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異界のアイオライト  作者: アンディオス
六章 一枚のページを捲るために
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第六十七幕 前座

「おっしゃー! やったれマサミチ!」

「負けないでー! マサミチ君」


「セイアン! 負けたら飯抜きなー!」

「セイアン。負けたらカッコ悪いよ。一様ふぁいと」

「気合入れなー!」


 さて、何故こうなった……。

 輩っぽい人、セイアンと向き会った状態で構えを取っている。

 真剣な表情でこちらを見据えている。

 戦うしかないのか────




 少し前


「そこ、退いてくれない?私の席なんだ」


「え……あ、すみません。すぐに退きます」


 急かされてるわけではないがなんか急がなきゃいけない気がしていつもの三割増しくらいの速度で動いた。

 僕が退いてすぐ、僕の座っていた椅子に腰かけ、ツクモに手招きをした。

 コツコツと歩く音を立て、白髪の女性の前に立つ。


「さて……どうせお前だろう」

「あはは、バレましたか! そう! 何も知らない少年を嵌めま……いだだだだだ!」


 ツクモの頭にアイアンクローをかましつつ、首だけをこちらに向ける。


「すまない。自己紹介が遅れたね。私はバリオス、バリオス・ワルプルギス。このユグレシアの全ての財政に関わるものだ」


 自己紹介と同時に差し出された手を掴み、軽く自己紹介を返す。


「ユイガマサミチです。よろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼もう。うちのベィリィーンが世話になったらしいからな、何でも言ってくれ。可能な限り要望に添おう」


 極めて有効的な態度で接してきている。

 喧嘩をしたい訳でもないので助かる……が。


「あのー」

「ん?ああ、カミヒトの事は気にしなくていい。しょうもない事をするのが好きな奴なんだ」

「いや、そうではなく……」


 煮え切らない様子の僕にわかりやすく疑問符を浮かべているバリオス。

 僕の視線は、その先の──


「そこの、青っぽい髪の女の子は誰ですか?ずっと頭の上に乗っかってますけど」


 時が止まったような気がした。

 もとから止まっていた時間から更に音がすべて消えた様な、そんな静寂が訪れた。


「……えっと、何か問題がありましたかね?」


 沈黙に耐え切れなくなった僕が声を挙げた瞬間、バリオスが指を鳴らした。

 そうしてメグリジェとラランジュに引き連れられて……今に至る。


 やっぱり意味が解んない。

 と言うか肝心のベィリィーンの話をする前に連れ去られた。


 あたりを見回してみると一度行ったことのあるコロシアムに似ている。

 ……似ているからどうしたっていうんだよ、何この状況は……


「ボスの命令で君と戦う事になった。すまないが拒否権はあまりないと思っていてくれ」

「……なんで戦うんですか?」

「まぁ、それはボスに言ってくれ。俺も良くわからん」


 思わずため息が出る。

 意図していない戦いにばっかり巻き込まれている様な気がする。

 最悪だ……なんて思いながらも既にどう戦うかに思考がシフトしている。

 凍てつく心は正常に発動しているみたいだ。


「お前ら純人は戦いに慣れていないと聞いている。俺は死なないし、傷を負っても治す当てがある。遠慮せず来い」

「……わかりました」




 さて、事前情報はある。

 さっきの雑談のおかげで少しだけ相手の手札を知る事が出来た。

 『獣化操作』がセイアンの能力らしい。

 変化系ではなく操作系らしいが、まぁそこは考えても仕方のない事だろう。

 ともかく、最初はこの作戦で──


「行くぜ。手加減はしてやれないから、痛いのが嫌なら死ぬ気で抵抗してきな」

「はい」


 セイアンの魔力が高ぶっている。

 メキメキと音を立てて身体が変化していく。

 厚みがあり、ある程度の攻撃であればすべて防げそうな毛皮に鋭い爪。

 金色(こんじき)(たてがみ)を有した、まさに──


「獣化 獅子王(ライオンズ)


 百獣の王だ。


 低い唸り声が大気を揺らす。

 鬣が逆立ち、魔力が溢れ出ている。

 圧倒的強者のみから発せられる死の圧がマサミチの身体をすくみ上らせる。


「ガァァァァァ!!」


 その一瞬でセイアンは駆け出していた。

 優に三メートルは越える巨躯が弾丸のようなスピードで駆けていく。

 両者の間にあった間合いはたったの一歩で詰められ、もう一歩で──


「四季・冬式 堅氷(けんひょう)


 セイアンが二歩目を踏み込み、その爪を用いて攻撃を繰り出す足したところを、マサミチの氷が静止させる。


 セイアンは見くびっていた。

 サンガツから聞いた話だと死にかけてようやくやる気になっていたと、そう聞いていたから。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ────ブシュッ


 攻撃がまだ来ないと割り切っていたセイアンは初撃に全体重を乗せていた。

 全体重を乗せた足が、踏み出そうとした足が氷によって固定された。

 たったそれだけで、いともたやすくセイアンは転倒した。

 そして、転倒した先に創られていた氷の地獄に、頭を貫かれた。


「えっ……」


 全員が混乱していた。

 初手で、それも一瞬で、純人であるマサミチがセイアンを()()()

 その事実は、殺してしまった本人すらも困惑させた。


 死んだ……というか殺した?

