番外編 天悪を語り、先へ至る英雄の軌跡(1)
長すぎた
ああ長すぎた
長すぎた
まあいいかと
諦めるかな アンディオス
字余りやね
「あっ! 逃げた!」
自身の身体の変化に驚いていると、いつの間にやら傷が全快している女が大先輩を外に投げ飛ばした穴から外に出た。
くっそ、追いかけようにもこの身体じゃ何か変な混乱を生みかねない。
どうしようか……うーん、そうだ、外には大先輩がいる。重量の奴相手には足をやった状態じゃ厳しいが、あの変形肉女の攻撃は所見でいなせてたし、少しくらいなら時間を稼いでくれるはず。
「そうくれば……!」
上の階でまだ戦ってる気配を感じるクソ親父の敵をとっととぶっ飛ばして協力させる。
未だ掴んだままの斧を脆そうな天井目掛けて投げる。
仮にも鉄の塊、朽ちかけた木の天井など容易く破壊し、上への道が開通する。
と、同時に。
「がっ?!?!」
ゴィィンと言う鈍い音が破壊された天井の音とは別に聞こえた。
なんだ今の? クソ親父っぽい声じゃなかったが……まさか……そんなまさか。
急いで開通した穴から天井に上ると、そこには転がった斧と気絶している知らない奴、そしてクソ親父。
おぉう……やっぱりやっちまってたか。
嫌な予感はしていた、だがやっぱり戦うなら正々堂々が良かったぜ、畜生。
「てか、親父は何をそんなに手こずってたんだよ。腕でもなまって錆びちまったか?」
「いや? 腕はなまってるとは思うが、能力が少々厄介でな。攻めあぐねてただけだ」
一時期は騎士団の隊長格にいた実績があるクソ親父が苦戦してるんならなんかしらのがあるとは思ってたが……。
「【魔力操作】の能力を持ってるクソ親父が手こずるなんてな……変化系の能力か?」
「いや、概念系【適応】の能力が厄介でな。それを見越してお前らと離れて戦ってたわけだが、なるほど、意識外からの攻撃が最適解だったか」
ビリアンは何でもない事を言うようにケロッと答えた。
「おまっ、適応だぁ? もしかしてそれを感づいて各個撃破とか言ったのかよ」
アルベリは知る由もないが適応と簡単に言ってもその脅威度は言うまでもない。
ビリアンはの倒した男 (トドメはアルベリだが)は、首を絞めようとすれば軟化し肺とは別の呼吸法に自動で身体が適応する。もし刺突なら身体がゴムのように破れなくなり、内臓に一切傷が行かないように臓器が適応し移動する。
要するに防御性能に特化してる厄介な敵、と言うのが総評だろう。
「ふむ、まぁそうだな。と言うか戦いに赴く前に情報が入ってはいたからな、どいつがどの能力を持っているかはわからなかったが、まぁ消去法で見つけ出したからな。シープ君には悪い事をしたとは思うが」
「はぁ!? じゃ、じゃあ親父は相手の能力を把握してて……」
自分で言ってて頭がおかしくなりそうだ。報連相は常識だろうがよ。
「そういえば言ってなかったな。でも重量変化の能力者は倒したようだな」
「あぁ……。だけど今もう一人の女に逃げられてんだ。あいつ明らかに致命傷を喰らわせたはずなのに死んでねぇし、なんなら傷がいつの間にかふさがってるから化け物だぜ。で、あいつの能力なんだよ、知ってんだろ?」
外で大先輩が戦ってんだ、早く加勢しなきゃ……いやそこじゃなくて、俺の身体じゃ外に出られないからクソ親父を、ってそれが本題だった!
「何を焦ってるかは知らんが落ち着けアル。
それとあの女の能力は【肉体支配】と【死耐性】だ。無策で行けば逃げられる」
「は……? いや、は?」
なんだそれ正真正銘の化け物じゃねーか!
んな相手に無策……ではないらしいけど、そんな奴相手に喧嘩吹っ掛けたのかよ!?
「そりゃいくら何でも無理だぜ、姉貴の【強食】で魔力を全部食べるとかしか攻略法ないんじゃねーの? 俺の破壊はあくまで”魔力防御の無視”だぜ? 能力効果まではどれだけ都合のいい理想を思い浮かべても無理だぜ」
イメージ次第で能力の効果を広げたりは出来るが限度ってものがある。肺呼吸しかできない人間がエラ呼吸をしているイメージをするようなもんだ。てかまずイメージがムズイだろうが!
