番外編 ろくでなしのクソ親父(3)
中々厳しい相手ではあるが……一人はどうとでもなる。が、大先輩がいる以上そうもいかない。
と、いう事で。
「大先輩、背中に乗ってくれ。無理ならシャツの繊維とか使って引っ付いててくれ」
「はい。わかりました」
背中に人一人分の重みが乗るが移動に支障はない。
……今のはデリカシーなかったか?
アルベリは頭の中で自分の言葉を嚙み砕きつつも、斧をしっかりと握り、魔力を込めて食べさせる。
街中、それも市街地での真銘の解放は出来はしないが、天悪の炎に魔力を食べさせるのには意味がある。
それは、真銘解放に酷似しているが、威力はその限りではない。
〝炎〟の小出しが可能になる。
「炎ビームってな!」
天悪の炎が歪な形に変わり、ちょうど中間の辺りで割れ、高熱の帯が放たれる。
敵意を持って放たれた一撃だが、それがメインの行動ではない。
放たれた炎が推進力を生み、その力の流れるのまま──
ぶったたく!
「炎廻の覇撃!!」
炎を吐き回転しながら回避行動をする二人に肉薄する。
回避行動といえど、決して広くない屋内での行動など限られている。そこに向けて、必殺の一撃を放つがアルベリと同じように壁を突き破り回避される。
「その程度で逃げれたと思うなよな」
狙うは男の方、こっちさえ仕留めてしまえば大先輩を下ろして戦えるからな。
壁を人蹴りでぶち破り、その拍子で出て来た木屑を炎で焼き払いつつ、斧で斬り裂く。
大量の血が噴射され、暗闇の中でただでさえ悪い視界がさらに悪くなる。
血で視界が埋め尽くされる前の刹那、確かに見えていた。
あの女、庇ったな? 防御力に自信があったのか知らねぇが〝破壊〟で能力効果は無効化できる。
順序は狂ったが、とりあえず一人──
「アルベリさん! 避けて!」
背中から聞こえる鬼気迫る声と共に、腹部に鋭い痛みが走る。
身体から血が抜けていく喪失感と、異物が腹部に貫通している不快感が混ざり、口内に溢れ出て来た血と共に地面に吐き捨てる。
「こりゃあきちぃな……。舌ぁ噛むなよ、大先輩」
腕を背中に回し、服にくっついているシープを剥がして外に向かって投げる。
重傷を負った時点で俺は荷物になりかねないが、足を怪我してる大先輩とくらべりゃあ俺のがマシだ。
腹に穴開けられたからそこまで力が入らないとなると、背中にいる大先輩にまで気が回らない気がした。それに重量を操る奴じゃない方の能力が分からない以上、もう迂闊に責められねぇ。
けどまずは……。
「付与 重化」
「ぐぉあぁ!?」
身体が支えられる最大重量を大幅に超えた物体が傷ついた腹をさらに抉る。
起き上がろうにも重さは許容量外で、ただただ悶え足掻く他ない。
「あら、まだ貫通すらしてないの? 頑丈すぎじゃない?」
「は、はは。それだけが取り柄なもんでな……!」
痛い、が別にそこはいい。動けないのはまずすぎる。次のが避けられねぇ!
──ブチッ!
もう一つ投げ込まれた物体はアルベリに当たることなく地面を抉る。
「あ”ーくっそ。また救護医院に逆戻りコースじゃねぇかよ!」
身体を吹き抜ける風を感じながら、天悪の炎を傷口に押しつけ止血する。
止血をしようが身体に穴が開いており、重症であることは変わりない。
「それにしても……あなた無茶するのね」
「自ら身体に穴を開けるとは阿呆か……」
散々な言われように思わず涙がちょちょぎれるな。ったく、殺し合いの最中ですら馬鹿にされるのか。
にしても、目が使えなくなっちまった。拭ってもいいがその隙をつかれたら普通に死ねるからな。
頼れるのは嗅覚、聴覚、それと……。
「魔力探知……か」
苦手なんだよ。魔力は何かを強化するエネルギー的な認識が固まっちまってるせいでそういった応用が難けぇ。気配だけを感じるのならあいまいだけどできはする、けど今は正確な位置を理解できなきゃだからな……。
まずい状況だ。あぁ、だってのになんでだろうな。
なぜか笑いが込み上げてくる。胸の高まりが、何でもできそうな高揚感を生む。
心臓が跳ね、
「はっ! 負ける気が一ピコメートルたりとも湧いてこねぇなぁ! 目が見えなくて丁度いいハンデだ! かかってこいや、二人まとめてあの世に送ったらぁ!!」
優先順位は出来ている。能力が割れている男の方から先に片づける。
地を這う蛇尾如き低姿勢で気配のする場所に間合いを持っていく。
常に魔力でセンサーを張ってる状況下、地面にある障害物の存在も感じ取れるがアルベリ・ラーフィットはそのこと如くを押しのけ粉砕し、斧によって蹂躙する。
「ヤケクソか……」
そう呟いたのは男、シジュウであった。
目の見えない状態で魔力の完治だけを頼りに戦うのは自殺行為というに相応しい。
例えるならば目隠しをした状態で妨害有りの鉄骨渡りするのと同等だ。一歩も踏み外してはいけない状況下で数多の妨害を全て避け、目標に到達することなど不可能。そういうしかないのだ。
シジュウの能力は重量変化である。
魔力を込めた物体の重量を〝自分が体感した事のある〟重量に変化させることができる能力である。
能力の発動条件は、魔力で重量を変化させたい物を覆う事。その性質上から攻撃の発生を読まれることもしばしば、重力に逆らう事の出来ない重量を変化させるという点から上空に回避され完封されることもある。
