番外編 天悪を語り、先へ至る英雄の軌跡(2)
「な、なんで……?」
信じられないものを見た様な顔だ。
クソ親父じゃなかったにしてもそこまでの反応をされたら少々傷つく。
「アイツ、無理してたからな。今頃は屋根の上で寝てるぜ」
アイツなぁ、本当にクソボケなんだから……自分の呪いまで利用してでも隠したい物なのかね。
──数分前
「と、言う訳だ、後は実践あるのみ。そうだろう? 俺もついて行くからやってみろ」
ビリアンは弓の形に変わった天悪の炎を斧の形に戻し、手渡してくる。
理屈もやり方もなんとなく分かった、クソ親父の言う通り、後は実践あるのみだ……ってそれで終わったら良かったんだけどな。
「……はぁ、クソ親父。気づいてないとでも思ったのか? とっとと休めよ」
ぶっきらぼうに言い放ったその言葉は、他社から見たら異様な物言いだっただろう。
だがこの場には二人、それも状況を完全に理解している二人だ。隠し事は意味をなさないだろう。
「……ふむ、気づいてたか」
ボロボロで不安定な屋根にどかっと座ったビリアンは大きく息を吐くと同時に少量の血を吐く。
今まで見えていなかった傷口が急に姿を現し、ビリアンの着ているシャツを真っ赤に染める。
この世界において傷口を隠す意味合いは、傷口から魔力のリソースである血を無駄に消費しないためだ。致命傷を喰らってもなお傷口見えていないと、相手に効いていないと錯覚させることもできる。
だが今に関しては……。
「やせ我慢。そんなに俺に情けない姿を見せたくなかったってか? カッコ悪く思われたくないとかの理由ならもう手遅れだ、無駄だよ」
ビリアンには呪いが掛かっている。
【感情の欠落】、喜怒哀楽が抜け落ちてしまう呪い。この呪いは誰かに掛けられたわけではない。
自らの犯した罪の代償だ。
姉、アルベリの姉のオーニアスは死産だった。その運命を捻じ曲げ、命を繋いだ。
そこに使われていたのは禁忌、”死者蘇生”。
世界樹の力を使ったそれは、たった一個人の為だけに使う事など言語道断、法で定められており、尚且つ初代国王が公平を期すためにストッパーをかけるほど厳重なものだった。
そのストッパーを無理に破ったビリアンには呪いが掛かったと言うのが経緯だ。
感情が消えたからって痛くない訳でもないのにな。
「……そこで大人しくしてろよ。俺が、アルベリ・ラーフィットが倒してきてやるよ。任せろとは言わん。どうせ任せてくれないんだろ? だから勝手に行くぜ、止めてもな」
返事を待つことなく、アルベリは屋根から飛び降りる。
だから、ビリアンの言った言葉は独り言になってしまった。
「悪い事をした。俺は嘘までついた。死者蘇生、そんな事はしていない。……アル、お前じゃ駄目なんだ。お前がどれだけ強くなっても、俺が────オーニアスには、絶対に勝てない……」
だから、すまない。その最後の言葉は謝るべき相手には届くことは無い。
さぁて何かを考えてる暇はないぞ、俺。
大先輩が人払いをしてくれたとは言え遠巻きに見てる野次馬共はいる。長時間ここに居たらある程度騒ぎになるし俺自身この姿からの戻り方もわからない。……クソ親父は知ってるっぽかったがアイツが起きるのを待ってからじゃ遅いし、てか元の姿に戻れるのか?
てかまずどうやって【死耐性】を攻略すればいい? いや攻略する必要はないのか、拘束すれば……ってもう一つの能力が【肉体支配】だからすぐに抜けられるか。
気絶させる……って言っても半端な火力じゃ意味ないし、そもそもそういう火力調整だなんだは苦手なんだよ!
「だぁー! くっそ、考えると事が多い!!」
とりあえずぶっ飛ばす!! 疾駆の鉄槌!!
今回は口に出して技を叫ばない。もとより速度重視の技だからイメージが浅くてもどうとでもなる。
それにこの姿になってから調子がすこぶる良い、それに天悪の炎の性能について理解が行ったからかもう自分の腕かってくらい自在に動くぜ。
意図的に魔力を調整し、天悪の炎を自分の胴程の大槍に変形させる。
強く深く地面をけり、疾駆の一撃が女に回避行動すらもとらせず貫通、もとい抉り抜く。
「ぃぃぃい! 痛いじゃない! このっ、化け物!」
「はっは……そこまでやっても元気そうじゃんかよ」
空中を飛んだ頭から体がギュルっと生え、元通りになる。
過敏になったアルベリの魔力探知はほとんど減っていない魔力を正確にとらえていた。
あぁくそが、インチキにもほどがある、魔力の消費がほとんどないだと? 能力を特性くらいにまで落とし込んで”常時発動”と”消費減少”を可能にしてやがるのか……。正真正銘の不死じゃねぇか。
「まぁ生憎痛覚は残ってるっぽいし……」
ぐちゃぐちゃにしまくって降参させるのが一番手っ取り早いか。
とくれば……。
再び天悪の炎が形を変え、質量保存の法則を無視し、武器としての概念を超える。
形容するのなら大きな鉄のハンマーだが、その実態はただの大質量の鉄の塊だ。
先程まで変わっていた槍の時点で斧の刃の部分以上の鉄で構成されていたが今回はそれ以上、大の大人が両手で包み込もうとしても収まりきらないほどの大きさ。
「……嘘でしょ」
残念ながら本当だ、能力をオートマにするのだって脳でオンオフ切り替える必要があるんじゃないのか? 単なる仮説だがチャレンジしてみるほかない……が。
「ンギギギィ……」
しまった大きくしすぎた。
そこらにある民家よりも大きくなった天悪の炎は、もはや元の形を保っている持ち手で支えられている事が不思議なくらい大きく重い。
全身の力を使ったアルベリですら持ち上げているのを継続する事しかできない。
「は、あはは。ば、馬鹿ね、今のうちに……」
天悪の炎を見て青ざめていた女はアルベリが武器を十分に扱えていないことを悟ると足早に逃げようとする。
んがー! 予想以上に大きくしすぎた。どうする、このままじゃ逃げられるぞ……。
……やはり伝家の宝刀、気合+根性戦法でいくしかない!
広げろ、広げろ広げろ……! 能力の解釈を!!
「逃がしませんよ……!」
逃げようとしている女の足元にシープが糸玉を投げつける。
着弾すると同時に足を絡めとり行動封じる。
「邪魔しないでよ! あの化け物から逃げな……きゃ……」
「よう、呼んだか?」
「嫌、嫌ッ! 待っ──」
全ての言葉が終わる前、振り下ろされた鉄の塊が大地を揺らした。
アルベリがビリアンに当たりが強いのは母親が植物状態になってしまう少し前、母親の誕生日をすっぽかして仕事をしていたことから嫌われて、そこから数々の事が起きて今に至ります。
実際は母親の為に何かできないかとユグレシアを駆けまわっていたのですが、アルベリはそれを知りませんしビリアンも言うつもりはないのですれ違ったままという。




