第六十六幕 初めまして……なのか?
一日が始まった。
ソラは僕よりも早く起きていたらしく昨日とは違う服に着替えていた。
なんでも悪夢で先に目が覚めたそうだ。
可哀そう、という気持ちはひとまずの間置いておくとして、僕も早く準備を終わらせた。
ソラはまだ僕から離れるのが怖いらしい。
この状況ならば昨日の二の前になる前、人通りの少ない時間帯に出たほうが面倒は少ないだろう。
そう考えて僕らは外に出た。
少し経った時、問題が起きた。
ソラと少々揉めたのだ。
と言っても小さな事で、朝早くだから人通りは少ないとはいえ人に見られるのは恥ずかしかった。
だからソラに「少し離れて歩かない?」提案したのだ。
結果、「絶対に離れない!」と抱き着かれてしまった。
歩きにくいことこの上ないのだが……別に悪い気はしない。
ただ、恥ずかしいだけ。
「よお、マサミチ。面白そうなことになってんじゃんかよ。」
. ……その声は
懐かしいと言うには認識がおかしい気がするが、ともかく、今、一番会いたくない相手の声がした。
ギギギと首だけを動かし、声のした方を振り返ると、口元を緩めニヤニヤとしているアルベリがいた。
「み、見なかったことには──」
「ならねぇよ。こんな面白い状況見逃せるかよ」
がっしりと肩を組まれ、もはや逃げ場がなくなった事でマサミチは観念した。
「──って感じで、こんな状況になったんだよ」
ともかく、情報を共有しておくべき仲間にあった事はマサミチにとっては僥倖だった。
知らない情報、曖昧な情報は掻い摘んで話した。
「ほーん。そりゃ災難だったな。だがまぁ、生きててよかったじゃねぇか、なぁ?ソラ。つってもそんなべったりくっついてなくてもマサミチはいなくなったりしないだろ」
「……四六時中グレイにべったりなアンタには言われたくないわ」
「はんっ、耳がいてぇな。けどよ、家族と一緒にいるのとずっと友達といるのとじゃ違うだろ?」
「……うっさい」
そう言ってからソラは静かに僕の袖を離した。
名残惜しそうな眼をしていた気がしたので、ソラに耳打ちしておいた。
「また掴みたくなったらいつでも掴んでていいからね」
「もういいよ、子供じゃないんだし」
拗ねてしまった。
最近はソラの知らない一面をたくさん知れて嬉しい。
今までのキリッとしてたソラは多分素じゃなくて作ってたんだろう。
「にしても、アルベリは何でこんな所にいるの、オーニアスさんはもう大丈夫?」
「ああ、姉貴は完治した。なんならついでにいろいろ聞いたからお前らが何をしようとしてるかもわかってるぜ」
ああ、そうなのか。
でももう一つの質問の答えは何だろう。
そう思ったが、アルベリが続けて言葉を発した。
「俺らはお前らがなんかやってるって話聞いてよ、暇だったから探しに来たんだ。まぁ探しに来たはいいがお前らは見つからねぇし、なんか離れの路地は戦いの跡があるし、何ならそこで倒れてた奴ら助けたらバリオスの奴らに呼ばれるしでよ。」
「……その犯人僕たちだね。サンガツっていうお爺さんいたでしょ?」
「いたな」
話が完全に合致した。
だけど少しおかしな点が浮かび上がって来た。
サンガツ達がバリオス邸の息がかかった人たちだとして、ベィリィーンが終われていた理由は何だろうか。
それに、追われていたのに何で集合する場所をバリオス邸にしたのだろうか。
「何ボーっとしてんだマサミチ。着いたぜ。」
考え事をしているうちに着いたようだ。
昨日の今日だし、サンガツ達と揉めたって話っも伝わってるだろうし……本当に何でベィリィーンはここを待ち合わせ場所に?