「考えてない訳じゃないさ。アル、お前の能力は何だ?」
「何だって……破壊だって知ってんだろ」
「そうじゃない、もう一個だ」
「もう一個……【蓄積】の事かよ。あんなのが何だってんだ」
自分で持っている能力だが、十七年間これっぽっちも活用法が思いつかなかった産廃能力だと今でも思ってる。
「ふむ……アル、母さんが四つの能力持ちだって話は知ってるよな?」
「当たり前だろ、んで? それが何だってんだよ。ってか早く大先輩の加勢に行った方が──」
「今のお前が行ったって無駄だ。いたずらに魔力を消耗するだけだ。その姿を完全に使いこなせるようになってもな」
棘のある言い方がアルベリ胸を刺すが、言い返す事は出来ない。
実際、【肉体支配】【死耐性】を聞いただけでアルベリは勝つイメージが見えなくなっていた。
どう倒す、どう殺す、どう追い詰める……。その全てが、思いつく全てが絵空事だと、そういうしかないと理解した。
「話を続けよう」
ビリアンは倒れている男を一瞥し、起きる気配のないことを確認する。
「お前らの持つ能力はもとは二つで一組だった」
「……どういう事だ」
「お前も知ってるとは思うが大体の人間は一つあっても二つ、能力を持っている。だが三つ以上になると話が変わってくる」
「どれだけ強固な肉体を持とうが人間である限りは二つまでしか能力を持つ事は出来ない。それ以上は母さんの様に植物状態になるか、心肺機能が弱り、二十を超える前に死ぬか、だ」
「話は逸れたが、先祖から受け継いだ能力、それが母さん一人に集まった事で混ざってしまった」
「【強食】と【狂水】」
「【破壊】と【蓄積】」
「今はそう分かれているが本来は違う」
「本来の組み合わせは──」
ビリアンが指を二本、静かに立てる。
「【強食】と【蓄積】」
「【破壊】と【狂水】」
「強食で取り込み、蓄積し、必要な時に放出する」
「狂水で痛覚を消し、破壊を止める枷を失う」
「……これが今まで受け継いできた形だった」
ただの説明だったはずなのに……。
口が自然と動く。
「……なんだよ」
弱々しい声が響く。喉から漏れた声は、一瞬自分の声かどうかすら判別が難しいほど小さく、か細かった。
「失敗作だって……そう、言いたいのかよ」
短くついた悪態が、果たして本当に届いたのかは分からない、ただ短く一つ。
「だからお前に天悪の炎を渡したんだ」
自然とうつむいた顔を上げ、ビリアンの顔を真正面から見る。
いつになく真剣な目をしていた。
先の言葉、それが何を示した言葉なのか、反芻してもわからない。だから口を開くことなく次の言葉を待つ。
「真銘解放を使ったことがあるならわかるだろう」
「天悪の炎には【強食】と似た効果があると」
「あっ……」
心の底で何かが嵌った気がした。強食、蓄積、天悪の炎。
そういう事なのか……。
胸を熱いものが満たしていく感覚がある。俺は、俺はまだ──
最強に……!
