番外編 天悪を語り、先へ至る英雄の軌跡(3)
投稿期間空きすぎ問題、それもこれも英検が悪い。
【重斥排反】
それがたった今、アルベリが天悪の炎を振るった時に使った技術。
効果は”重量の無視”という単純なもの。
天悪の炎に与えた魔力が咀嚼して飲み込まれる前に能力効果を天悪の炎に付与する。ただそれだけの技術。
その猶予は決して長くない約0.2秒の時の狭間、精密な魔力操作を勘のみでやってのけた事で生まれた高等な技術。
果てしない修練の果てにたどり着く頂きに、曲解に曲解を重ねてロンダートをした事でたどり着いてしまった妙技。
武器への特性付与と言う現時点でアルベリを含む三人しか出来ない技術。
もちろんそれをアルベリが知る由もない。
ぬちゃあ、と言う音を立てながら持ち上げられた鉄の塊は斧であった時と同じように破壊したものを喰らう。それは今しがた叩き潰された女の血肉も例外ではない。
「マジか……、マジか……」
もはやこれで無理なら自分にあの女を倒す術など存在しないと確信しているアルベリは恐る恐る天悪の炎を地面から離す。
それと同時に魔力の起こりを感じ、絶望が口から零れ出る。
嘘、だろ……そこまでかよ。
脳で能力を使用するのが通常、通常の人間の弱点としても魔力的な弱点としても有効打足りえる脳への攻撃。それすらも無駄だと一笑に付す肉体の再生が血を啜る鉄と地面との間で断行される。
ぐちぐちと音をたて、擦り潰されたはずの肉片が跳ね、膨張し人の身体を形どる。
あぁクソが、何だってんだ、諦めるか? もう、手は尽くしたはずだ。相性が悪かった、そう納得するしかないだろ……
──ん、あっ……え、マジかマジか! 待てよ今気づいたぞ! そうか、そうじゃねぇか!!
一目見ただけじゃわからない、きっと今の身体になってからじゃないと気付けなかった。
明らかに魔力が減ってる。
見た時に気づけるヒントはあったってのに……俺も駄目だな。
あの女が再生する時、血やら肉片やらがくっついて治った。治るまでのプロセスで魔力を消費しないのは常にイメージとして固定していた自分の身体の形に戻っていただけだから。
そこに天悪の炎の特性、武器の形状を変える時の特性は姉貴の【強食】と酷似している。
叩き潰したことで今まで少しづつしか吸収出来てなかった魔力の減りが顕著になった。
来たぜ見えたぜ活路! だけど、多分あいつが一番わかってる、俺が気づいたって事に。
恥も何もかなぐり捨てて逃げるだろうな、野次馬共の方へ。
想像していた通り女は少し離れた所で見ている野次馬の方へ駆けだした、足を逆のくの字の形、所謂”馬”の足の形に変形させて。
「逃がすかよぉ! ……っ!?」
疾駆の鉄槌を使い女を追おうとした瞬間躓きそうになる。
「靴底が剥がれた?! クッソ、脱ぐしかねぇか」
片足分だけ脱ぐとバランスが悪くて不安定、両の靴を靴飛ばしの要領で女の進路歩行に蹴り飛ばす。
タイムロスの分は確保した、裸足だと足が痛くなるが無問題!
野次馬共の所だと天悪の炎が振り回しずらい、行かせる前にぶっ飛ばしてやらぁ!
「即興必殺! 覇翔の鉄槌ァ!!」
裸足が地面を踏み締め、重量を破壊したことでもはや小指でも持てるようになった天悪の炎を担ぎ跳躍する。
ゴォォンと風を切る音と共にアルベリは能力を解除する。
破壊された重さが元に戻り、重さ換算で言えばトンは優に行っている天悪の炎が確実に女を捉え、重力に従い加速する。
「ひっ……! またっ──」
──ボジュン!!
