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異界のアイオライト  作者: アンディオス
六章 一枚のページを捲るために
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第六十九幕 こっちは暇してたぜ

「はぁ……はぁ……」


 ――強ぇえ。


 目の前の女、メグリジェ・チェル。

 その戦闘能力は圧巻であり、敵ながら感嘆を禁じ得ない。だが、賞賛している暇なんかねぇ。

 斧を振るい続ける。


 斧はみね打ちにしてある。だが、正直言って、その配慮が必要かどうか怪しくなるほどの状況だな。


 そもそも、バリオスの家族(ファミリー)の連中は、不老ではないが不死。

 つまり、みね打ちで済ませる理由は薄い。


「ラァアぁ!」


 だァークッソ! 全部紙一重で躱しやがる。

 避ける動きに無駄がねぇ。だから確実に反撃が必ず飛んでくるし、なにより……。

 能力が読めねぇ。

 俺の破壊は純血のバリオス共には意味をなさねぇが家族の連中なら不死を無視できちまうから迂闊に使えねぇ。

 だから、能力消しながら戦うのができねぇ! 纏う系か状態変化系かのどっちかだとは思うが、その発動してる能力ぶっ壊すのには本体にぶち当てるしかねぇ。

 あぁクッソ! もどかしい。


「うっ……ラァ!!」


 みねで風を切りながら大斧がメグリジェに向かって勢いを増していく。

 二倍ほどの体格差から繰り出される一撃はみねうちであろうと優に命を奪える火力を越している。

 その一撃が今、胴体へ届こうとした刹那。


 ──ブゥゥン。


 まただ、この音が鳴ると──


「ぐ……! ぶえぇ?!」


 二撃、たった二撃でアルベリは吹っ飛ばされた。


 一撃目、逸れるように受け流した斧の軌跡に身を重ね、アルベリに肉薄する。

 軽い肘打ちがアルベリの肉体を小突く。

 そこで、アルベリの反応の良さが仇となる。

 連撃を警戒し、胴に魔力を集中させた。その反応速度はピカ一であらゆる攻撃に耐えうる魔力の障壁がアルベリの身体を包む。だがそれは、胴に限った話である。

 アルベリの反応の良さを短時間で理解したメグリジェは、〝能力〟を使い、その掌底で魔力の手薄な顔を打ち抜いた。


「だぁー!! もう一回だァ!」


 そのダメージがなかったかのように向くりと起き上がったアルベリは、再び魔力を高め構えを取っている。

 だが──


「いや、もう終わりだよ。タイムリミットだ」


 今にも飛びかからんとする獅子の行動を掌のみで静止する。

 アルベリは勢いを失い、毒気の抜かれた顔でメグリジェの視線の先にある物を捉える。


「ん? もう帰って来たのかよ」


 その声音には、わずかな退屈が滲んでいた。



 数十分前


 あいつ強くなってたなぁマサミチ。

 相手の奴の情報は効いたことないがバリオスんところで幹部の席についてるってこたぁ結構強いっぽいしな。

 強くなったってのもあるが……なんか()()()が消えたみたいに感じるな。心境の変化でもあったのかね。


「暇、してるだろ? ラーフィットの」


「んお? ああ、チェルの所の。久しぶりっちゃあ久しぶりだな。で? その口ぶりからすっと暇つぶしのお遊びでも考えてくれたのかよ」


 こいつの顔みるのも久しぶりだ。

 数年前ネスユノのカス共に嵌められて一時期かくまってた時以来か……。

 ってか大体の貴族連中はカスか……。


「暇つぶし、と言っても単純なものさ。やらないか?」


「……! いいねぇ、前は事情が事情だったから手合わせできなかったが今なら思う存分やれるな」


 メグリジェ・チェルは数少ない姉貴に近接戦闘で勝てる奴だって聞いたことがある。

 興味が沸いてたんだ、またとないチャンスだ。逃す訳がねぇ。


「チェル家相伝から外れた支配系の能力、見たことも聞いたこともなかったから楽しみだぜ」


「期待、に応えれるよう尽力しよう。だがあくまでも暇つぶし、彼と母さん達が帰ってきたら終わりだ。それでいいね?」


「おう、問題ねぇ」


 と、言う会話を経て模擬戦をやってた訳だが……。

 もう時間が来たみたいだ。

 話しかけに行きたいんだが、ちょっとその前に。