「おーい。客人だぞー、開けろーい」
アルベリがガンガンと扉を叩き、大声をあげて人を呼ぶ。
数秒もしないうちに誰かが来る音が微かに聞こえた。
その音に反応したアルベリは一瞬だけ振り返った。
「グレイ、あれ」
振り返ったアルベリは両手を前に差し出し、手首をぐるぐるとするジェスチャーをした。
あれ、とは何だろうか、と考える間もなくグレイが僕らの前に立つ。
彼女は〝あれ〟の意味が理解できたのだろう。
「手を出して下さい」
言われるがまま手を差し出すと、優しい肌触りの糸が手錠のような形になった。
圧迫感を微塵も感じさせない手腕に静かながらの称賛を送っていると、グレイは続けて言った。
「息苦しいかもですが、ご了承ください。隠糸」
僕とソラを取り囲むように糸が撒かれた次の瞬間、糸が僕とソラをキュッと包み込んだ。
何の説明もされてない状況に少しながら困惑している。
ソラはどうだろうか。
「……!?」
横を向くと、青あざや擦り傷、打撲痕がくっきりと浮かび上がったソラの姿があった。
ソラの方も僕のことを見ていたらしく、同じように驚いている。
「何用だ」
顔を見合わせていると、バリオス邸の扉が開かれ、昨日門前払いしてきた人が出て来た。
相も変わらず厳つい。
「話はいってんだろ、サンガツっつうジジイを助けた礼をもらいに来た」
「そいつらは?」
「土産だ。昨日サンガツから聞いた奴の特徴に似てたんでな。違ったら違ったであとで捨てればいいしな」
「……入れ」
数度の問答を経て、中に入れるようになったらしい。
僕たちの姿がボロボロになってるのは、アルベリがボコボコにして持ってきたというのを通すための変装みたいなものだろう。
だとしてもなんか言えばよかったのに……。
「おら、とっとと行くぞ。ついて来やがれ」
細い糸で創られた錠を引っ張り、屋敷の中に入っていく。
先程、門で見張りをしていた人は、変わらずそのまま見張りを続行している。
つまり、一瞬だが自由になった。
「……先に言ってよ」
「ははっ、いいじゃねぇか。俺が機転を利かせたおかげで全員入れたんだからよ」
「そうだね、皆んなが無事に入れたしね……じゃないよ!? 急すぎるって。僕慌てて俯いて「僕がやりました……」的な雰囲気出してたんだからね」
「ははっ、演技派だなぁマサミチ。ンなことしなくても入れたぜ?多分」
「そうかなぁ……」
いい加減な返答に呆れていると、廊下の方から物音がした。
聞こえるか聞こえないかくらいの小さな音だったが、それとは別に大きなモノを感じた。
「くぁっはっは。よくぞ参られたアルベリ殿、そしてユイガよ」
そこにいたのは老骨、サンガツだった。
腕が糸で繋がれているながら警戒の体勢を取る。
「まあ待て、ここで殺るつもりはない。ちと案内を任されてな。着いて来てくれ」
手招きをして廊下を歩いていく。
最近行った常盤の雫の教会に負けず劣らずの綺麗さだ。
内装のベクトルは違うが、綺麗な事に違いはない。
なんというか華やかだ。
常盤の雫の方はウルルがいるから良く建物が壊れたりする、だから装飾とかは替えが聞きやすい白で統一されてるんだろう。
対するこっちは所々に金が散りばめられてたり絵画が飾ってあったりと、イメージそのまま貴族って感じの内装だ。
「ここだ。中でベィリィーンも待っておる」
「え?」
信じられない事が聞こえた。
ベィリィーンが?ここに?てか中に?え?
「いいから入らんか」
困惑している所をサンガツに押されて部屋の中に入る。
──中にいたのはお面を被った人、見た感じ日本人の人、そしていかにも幹部っぽい人、輩っぽい人!
