第七十二幕 影にみた光
「ソラ、次はどこに行くの?」
「うーんとねー」
僕らは服を買い終えた後、二人で昼食を済ませそのまま家具屋を何軒も回った。
各々で部屋が割り振られているため自分で自由に家具のレイアウトを決める事が可能、逆を言えば何もしないとベットと机だけの悲しい部屋が出来上がってしまうのだ。
僕はそれでもかまわない、元の世界にいた時自分の部屋なんてものが無かったから未だに実感がわかないし何か欲しい家具があるわけでもないからなぁ……部屋は寂しいままだ。
そういう僕を見てソラが家具選びに誘ってくれたという訳だ。
「…………今日はもういいかな、これ以上荷物が多くなったらマサミチ君潰れそうじゃない?」
「ふっふ、ふ……まだ、行けるよ?」
見得だ、もうそろそろどころか二個前の店位で限界だった。
能力を使えばまだ行けそうな、行けなさそうな……そもそもで持つ手がもう無い、腕が六本くらいあれば行けるのだろうか。
「……ごめん、やっぱもう帰ろうよ」
「……ありがたい」
バランスを取るのも難しい、気を緩めると転んでしまいそうになる、そこはまぁ気合でどうにでもなる、だがどうしても嵩張った荷物では比較的賑わっているこの場所では人にあたってしまいそうになる。
「ねぇ」
「……っと! ……ごめん、何?」
手を繋いだカップルと当たりそうになり足が絡まる、がなんとか踏みとどまりソラの返答を聞く。
「私もそれ持つよ」
「い……や、だいじょ……っぶぉ!?」
踏みとどまる、と言っても一度崩したバランスに嵩張った荷物は暴れ出す。
奇妙なダンスを踊るかのようにその場に留まろうとしたが……流石に無理があった。
「ほぉーら、まったく……こういう負担は一人でじゃなくて二人で、ね?」
危うく抱えていた荷物を地面にぶちまけてしまう所だった、そこをソラは片手で支えて半分ほどの荷物を持って笑ってくれた。
「ありがと」
少しだけ情けない自分が不甲斐なくなってしまったが、ソラ相手だ、情けないだとかそういう事を僕に思うことは無いだろう、そういう信頼がある。
だからこそここは素直に甘えさせてもらおう。
荷物を持ち、いつになく上機嫌に笑うソラに釣られて笑顔がこぼれる。
日常の中の特別、僕の大好きな時間だ。
「ねね、マサミチ君」
「なに? ソラ」
「この荷物さ、預けた後にもうちょっとだけ歩かない?」
こういう提案は稀だ、プライベートな時間を大切にするソラは意図的に一人の時間を作ってくれる。
まだ僕の過去の事を心配してくれているらしい、もう大丈夫なのだが。
「うん、いいよ」
断る理由は何処にもない、二つ返事で返答した。
でも、何かあるのだろうかと考えてみたりはする。ソラはサプライズの類はあまりやらないし、アルベリみたいにいたずらとかを考える事もない。
「どこか行きたい場所でもあるの?」
考えてもわからないなら聞くのが一番手っ取り早いだろう。
なんて考えはソラの言葉に消される。
「……理由なきゃダメ? たださ……す、好きな人とは一緒に居たいじゃん?」
耳まで真っ赤に染めながらそう言われたのならもう何も言えない。
自分の顔が赤くなるのを感じつつ、また二つ返事で返した。
「いや、ダメじゃないよ」
結構強気なソラの甘えはウルルのパンチよりも破壊力があった、イタイヨ……ドキドキしすぎて心臓がイタイヨォ……。
と、言う訳でもう一度外に出て来た。
下層がという訳ではないがやはり中層は人が多い、一番人間が多くいると言うのはやはり伊達ではない。
現に今、人の渋滞に捕まってまったく進めずにいる。
「何が起きてるんだろうね?」
「さあ、叫び声が聞こえてるわけでもないし何か有名人が来たとかじゃないかな」
あまり興味がない、あっちの世界でも著名人には興味がなかった。
知ってる人がいないこの世界じゃあ興味なんてあるわけ。
「ソラ、魔力とか能力使ったら駄目なんでしょ?」
「うん、そうだけど」