「ん、ありがとな」


「ふふっ、君、こんなことする人だったかい? ともあれ、良い戦いだったよ」


 笑いながら握手を交わす。

 ま、確かにコイツが家にいた時は反抗期真っ只中って感じだったしな。それもこれもクソジジイのせいなんだが……。


「一様聞いとく事にしてるんだが、アドバイスとかあるか? いろんな視点から見た自分を知りたくてな。悪ぃが良いか?」


「ああ、勿論、いいとも。そうだね……君、単純な力押しに見せかけて技巧と策を巡らせて戦うタイプだろう? そのスタイルを意識しすぎている、だから逆に冷静に対応しやすかったかな。単純な力押し、と策を考えて戦ってくるタイプ、では戦い方が変わって来るからね。

 後は、斧、だと間合いが分かりやすいと言うのもあるね。」


「なるほどなぁ、間合い、それに意識のし過ぎ……か。んっし、サンキュな!」


「お安い御用、だよ」


「じゃ、また機会があったらな。

 おーい! マサミチ!」




「はぁ!? お前バリオスの家族(ファミリー)入るのか!?」


「うん。まだ決まった訳じゃないけど、ほぼほぼ確定かな」


 全部の事情を聞いた訳ではない、掻い摘んで話を聞いただけなのにアルベリがここまで驚くのには理由がある。

 マサミチも既に知っている事実、不死の特権だ。

 不死、と聞くといいこと尽くめだと思うかもしれないがバリオスの血で不死になった場合デメリットがある。

 それは何か。


 それは、厳密にいえば不死ではないからだ。

 不老ではない、と言うのは周知の事実だが、もう一つあまり知られていない事がある。

 不死を越え死に至る条件、それは『自分自身で〝死〟を認める』事だ。

 死を認めるとバリオスの血の中にある不死の効力が消え、死に至る。

 逆を言えば死を認めない限り死ぬことは無い。

 そう、死ぬことがないのだ。

 死にはしない限り、死の痛みと恐怖から逃れる事は出来ない。

 バリオス本体とは違い、家族の血の濃度では再生はするが非常に緩やか。

 四肢を捥がれようものなら死以外に苦しみから逃れるすべはなくなってしまう、と言う訳だ。


 無論、この事実を知っているのは極少数で王族直属の貴族であるアルベリは知っているが、基本は幹部以上しか知りえない事実である。


「あ、僕は血は受け取ってないよ。みんなと人として一緒に生きたいからね」


「お前って奴は……! 流石と言うか筋金入りというか……。ま、お前らしいわ」


「? あ、それと僕ここで仕事することになったから」


 ん、まぁそうか。

 バリオスは家族間ですら金勘定には厳しいって話だしな。


「そうか、暇だし手伝ってやりたい……って言ってやりたいがちょぉっと野暮用ができたんでな。終わったら手伝いに来るぜ」


「そうなんだ。じゃあまたしばらく会えなくなるね」


「いんや? そうでもねぇぞ。俺次第なとこもあるだろうからな」


 それと、あのジジイ……いや、クソ親父が素直に教えてくれるかだな。

 ともかく、行くなら早いほうが良いだろ。マサミチ達と仕事するの楽しそうだしな。


「そんじゃ、俺ぁ先に行くぜ。また今度な」


「うん、また今度」


 さてさて、ちょこっと頑張ろうかね。

 お、グレイ、呼ぶ前に戻って来た。

 準備は別に要らないしな。


「クソ親父がどこにいるか調べに姉貴ん所に行くぞ、グレイ」


「はい。アルベリ様」


 目的はクソ親父に天悪の炎(ベリアル)の事聞きに行くことだ!

 ハッハー! 気が乗らねぇなぁ! チクショー!

「そういや、グレイは何やってたんだ?」


「ラランジュ様と話を」


「まじか……俺ですらちょっと話しかけに行くのに抵抗を感じたってのに」


「まぁ、感情が読みにくいという点においては意思疎通が難しいですが……」


「なんだ、煮え切らねぇな」


「いえ、アルベリ様もコミュニケーションに抵抗を感じるんですね。どんな貴族ゲテモノにも抵抗を感じないと思ってたのですが」


「……ん? 馬鹿にされたか、俺?」


「いえいえ、そんな事は」


「ならいいか」



 平和すぎる会話を書くのも楽しいですね。

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