓をなぞられているような不快感が全身を劈く感覚をどうして気持ちがいいと思えるだろうか。
でも、その激しい敵意の中にほんのわずかな”恐怖”があった。
「────」
風にあおられ侵入者のフードが剥がされる。黒の眼帯をした女性。見覚えがあるどころの話じゃない。
この人は──
「アキラさん?」
「マサミチ──?」
鳳 晶、隻腕の頼れる女性だ。
さぁて、次の異界のアイオライトは?
章ボス登場。とあるキャラ再登場。の二本でお送り致しまーす。
次回も見てくださいね~ジャンケンポン (?) うふふふふ。