尋常ならざる圧力によって地面と天悪の炎の間から血が飛び散る。
「きゃあっ!!」
「うわっ!」
確実に女を捉えてたとはいえ逃げていた事実は変わらない、少しだけ離れた位置にいた最前列の野次馬数名に血が飛び散る。
こんなに近くに来てたのが悪いが【肉体支配】の能力が血にも影響するなら厄介だ、人質がつくられる可能性は少なくしといたほうが良いだろう。
「おい、飛び散った血は拭いとけよ。死にたくなかったらな」
よし、これで伝わったは──
「きゃー! 殺される!」
なんでそうなる……。
血が頬に付いた野次馬その一が悲鳴を上げる。
え、捉えようによっては脅した……のか? 誤解を与えそうな発言をした俺が悪……いややっぱ俺悪くなくない!?
はっ!? そういえば客観視化け物だったわ。そりゃ人一人潰してる俺が悪人にしか見えんわな。
「待て、待て待て。俺もどちらかと言えば騎士団側って言うか……とりあえず、落ち着け?」
じりじり下がるのは俺としては願ったりかなったりだが、その自衛用の魔道具構えるのは勘弁……ぎゃー撃って来たァー?!
市販用自衛魔道具という仰々しい名前の銃から放たれた魔弾が当たりかけバランスを崩す。
普通ノータイムで撃って来るかよ!? 蛮族極まってる奴いるじゃねぇか!! ……あっ!!!
体勢を崩した時、手に持っていた天悪の炎の持ち手に少し身を預け、隙間を作ってしまったしまった。
瞬間、小さい人影が人ごみの中へ姿を隠す。
「見失ってたまるかァ!」
咄嗟に伸ばした腕が服の形をした皮を掴む。
だが所詮はただの皮膚から作られただけの服モドキだ、走り出そうとした勢いのまま掴んだ部分のみが破れ裂かれ、その姿は人ごみの中へ消えた。だが問題はない。
はん、馬鹿が。お前の魔力で創られた皮を残した時点で追跡されるのは自明の理なんだよなぁ!
魔力の性質は帰られない、そういう能力でもない限りな、それに街中で能力及び魔力を使用することは軽犯罪と同じ、今みたいな自衛用の道具を介してない場合は極力魔力を抑えて生活してるのが普通。
身体の再生のため、微量とは言え能力を使った女の場所は良くわかるぜ。
「ちょっと退いてな」
警戒を色濃く見せた民衆を無視し高く飛び上がる。翅がなくとも竜の身体、かの戦争で一騎当千の活躍を可能にした強靭な肉体を受け継いだその足は人で密集し充分な溜めを作る事を許さぬ場所でも大跳躍を魅せる。
その全てを俯瞰できるほど高く飛び上がったアルベリは既に目標をその眼に捉えている。
「とはいえ、何故か羽が無いからなぁ。俺の身体、普通の両生類だったか? 俺。ともかく、こんくらい飛び上がれば見えるだろ、頼むぜェ!! 大先輩!!」
その声が届いたかはわからない、ただその信頼にシープは能力で応えた。
他の人の服の裾から何筋もの糸が伸び、逃げようとしている女の前に降り立たせる。
「よぉ、逃げれると思ってんのか?」
「っ!! それ以上近づかないで!」
既に体を構成する肉と魔力の大部分が食われた女は女児と変わらぬ体躯をしており、どれほど啖呵を切ったって怖くない、脅威を感じない見てくれになってしまった。
だがそこで起死回生を狙ったのか逃げ遅れた少年の首を掴み、手を刃物のような形にして首に当てる。
女は子供を盾に、じりじりと下がる。
「助け……」
泣きそうな声で少年が命を乞う、民衆からしたら絶体絶命、アルベリには何もしようがないと、そう思うだろう。
だって、人質を取られているのだから。
だと言うのに、アルベリは心の中でため息をつく。
追い詰められて自棄にでもなったか? そんなんに引っ掛かるかよ。
大股で一歩、それだけで女が稼いだ短い距離のアドバンテージは消える。
明らかに怯えた表情を浮かべる女は手の刃物を強く押し付け少年の首に赤い一筋の傷を作る。
「……こないでって言ってるの!! これが見えないわけ!?」
「助けて……死にたくないよ……!」
人質を盾にしているというのになんだか俺の方が悪者に見えるなコレ。
ったく、こんな猿芝居に付き合う義理はねぇ、野次馬共にどう見られようが関係ねぇよ──な!!
