第七十幕 教育
寄り道で二ヶ月……!?
だいぶ間隔があきましたが本編再始動します
拝啓、アルベリ様
お元気ですか?
私がバリオス財閥の家族になってから一か月が経ちました、用事がある、と行ってしまってからあなたについての情報がなく、少し寂しい思いをしています。
話は変わりますが私は今地獄を見ています、あなたもご存じのサンガツという方が善意で稽古をつけてくれているのですが、本当に、本当に本当にほんとーにきついです。ソラとの魔力自覚訓練の比じゃないです。
現在はまったく出すつもりのない手紙を書いています、普通に修行が嫌で建前を作って逃げてます。
「────」
………………お元気ですか? 書くことがなくなりましたが語彙を絞り出そうと思いま────
「のう、見てないとでも思っとるのか?」
「………………………………あ、あはは。何のことやら、わはは」
「そうさの、それでは……また続きを」
「マサミチくーん! ご飯できたよー!」
「やった! すぐ行きます! ありがとう、ソラー!!」
「ぬぅ、最初とまったく変わって……はぁ、まぁいいか。ほれ、とっとと食ってもう一回反復じゃ」
「あはは、嫌って言ってもいいですか?」
「ダメじゃ」
さて、僕がここまで嫌がっているか、そもそも何がどうしてこうなったのか。少し語ろうと思う。
アルベリと別れてすぐ、と言う訳ではないが一日たった後の事だ。
「やあ、君、の名前はユイガマサミチであってたよね? 少し話、をしないかい?」
「えっと……メグリジェ・チェルさんですよね? いったい何の話ですか?」
一泊の為、ではなく家族の一員といて割り振られた個室。
そこで休んでいた時、短髪の女性、メグリジェ・チェルがやって来た。
突然の訪問、とはいえノックされたし何かしていた訳でもないからすぐに部屋の中に案内した。
もと同居人のソラは遠慮とかなかったから普通にノック無しで勝手に部屋に入って来たからなぁ、新鮮な気持ちだ。
「君にする話というのはだね、師、を取らないか、という誘いが来ているんだ」
「師、というと師匠とかの師ですか?」
「うん、その認識、で間違ってはいないよ。君と同居人だったソラ、から聞いたのだけど、ユイガはこの世界に来てから長くないと、そう言われてね。死が当たり前にある世界では、弱さ=死に直結しかねない、まだ不死の血が抜けきっていない、からよほどのことがない限りは大丈夫だが強くなっておいて損はないだろう? とのことだ」
「そういう事ならお願いします、ここ最近で自分が弱いという事を痛感したので。みんなに迷惑をかけないように強くなりたいです」
「ふむ、君は中々、この世界にはいない人種だね。どこまでも自分本位、なのが普通なんだがね、そこまで他人のために動ける人間は貴重、だと言えるね。……っと、話が逸れたね、着いて来てくれるかい?」
「はい」
言われるがままついて行く、にしても……独特な喋り方をするんだな、チェルさんは。
チェルについて行くこと二分弱、そこにはサンガツがいた。
「げぇっ……」
「ふむ、出会い頭にそれとは……嫌われてしもうたかな? くぁっはっは!」
無意識のうちに出ていた拒否反応にサンガツは軽口で返す。
「今日も元気、だね、サンガツ。調子、はどうだい?」
「まぁ何も変わらんよ、そこの坊主につけられた傷ももう癒えとるからの。にしてもその独特な喋り方をまだ続けとったのか、なんかムズムズするからやめてくれんかの」
「やめてくれ、と言われても、無意識のうち、なんだ、どうしようもない、と諦めてくれないかい?」
「おうおう、言ったそばからか、お主に頼んだ使いはもう済んだであろう、とっとと別の場所へ行け」
「ああ、長居をする、つもりはない。それじゃ、頑張ってくれたまえ、ユイガ」
「はい、ありがとうございました」
挨拶もそこらに、チェルは部屋から出て行った。
チェルが出て行ったという事はつまり……二人きりになったという事だ、殺し合いをした相手と。
「さてと、まぁ、ほれ、近こう寄れ」
抵抗がある、というかない方がおかしい。気まずいと言うのもあればもう一度戦うかもしれないと言う警戒もある。
どちらにせよ仲良しこよしで話は進まないだろう。
「何をするんですか」
自分でも思うが警戒が色濃く出ている声だった、上ずっている訳でもないが平坦でもない音が喉を震わせてサンガツに届けられる。
「警戒しない方がおかしいとはいえそこまであからさまじゃと悲しくなってくるの。まぁええわい」
「ユイガ、そう警戒するでない、お主の思っとる事はせんし、チェルから聞いておろう? 師についてじゃ」
あぁそういえば……完全に忘れていた。
「元は儂の元一番弟子にお主を教えさせようとしとったんだがな、行方知らずで連絡もつかん、まぁお手上げ状態でな、儂の弟子が見つかるまでの間にお主の基礎を鍛えてくれとお頭に言われてな」
「はぁ……そうですか」
「反応薄いのぉ……、まぁ良い、血反吐はいても止めはせん。儂から出す課題は……ほれっ」
手渡されたそれは木刀だった。
「これで一本取れって事ですか?」
「いやぁ違う、後はこれとこれと、えーっとどこにやったかのう……あった、これとこれじゃ」
手で持てなくなっても渡され続けたのは木製の多種多様な武器だった。
木刀に始まり弓や片手斧に両手斧、双剣に対刃剣、三節坤や鎌、珍しいのだと鉄球に棘の付いたモーニングスターという武器まであった。
「こ、これで何を……?」
嫌な予感に汗が頬を伝う、この感覚はそう……ソラのスパルタ修行の時と同じ……。
嫌な予感を感じ取ったのを感じ取ったサンガツはニヤッと意地悪な笑みを浮かべる。
「何を想像しとるかは知らんが、きっと期待に添えると思うぞ?
お主に課す課題は儂の教える型をその武器一種につき千回、それを毎日行ってもらう訓練じゃ」
「じょ、冗談?」
「いや? これは儂が提案したんじゃが、お主の『白氷』という技、その応用性を高めるためにいろんな武具を扱えるようになっとったほうが良いだろう? ほれ、まずはその剣から……」
その言葉を聞いて一歩後ろに下がる。
「さよならっ!!」
「逃がさんよ。月朧 水鏡」
全く逆の方向に走り出したマサミチの動きを技で制する。
マサミチの目の前に波紋が生まれ、そこからサンガツの姿が見え、すぐに形を持った。
「うわっ!? 何今の……!?」
「くぁっはっはっは! 儂が師に選ばれていたら教えていたのだがな、とりあえず一か月は逃がさんからな?」
「助けて……」
という経緯がありました。
……はぁ、まだサンガツの弟子は見つかる様子もないらしくこの様子で行けばあと一か月はこれが続くかもしれない。そうなったら確実に死ぬだろう、身体よりも先に精神が。
修行の合間合間で仕事も出されるし……はぁ、本当に逃げ出したいなぁ……逃げないけど。
勢いよくご飯を掻き込み、合唱をしてから席を立つ。深く深くため息をつき、そして木刀を手に持ち、修練を積みに行くのだった。
……という事で、
拝啓、アルベリ様
私は今も元気に……元気に? 生きています。
多分明日も……もし次の手紙がなければ察してください。
敬具。
「なーに勝手に締めくくっとんじゃ阿呆」
「ぎゃああ!?」
マサミチが受けた仕事は掃除や物の修理の手伝いなど、所謂便利屋的な仕事をしていました。(賃金は出てます)