「……お前は、最強になるべくしてなったオーニアスとは違う」
「お前には悪い事をしたと思っていた」
「…………」
寸前まであった熱い心が冷えたのが分かった。
どれだけいい所を見つけたって、人間の根本は変わらない。
何が、何が悪い事をしただよ。俺が弱いのは能力のせいか? 俺が姉貴に追いつけないのは能力のせいだって言いたいのか? なんだよ、それ……。
「強食と蓄積、疑似的であれその力を使う事が出来るお前ならオーニアスにも届くと思う。
それと、さっきは時間が無くて言えなかった、お前はアドバイスより、見て覚える方が早いだろう? ついてこい、アル」
ビリアンから差し出されたその手にアルベリは天悪の炎を預け、ただひたすらに黙ってついて行く。
「先んじて餌をやれ」
「要はあれだ、天悪の炎に魔力を食わせろって事だ」
黒い金属がうねり伸び、細くなる。
言葉と天悪の炎の変形は止まらない。
「ベリアルは持ち主の魔力に引っ張られる」
やがて、それは斧ではなくなった。
「大半の人間は身体を魔力で覆っている。その形を読み取り、最も扱いやすい武器へ変化する」
天悪の炎は弓へ変わる。
禍々しくもなお、美しく。
生きているかのように。
「それを利用する」
ビリアンが弦を引いた。
瞬間、空間から魔力が集まる。
捻じれ、圧縮され。
炎となり、矢となる。
そうして初めて弓矢と成る。
「魔力にイメージを乗せろ」
黄金の瞳がアルベリを見る。
「武器を作るんじゃない」
炎の矢が唸る。
「魔力に乗せ、理想をコイツで具現化させるんだ」
ビリアンがそういった次の瞬間、弓弦が解き放たれた。
私一人でもやらなくては……。
たった一人、シープは自分が出て来た壁の穴から出て来た女を正面に捉え、己が持てる全てをもって目の前の敵をこの場に留めるを決意した。
あの少年は私を庇って大切なものを失った。
”糸”が能力であるが故、たかが目くらましとして使用され、無残にも破かれたあの服が、どれほど大事にされていたのかわかる。
あの服の特徴はビリアン官長から聞いた事がある
もう目を覚ますことがない母からの最期の贈り物だった服だと。
私の責任だ、認識が甘かった。事前に情報を聞いていて、敵の能力についても把握していたのにこの体たらく。騎士団を目指している彼に示しがつかない。
「私が足止めをする……官長が敵を撃破し加勢が来るその時まで、私の糸があなたを離さない!」
シープの足を見て安堵し、すぐに逃げようとした女の足を縫い留める。
女が着ている服は糸ではない。【肉体支配】を利用して造られた皮の服。だがそれを知らないシープにとって、それは糸以外の何物でもない。
「ッ!! なんで! 糸を操るだけじゃなかったの!? 邪魔しないで、あの化け物から一刻も早く遠くへ行かなきゃいけないの!」
瞬間、肉が膨張し魔力が沸き上がる。
錯乱し大量の肉塊を放ったが、その悉くをねじ切る。
今、シープすら理解の外の現象が起きている。
皮を糸と誤認したことが、発射された肉片に混じった皮膚にも適応される。
なんだか知らないけどあの肉片には私の能力が通じる。これなら十分足止めは十分可能。
「早く……」
小さくつぶやいた。
ビリアンがどういう状況かシープも理解している。
それでも、希望を持たずにはいられない。
「早く来てください……」
あの拘束が破られる前に……。
足止めは成功している。その均衡も保たれている。
そこに、第三者の介入が行われる。
一瞬の気の緩みもない戦場に朱色の閃光が走る。
「きゃあぁぁぁ?!」
突然飛来した炎に身体が焼かれ女は悲鳴を上げて倒れ込む。
シープは感じ取った。
実力に全幅の信頼を置いているビリアンの魔力を。
建物の上から人影が飛び降り、自分の後ろに降り立つ。
やり切った、繋ぎとめた、後は任せよう。
「官長……後は──」
期待を込めて後ろを振り向いた時、言葉が途切れる。
黄金の身体。
朱色の髪。
たった一本の角が額から突き出している。
その姿は百年戦争の英雄、戦竜。
その姿に酷似していた。
自分の記憶にない姿なのに、口が自然とその名を呼んだ。
「アル……ベリさん?」
「あぁ俺だぜ、大先輩」
アルベリは少し不敵に笑う。
「……クソ親父じゃなくて悪かったな」
そういうとアルベリは一度振り返る。
瞳の色は変わっていない。だがその瞳孔は縦に細長く、正に竜の目と言えるものだった。
それでも、シープはその眼に威圧感などは微塵も感じなかった。
「でも任せてくれアイツは、俺が倒す」
──若き英雄がいた。
最初は落ちこぼれて、最強に埋もれていた少年。
だが少年はそこで燻ぶらず、己を磨いた。
彼は決して最強ではなかった。
だが、誰もがその努力を認め、称えた。
これはその軌跡の一端、不撓の英雄の序章である。
「……クソ親父。てめぇにも見せつけてやる。証明してやるよ。
凡人だって、最強に追いつけるってな!」
アルベリがお気に入りキャラ過ぎて主人公より主人公してるよ……。
主人公変更したいなぁ……。
駄目だよねぇ。
あとあり得ない凡ミスやらかしたので修正しました。だから八千文字もあったのか……




