番外編 天悪を語り、先へ至るは英雄の軌跡(4)
何て遠い回り道……何やってたんだ俺は……
助けてーっ!! と心の中で叫ぶ。
現状としては腕を組み威圧感のある目で行動を抑制させる強者ムーブをかますことで何とか一命を取り留めていると言っても過言じゃない。一歩でも
市販用自衛魔道具、これを作った奴は天才で、尚且つ性格が終わっている。
所有者の一番使いやすい大きさに変わると言う天悪の炎に酷似した性能を持つ魔道具だが、まだ言葉も喋れない0歳児ですら扱えてしまうシンプルな作りに反して、平気で人の命を奪える凶器だ。なんとお値段1200円、お買い求めやすいね、人の命と天秤にかける値段じゃねぇし、まず人に値段は付けられん。
国民の平均的な魔力量から考えると半数以上の奴らが全力で魔力を打てば能力者だって殺せる火力を出すことが可能だ。
で、だ。今の状況は四方八方を市販用自衛魔道具を向けられている。
さて問題、この状況を何というでしょうか。
答えは絶体絶命だ。
さっきの戦闘で俺も少なくはない量の魔力を消費した、場合によっては普通に死ねる、辞世の句でも詠むか?
「冤罪だ、俺は何にも、やってない……か。大作が生まれちまっ──たぁ?!」
手を挙げ、無害アピールをしようとしたところ、何かが足に巻き付いた。
その何かがグインと勢いよく足を引っ張り、転倒しそうに……。
「おわぁぁあぁぁぁ!???!」
転倒どころか一本釣りされ、物理的にすくわれた足には糸が撒きついていて、勢いよく釣り上げられた。
叩きつけられた、とまではいかない勢いで屋根に投げ出される。
普通なら敵意満々ですぐに攻勢に出るところだが……相手が相手だ。
「あっぶ……助かったわ、ありがとなグレイ」
「いえ、ご無事で何よりです、アルベリ様」
釣り上げられた先、民家の上に待機していたグレイがアルベリを待っていた。足に巻き付いた糸が解かれ、アルベリは倒れ込む。
「っはぁ~つっかれたぁ」
ごつごつとした屋根に寝転がるがほぼ竜の身体の今だと身体が痛くなるどころかちょうどいい硬さのマットみたいに感じる、極楽やで~。
「にしても、グレイはクソ親父に何か仕事投げられてたんじゃなかったのか?」
「はい、それがこれです。アイヴィス・ノクスの半身の討伐、その補助が私の仕事です」
「ふーん。……ふーん?!」
は、あのクソ親父それも知ってたのかよ。あんのクソ親父めふざけやがって……禿げるまで髪の毛毟ってやろうかな。マジで。
「はぁ、俺やっぱりクソ親父とは仲良くなれそうにねぇわ、ストレスで禿げそう。ってかよ、自分で言うのもなんだがこの姿を見ても驚かねぇんだな」
「えぇ、どんな姿でもアルベリ様はアルベリ様ですので」
「……。お、おう、まぁ俺はオンリーワンな存在だからな」
「そうですね、それはそうとアルベリ様、私はそれ治せますが、どういたしますか?」
「えっ?」
……えっ? いやえっ? 治せるの、ってか治し方知ってるのか? ……まぁグレイだから知っててもおかしくない? のか。
「治せるんなら願ったりかなったりだ、頼めるか?」
「はい、では少しだけ口を開けてください」
「うあー。……ア°?!??!!?」
控え目じゃなくて結構大きめに開けた口に糸がなだれ込んできて変な声が出る。口を起点に身体の内側のいろいろな場所に糸が張り巡らされてる感覚がある、ぐちゃぐちゃに張り巡らされたその糸達がピンと張られるとともに──
「ポゥピュエ!??」
ギュンと体を巡る魔力の流れが乱れ何かが身体の中に収束した。
「少し荒療治でしたが、大丈夫ですかアルベリ様」
「おう....ゲホッ、問題ねぇ。………………んで、ちゃんと戻ったな」
手から腕、腕から体、なぞるように見たがそこにはもう鱗の様な物はなく自分自身の、人間の身体に戻っていた。
不思議な体験をした、きっと治してくれた本人のグレイにすら見えていないだろう、あの姿は俺の身体に流れている先祖の血が覚醒した事で偶然なった姿、それを治すときに血に作用したグレイの糸、それが俺の中の何かに触れたのだろう。
さっき見えたそれは俺をあの身体にした血が見た輝かしい伝説。
ラーフィットの先祖”戦竜”グリンド・ラーフィットの体験した百年戦争の断片。
ブツ切りになった記憶だった、ある時は人間大の蟲を両断し、ある時は槍を持って突撃してきた豚を焼き殺し、ある時は逃げ惑う現代で見た事のある”神獣”の足をねじ切った。
戦争の断片、後世に語り継がれた輝かしい伝説の断片は血に塗られてひどく濁っていた。
皆が憧れる英雄の姿はそこになく、美化された歴史に埋もれた真実を教えてくれた。
「まぁ、だから何だって話なんだけどな」
「……? どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。ありがとなグレイ」
本当にどうでもいい話だ、俺が過去を知ったって何も変わらない。その歴史も、俺の意志も。
「なぁグレイ」
「はい、なんでしょうか」
「俺ぁどうだった、うまくやれたかな」
「世事はきっと今は望まれてないでしょう、なので忌憚なくありのままを。
精進が必要ですね、ですが、とても恰好良かったですよ」
自分でもわかってた、ダメダメだったってな。でも、”恰好良かった”、その一言でこんなにも嬉しい物なんだな。
「まだまだだな、でもここで止まるつもりはねぇよ、俺は。雨が降ろうが槍が降ろうが姉貴のゲンコツがが来ようがぜってぇ諦めねぇ」
目を閉じれば今しがた見えた過去の光景。
無垢なあの頃信じてやまなかったヒーロー。
現実は違ったとしても目指す場所は変わらない
「っは、良いじゃねぇか、綺麗ごとを吐かしたって、どんな絵空事でも貫き通しゃ英雄だ」
子供の様な理想でも、願い追い続ける限りは手を伸ばして未来へ進んでいける。
夢みたいいつかの理想の代わりに俺が本物になる。
「一番近くで見ててくれ、俺が英雄になる所を」
「はい、お供いたします。私は、貴方のメイドですから」
目指した理想が虚構なら、俺が体現すればいい。
憧れた伝説が虚像だったなら、俺が"本当"を作ればいい。
たとえ相手が天使でも悪魔でも、俺の炎は人を救うために振るう。
ああ、それが、俺の英雄としての一歩目だ。