だが、今の状況ではそうはいくまい。
そう心の中で呟いたシジュウは能力を発動させる小石と混ぜて、ただ魔力を纏わせた石も同時に放り投げる。小さい物だから魔力で覆うハードルは低い。だが体感した事のある重量の物とのギャップで、ある程度重量は低下されている。それでも、人は頭のある程度の重さの物が当たれば大抵は死ぬ。魔力で防御力をあげていようと、衝突の際の衝撃は防ぐ事は出来ない。
シジュウの策は正しかった。アルベリのあまりに杜撰な魔力探知の技術ではわずかに見られる能力発生の起こりは認知できない。
だがそれでも──
アルベリはその策が正しいと、理解できてしまった。
無茶のない体勢で身体を捻り、重量の変化した小石のみを回避する。
「なっ!?」
今日がわずかに意識を硬直させる、そんな一瞬の隙をアルベリは感知する。
斧の持ち手を意図的に折り曲げ、跳ね飛ぶ。
飛び出したアルベリは降り注ぐ魔力を纏っただけの小石を物ともせずシジュウを間合いの内側に入れる。
「ッつ!! 付与 重──おぐ!?」
壁を蹴り、天井で跳ね、立体的な動きでシジュウの後ろを取ったアルベリは、その動きに対応しようとして少し無理な動きをした隙を物がさなかった。
足が、掴まれた。
「ウェェルカァァム!! 死んでも止まると思うなよォォォ!!」
叫ぶと同時に武器のように振り回し始める。
目が見えないから壁に当たってるかどうかすらわからないからとにかくぶん回す。
とはいってもバキッやらゴシャッやらは聞こえるから当たってるとは思う。実際、力強く振り回しすぎて感覚が正確ではなくなってるけどな。
「っつてもよォ! そろそろ当てる物がなくなってる気がァ! す……るゥ!!」
もう一度空中でぶん回してから聖剣を地面に突き立てるかの如く叩きつける。
三回しくらいで気を失っていたシジュウは一切の抵抗なく床の板を貫通し、下半身を残して地面に埋まった。
人数不利が消えた。
もう顔の血を拭いたって良い。だが、自分でもわからない自分の成長が、今はただただ楽しくてしょうがない。視覚を奪われているこの状況が、戦いの中で制限されているこの状況が、俺に変化をくれる。
正直言うとさっきの男の策は今までなら引っかかってた。
でもなんでかな、ビビッて来たんだ。嗅覚でも聴覚でもない五感にあてはまらない今までにない新しい感覚が。
〝第六感〟が。
「破肉腐!!」
アルベリが新しい感覚を知覚した時、既にも一人の仲間は動いていた。
仲間を盾にされていた状態ではなかなか撃てなかった肉の大砲をアルベリに向かって放つ。
その時、アルベリの身体は勝手に動いてた。
つい先ほど、破裂した肉片が自分の右手を貫いたことを忘れたかのように斧ではなく、素手で受け止めた。
魔力の籠った鋭い衝撃が手に伝わるが、痛みは一切届かない。
アルベリ自身は気づいてない身体の変化、それは第三者からすれば異質で〝神々しい〟変化だった。
「化け……ものッ……!」
そこに佇んでいたのは数十秒前までは〝人〟としてそこにいた者。
魔力を帯びた金色の輝きを放ちて〝人〟の仮面を脱ぎ捨てた翼無き竜。
上裸であるが故に露出している上半身には鎧の様な鱗が覆っており、ある伝承に酷似している姿である。
「ずいぶんとまぁ名にそぐわない技だなぁ!」
既に恐怖が感情の大部分を占めている女の前にアルベリは接近する。
棒切れのように軽々と振り下ろされた斧は自分の身体を守ろうと前に出された女の肉や骨ごと全てを断ち、廃屋に血の花びらが舞う。
ふぅ……終わったな。クソ親父の方は……まだ戦ってるな。今なら気配でわかるが、なるほど相手は身体を軟化させるって感じの能力か。相性をあの一瞬で把握して場を任せる……認めたくねぇけど、やっぱすげぇな。
視界を遮っていた血を拭き取り、外に投げ飛ばしたシープの安否を確認しに行こうとすると……
──ガキッ
背中に衝撃を感じた。視覚から情報を得る事が可能になってしまった、その為、研ぎ澄まされた感覚よりも慣れ親しんだ視覚からの情報を脳が優先して処理してしまった。
だが、それでも。
「なんで……なんで効かないのよ……! 確かに無防備な背中を、魔力で覆ってない背中を刺したのに……!」
声が聞こえて初めて後ろを振り向く。大量の鮮血を撒き散らし、命を失ったはずの女が腕を巨大な槍のような形に変容させてアルベリの背中に突き立てていた。
驚愕に染まった表情を添えて……。
「ははっ……。俺も言いたくなるぜ……。なんでてめぇ死んでねぇんだよ……それに傷、治ってるじゃねぇか」
二人してお互いの事を化け物を見るような眼をしている。
そして、そこで初めて女は見る。アルベリの眼を。
「その眼……。まさか、まさか貴方、できるの!?」
「できるだぁ? なんのこt──はぁ!?」
その時初めてアルベリは自分の姿が目に入る。
目に入る全ての物が、新しい情報として目に入って来る。
黄金に輝く鱗が「皮膚ですよー」とでも言いたげな様相でそこにいる。
十七年間も寝食を共にしたマイボディが変な爬虫類みたいな姿になっとる!?
なんじゃこりゃー!?
ば、番外編なのに……。重大な設定をゲロってしまう羽目になった……だと!?
やはりその場のノリで小説を書くのはダメって事か。