「ぐぶぅ!?」
もう一歩進み、腕を前に出す。
ほとんどの魔力を消費したその身体を貫くことは容易で、少年諸共心臓を貫く。
胸を貫通した腕にぶら下がった二人の内、少年の身体から力が抜ける。
「いやぁ!」
どこかから悲鳴が上がる、やっぱり俺が悪者じゃねぇかなコレ。
まぁ魔力から察するに……ってよりかはそれ以外ありえないが良くもまぁこんなに精巧な人を瞬時に創れるわな、そこだけは驚嘆に値するぜ。
とはいえ。
「捕まえたぜぇ? もう逃がさねぇよ」
「う……? あ、貴方……斧、どこに……」
口から血を流しながら女が問う。
そんなことかと少し笑い、アルベリは口を開く。
「ここに」
二人の人間を貫いた腕を指さし笑う。
女が見えない腕の先、完全に貫いた腕の先、女の心臓が身体の中から出た事を知らないかのように鼓動を続けている。
血で腕と見分けがつかないが確かにその腕には黒鉄が纏われていた。
「喰らいつくせ 血染めの魔斧」
ぶちゅ、という音と共に掌の上に置かれていた命の結晶が無残に散る、内包されていた血が外に飛び散る間もなくアルベリの腕に纏われている天悪の炎に吸われていく。
「あ……あぁ、あ……ぁあ」
萎れていく、と言うのが正しい表現だろう。物理的に血の気が引いていく顔が憎しみに染まるのが見える。
だが、俺が見てるのはそこじゃない。
「ちぃっ!!」
腕が変形してやがる、鎌……まずいっ!!
「全員しゃがめぇぇぇぇぁあ!!」
喉が裂けるのも厭わない程、声を張り上げる。
でも駄目だ、間に合わない……!!
変形した腕が振り回され、数多の首が宙を舞──
「…………?!」
祖からの雑草でも刈るかのように振るわれた鎌が途中で止まる。
空の光を反射するほど輝きを放った銀糸がどこからか伸び、命を奪うはずだった鎌を縫い留めたのだった。
「……大先輩? ──いや、お前か……っは、ありがとな、俺にはやっぱりお前しかいない。」
「助かったぜ、グレイ!」
どうしてここにいるかとかそんな事はどうでもいい、助けるものが減った、ならば空いた手でやる事は一つ。
「死ね」
既に潰した心臓の残りかすを万力の握力で擦りつぶす、破壊の力も込めて、跡形も残らないように。
もう魔力の残りも一切ない、その状態ですら【死耐性】が発動するとしてもどうとでもなる。
チェックメイトだ。
「お前……は、逆鱗に……触れた」
「あぁ?」
崩壊を始めた女の身体、爪先から徐々に塵になっていく中、明らかにさっきとは違う目で俺を睨み、残った口で忌々しげに声を挙げる。
「私は【黄泉の魔女】アイヴィス・ノクスの半身。
永骸と命律を司る我の半身を壊した、逃げられると思うなよ、お前は……必ず……わた…………が…………」
そう言い残してその女、アイヴィス・ノクスは消滅した。
「……はぁ、なんだってんだ。ったく、クソ親父め」
起きたら叩きのめしてやる。と、その言葉は胸の内にしまっておく。
それにしても、さっきの奴は何かが違った、半身、まぁつまりは分け身って事だろう。
それが直接干渉してきたって事でいいのだろう、名前に一切聞き覚えはないが、消え際、それも魔力も何もなかったあの瞬間ですら元の女の状態よりはるかに強者の圧を感じた。
おそらく、クソ親父よりも強いであろう、そんな気配。
厄介毎に巻き込まれたのは間違いない、さぁてこれからどうしようか……。
ま、それよりも先にこの「散々抵抗した女児を人質諸共殺した変な見た目の化け物」というレッテルを張られて総攻撃を仕掛けられそうな状況からどう逃げようか。
え? 何も間違ってない? はは、その通りだクソッタレ。
助けてーグレーイ、何処にいるか分からないけどこのままじゃ主が滅茶苦茶にされちまうよー。
「化け物ー!!」
バァン!
「違ぇってぇぇぇぇ!!」