 そりゃあ殺す気で行ったけど、そんな簡単に……


 胃の中身がぐちゃぐちゃになったような感覚で一杯になり、殺した罪悪感と一緒に吐き出した。


「お”え”え”ぇ”ぇ”」


 視界がぐらぐらする。

 そんなつもりじゃ……。


「おい、大丈夫か?」

「うっ、はい。……。はい……え?」


 うずくまっている僕に声をかけたのはセイアンだった。

 先程殺したはずの、セイアンだった。


「いやーやられたぜ。油断してたとはいえまさか一瞬でケリつけられると思ってなかったぜ」

「え?は?え?」


 何事もなかったかのように話を続けられて〝?〟で頭がいっぱいだ。

 え、確かにさっき頭に刺さって……??


「とりあえず、もう一戦だけやろう。俺の失態だが、今のじゃボスも何もわからんだろうしな」


 いろんな感情でぐちゃぐちゃになっている僕を他所に、構えを取るセイアン。

 とりあえずと言う形で僕も構える。


「しゃ、行くぜ」


 先程と同じように一直線に飛んでくる。

 違いがあるとすれば一歩の踏み込みだけでこちらに向かってくることと、足がライオンではない別の動物の足と言う所だろう。

 一歩でこちらに来るという事は滞空時間がさっきより長い、つまりは。


「空中で身動きは取れないでしょ」


 大きな隙を晒している事に他ならない。


『四季・二式 廻雹(かいひょう)


 一つ一つが鋭利な刃物のように創り出した雹を、秋式の『秋風』で打ち出す。

 殺傷力はないものの、傷を与える事には特化している。

 目などの脆い部分に当たれば食い込み、最悪失明するほどの傷を与えれるだろう。


王の権威(メイン・キング)

「……!」


 セイアンの首から生えていた鬣の毛量が劇的に増え、全ての氷を絡めとった。

 一瞬で無効化されたのはショックだ。

 だが、ショックだけで終わらせてはいけない。


「四季・冬式 骸氷核(がいひょうかく)


 足元から突き上げるように生成された氷のアッパーカットがセイアンの顎元を打ち抜く。

 が、何事もなかったかのように骸氷核を掴み、その上を駆ける。


 威力を上げるために大きくしたのは愚策だった。

 それに、見えた。

 氷とセイアンが重なり、僕から見えない死角となった位置で、種類を変えた。

 見た所は羊の毛で威力を吸収したか。


「集中できてないね」

「なっ……」


 前にいたはずのセイアンの姿が急に消えた。

 だが依然として声は聞こえる。


不意打つ小撃(キュウソネコカミ)


 背後より声尾が聞こえたその瞬間、何かに押しつぶされて意識が消えた。





「あ、起きたか。マサミチ」

「アルベリ?」


 上下が反転している顔が視界に映る。

 この位置関係、この顔の見え方……。


「膝枕……か」

「はっ! 喜べよ」

「ちょっと喜ぶレベルの硬さじゃないかな……硬すぎて首痛いもん」

「HAHAHA、ぶっ飛ばすぞ。おらとっとと起きやがれ」


 軽口を叩き合いながら身を起こす。

 まだ後頭部の辺りにズキズキとした痛みがある。

 これはセイアンから受けた攻撃の痛みだろう。

 ともかく、アルベリには礼を言わなければ。


「ありがとね」

「おうよ、っと忘れるところだった。お前が起きたらある場所まで連れて来いって言われてんだ」

「そうなんだ……わかった」


 その会話が聞こえていたのか、見計らったかのようなタイミングで白い髪のバリオスが背後に立っていた。

 と思っていたらベィリィーンだった。

 イメチェンだろうか……だなんていうつもりはない。

 そこそこ理解はついている。


「じゃ、ちょっと行ってくるね。アルベリ」

「おう。あっ俺らは模擬戦でもして遊んでるから気にしなくていいぜ」

「了解。行こう、ベィリィーン」


 そうして僕とベィリィーンは初めに行った部屋に戻った。

次の話が重要になるので中途半端で区切ります。文章量がやや多くなると思うので少々時間が掛かると思いますがご了承……

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