そうか、それなら。
小さく息を吐いた僕は、迷いなくソラの身体を抱き上げた。片腕は背へ、もう片腕は膝裏へ。
力強い印象があるのにソラの身体は羽のように軽い、持ち上げるのも造作ない。
「ひゃっ!? ちょっ──」
「舌噛まないで……ねっ」
お姫様抱っこのまま地面を蹴り、商店のガーデンパラソルを踏み台に高く飛び上がりそのまま屋根上に着地する。
「よっし、ちょっと目立つけどこれなら早いでしょ」
「いや、早いけどさぁ……もぅ」
頬を膨らませ抗議の視線をソラは向けて来る、だがすぐに異変に気が付く。
飛び上がった拍子に認識阻害用のマントが脱げかけていた、そして不運な事に風が被っていたフードを攫い、顔が露出してしまう。
「ッ!!」
慌ててフードを被りなおした、認識阻害は人の気配や魔力を空気と同調させる”調”のメカニズムが組み込まれた布。
それまで極限まで薄められていた気配が一瞬にして姿を現した。
無論、ソラはすぐにフードを被りなおした、一般人には気づかれないほどの速さで。
だがそこには、一般人ではない”彼”がいた。
「あの、見間違えかも知れませんが……貴女、団長の……ですよね?」
団長の? 何を言っているんだ、今は明らかに僕の事を見てない、つまりはソラの事だ。
団長……オーニアスの事か? ソラ……オーニアス……、考えてもわからない。
ん、待てよ……この人の顔、見た事が……。
短く切り揃えられた黄金の髪に蒼い瞳、整っている顔立ちが凛とした隊服によって引き立たせられてより一層美形に見える。
あの隊服はこの一か月で見たユグレシア王国騎士団の隊服だ、僕の知っている団員の人はほぼほぼ隊服なんて着てなかったから最初はあの組織は何だと困惑したものだ。
「なんで貴方がここにいるの……ライト・クロクアロー……」
ん、ライト・クロクアロー? それって確か……。
「ラーフィット邸の時にいた人?」
声に出したことでピースが嵌った、確かミレイを助けていた……ユグレシア王国騎士団の副団長だった人だ。ソラが驚くのも無理はない、大物と言って差し支えない彼が中層にいるのはおかしい。
大体下層は全体で一人から三人、中層は各区に二人、上層は行ったことないがそれ以上の人数がいるだろう。そして下層に配属されるのは素行が少なからず悪い人、言い方は悪いが弱い人達、中層はソラ曰くそこそこの地位の人が配属されている。
それなのに副団長、上から考えて二番目の人がたかが中層にいるのはおかしい。
……もしかしてさっきの渋滞はこの人がいたから?
「……君の事は一旦対応しかねる、俺の至らぬところだ、許してほしい。今はこちらのソ──」
「待って!」
ライトが何かを言おうとした所をソラは言葉を被せて遮る。
「彼には言わないで」
「……それは願いですか? それとも命令ですか?」
底冷えするような声色に一切動揺していないライトは事務的な応答で返す。
僕は、何の話をしているか分からない、話に入る事は出来ない。
ライトの言葉を最後に沈黙が流れる、それも長くは続かなかった。
僕以外にもう一人、話の流れを読めていない人がいた。
「ライトサーン、早く帰りましょうよ~ギルとガッシュがお腹すいたって愚痴って来るっスー」
幼さが前面に出た無邪気な声が沈黙を破る、僕とソラはその声に聞き覚えがある、間違いない……彼女は……。
「チョー!」
「んぇ!? マサミチさん? ソラさんもいるじゃないっスか!」
双影の加護を受けた少女がライトと同じ軍服に身を包んでいるのが見えた。
「チョー隊員、知り合いか?」
「そうっス、マサミチさんは恩人っスよ~、久しぶりっス」
「うん、久しぶり……なんだけど、もしかして騎士団に入ったの?」
「そうっス! ふっふーんっス」
チョーは胸についているエンブレムを見せつけ、堂々と胸を張った。
……ふふっ、チョーさんや、カッコつけてるところ悪いけど、そのエンブレム逆だよ……。




