第七十四幕 死がありふれた世界で、それでも命を尊べたのなら(1)
不定期にもほどがあるっ……!!
さてと、今度は何日かかるかな。
エリシアからの仕事、それは”意思を持った魔道具”の捕獲だ。
その魔道具はエリシアを嫌っているらしく、魔道具本来の力を使って度々脱走するらしい。
「未来予知、……そりゃそういうのがあったら手放したくないよなぁ」
正確に言えば数秒先の未来を見るだけの”義眼”の魔道具だ。
たかが数秒とは言えアドバンテージは計り知れない、なんせエリシアから何度も脱走できるレベルだ。
エリシアの実力をちゃんと把握できている訳ではないが彼女はとても強い、雰囲気だけでいえばウルルに近い実力を持っているだろう。
だとしてもウルルとエリシアは結構違う、ウルルは戦いに発展するまでにたった一個の地雷を踏みぬかなきゃいけないがエリシアはその地雷がたくさんある上にそこら中に散らばってるときた。
達の悪さがレべチだ。
「にしても、見つけるの事態は簡単なんだよなぁ」
街中、と言っても下層の貧民区、チョーと初めて会った場所に近いだろう。
そして空中にはふよふよとビー玉サイズの目玉が浮かんでいる。
魔道具の性質上、魔力の放出を抑えることは出来ないからすぐに見つかる。
「大人しくしてくれるとありがたいんだけど……」
ギョロ……と瞳がこちらを向く、記憶を処理する器官があるかはわからないが、きっと僕の事は覚えているだろう。
「オーディーンの義眼……さて、今回は何日かかるか……」
前回は三日かかったし、前々回は五日。相手も僕の動きに慣れるが僕もあの魔道具の動きに慣れる。
魔力の放出による推進力で飛ぶしか移動方法がない、今度は……三日もかからないぞ……!
四日後──
無理だよぉ……。
目の前にいるのは猫……正確に言えば人口愛玩魔獣・N型なのだが、その眼にはオーディーンの義眼が寄生していた。
オーディーンの義眼が野良の猫に飛びついたと思ったら寄生するとか……今までなかったぞ……。
猫の身体の特徴が逃げるという行為にマッチしすぎている。
極めつけは……。
「ふっ……!」
一気に飛びつくと虚空を踏んで回避される。
魔力技術”集”を使えるようになるなんて……。
魔力技術”集”、所謂二段ジャンプ……いや空中ジャンプか? ともかくこれが厄介だ。逃げ道のない場所に誘導してもたった一回のジャンプで逃げられる。
猫に寄生する事で仮初の肉体を得た。それは今までのオーディーンの義眼が使ったとて意味のなかった技術を使うに最適の状況だ。
足がない体なのに集は使えないもんね。
「とは言っても、僕はまだ”集”は使えないのに……このままじゃ一方的に逃げられ続ける事になるな……」
打つ手なし、と言う訳ではないがもっと時間が掛かる事が確定した。今までもオーディーンの義眼を捕獲できたのは保有する魔力を使い切らせオーバーヒート、萎れて落下してきたところを捕獲って流れだった。
ただ今回は猫の保有分も加算されているからなぁ、ここからプラスで七日くらいか……? いや待てよ、ここは下層だし人もいない。能力を使えるんじゃ……!
「なら、すぐにでも捕まえられるかも!」
ふっふっふ……覚悟しなよオーディーンの義眼め! 今までの逃走劇に終止符だぁぁ!!
四時間後──
「なんでだぁぁぁ……!」
五日間と四時間、休んだりご飯を食べたりはしてるし身体的には大丈夫なんだけど……まさか能力を使っても全然捕まえられないなんて……。
精神やんじゃう、マジ無理ぽ。
「くそう、本当に見覚えのない場所だし、人の気配もあんまりない、オーディーンの義眼も土地勘はなさそうだし、一か八かだ!」
四季・冬式以外は今まであんまり使ってこなかった。
夏は適性がないらしいし春は自己回復以外には使い道を想像できない。
でも秋は違う、ずっと考えてたからいけるはず、未来を見ても反応できない速度で捕まえてやる!
「四季・秋式! 鋭点電速!」
身体の内部に電気を流す、自分の意志じゃ動かせないキャパシティを大きくオーバーした動きを可能にする、言わば過負荷状態。
この状態は身体ポテンシャルの120%を扱えるようになる。
「覚悟ぉ!!」
まずは正直に真正面から、能力を使った状態でどれほど反応されるかを試す。
猫に寄生しているから今までより的は大きい、自分で制御できる限界ギリギリの速度で身体を掴みに行く。
ひらりと躱されるが一発でうまく行くだなんて思ってはいない、足を突き出しすぐに切り返す。
「……!?」
いない? いや、僕の身体を踏み台にして死角に移動したのか……!
目の前にいる相手には意味がないから使っていなかった魔力探知を全開にする。
気配を探知するだけなら半径200mくらいはいける、急にどこかにワープでもしない限り見失うことは無い……! はず!
背後に気配がある、空中ジャンプでの回避も視野に入れつつ身体を捩じって猫を掴む。
「よっしゃーあぁぁ?!」
腹のあたりを掴んだのが悪かったのだろうか、液体の様に掴み所のない動きでいとも容易く抜けられた。
抜けたと同時に猫はすぐに走り出す、一方の僕は過負荷状態で無茶な動きをした代償に腰を痛める。
「うごごごご……」
痛すぎる、ゴキっとは行ってないけどパキっとはいった気がする。
要するに腰が逝く寸前という事……。
だけど猫……いやオーディーンの義眼よ、真っすぐ逃げたのは悪手だったな!
腰を痛めて倒れ込んだ姿勢、それは偶然にもクラウチングスタートの構えだった。
「走れ電光! 至るは閃光! 四季・秋式 電光石火ぁ!」
短くはあるが詠唱をしたその技は確かな能力発動のプロセスの中、威力を増幅させる。
土煙を残して姿を消したマサミチは、既に猫に追いつかんとしていた。
その脅威的な速度は、道行く人の助言すらも届かない程。
ユグレシア唯一にして最大のゴミ処理場、亜空間に繋がるゲートに向かって走った人影に、偶然居合わせた中年男性は声を挙げる。
「おい! そっちは──」
限界まで引き延ばされて聞こえたその言葉の意味を理解することは出来なかった、ただマサミチは猫が突然その場で静止したのをいいことに全力で飛びつく。
両の手で抱きかかえた猫から何かが外れたのを辛うじて確認できたのを最後に、マサミチはユグレシアから姿を消した。
・オーディーンの義眼
それはネスユノ家が誇る家宝。
その実態は”未来予知”などではなく、装着し魔力を通せば数秒先の未来を視覚から入る情報から演算し脳に情報を送るという魔道具。
デメリットもあるがそれを補って余りあるほどの魔道具である。