個性的な面々、まさに小説とかに出てきそうな格好いい組織だ!」
「……」
急に何を言っているのだろうか。
部屋に入ってすぐ、黒いスーツに身を包み、綺麗なピアスを付けている男の人が声を挙げた。
ハイテンションで、語り口調で……。
変な人だ。
「えっと……その……あっ」
助けを求めるように辺りを見回すと、確かにベィリィーンがいた。
知ってる顔がいると言うのは精神的に良い物だ。
少しだけ緊張が和らいだ気が──
「やぁやぁ! 君がサンガツに手傷を負わせたっていう子供かい?彼は私たちの中でも指折りの武闘家だ。彼を打ち倒し、逃げ切ったというのは一種のステータスになりえる! 君は若いのに凄いな!」
ずいと近寄って来た自称日本人っぽい人が早口でまくしたてる。
「待て待て、その小僧じゃない。儂が手傷を負ったのは後ろの金髪の娘じゃ」
「おや、そうなのかい?」
露骨に興味を無くしたように見えたが、サンガツの一言ですぐに興味が沸く。
「だが、その小僧には三つ、月朧の剣技を使わされたぞ」
「なに!? 本当かい!? 何の技だ?それに今、使った、じゃなくて使わされたって!」
興奮が高まり、大声ではしゃいでいる。
目の前で、知らない人が。
普通に恐怖だし、すごく唾が……
どうしようかと思案を巡らせていると後ろから引っ張られた。
すぐ後ろにいたアルベリが気を聞かせてくれたのだろうか。
ありがたい。
「克服したとはいえやっぱ初対面はキチぃだろ?俺の後ろにいとけ」
そう言ったアルベリに形のある言葉としても礼を言う。
「ありがとう。アルベリ」
「いいって事よ」
ともかく、これで一息つけるだろうか。
考えたいことが山積みだから整理を付けたい。
一つ、サンガツの言葉を真とするのならば、ベィリィーンはバリオスと深い関りがある……と言うよりか一番深い所、幹部辺りの地位にいるんじゃないだろうか。
そうでなければここにいるのはおかしい……おかしい、ことは無いか。
今日僕らが来るってわかってたら本人と話をするために立ち合いくらいはするだろう。
ここに関しては考えてもキリがない、ひとまず放っておこう。
二つ、真偽は確かめれないけど、今、スーツの人が言ってた〝日本人〟
この世界にいる人はみんな〝純人族〟と呼んでいて、地名に関しては何も言ってない。
と言うよりかはいかにも日本人っぽいって自分で言っていたし、あの人は純人なのだろうか……?
それに、純人で大きな組織の幹部クラスまで行けるものなのかな?
まぁ能力や人柄、センスとかもあるだろうから何とも言えないけど。
三つ──
「ねぇ」
「うわっ! ……ってベィリィーンか。昨日は大丈夫だった?」
「うん。お兄ちゃん、ありがとね」
いつの間にか背後に立っていたベィリィーンに驚きつつも、即座に目線を合わせ、笑って話す。
……びっくりして腰が抜けかけたとかではない。
「身体に異常はない?」
「うん?ないけど……どうしたの?」
「やっぱり……。ううん、なんでもない。また後で、大黒柱が来た時に話すと思うから」
最初の方は小声で良く聞こえなかったからよく聞こうとしたが、すぐに元の位置に帰って行ってしまった。
何だったのだろうか。
そこから数分、入れ代わり立ち代わりで色んな人が話してきた。
さっきの日本人っぽいスーツの人、名前は津雲 神人というらしい。
やっぱり日本人だった。
大黒柱?の補佐的な立ち位置にいるらしい。
大黒柱っていうのはバリオス家の内部組織〝家族〟のボスの呼称らしい。
「家族だなんてマフィアっぽいだろう?」と笑っていたが、マフィア?について詳しくなかったから愛想笑いで乗り切るしかなかった。
仮面を被ってる人、ラランジュ。
何と言うか個性的な人だ。
途中まで一言話し終わるたびに仮面がいろんなものに一瞬で変わり、酷く混乱した。
ツクモが「彼女は感情の表現を仮面の色や形で行っているんだ」と説明されるまでは何を考えているか分からなくて……なのに喋っている言葉はちゃんとしてて……でも声色に抑揚が無くて……怖かったなぁ。
いかにも幹部っぽい人、メグリジェ・チェル。
幹部っぽいとは言った物の、服装に派手さはなく、喋ってみた感じ普通の人だった。
髪が短いから男の人だと思って話しかけたら女の人でびっくりした。
ほぼほぼ坊主だったからつい男の人だと……。
でもすごく似合ってておしゃれにも種類があるんだなと感銘を受けた。
それに、凄く初歩的な事だけど、言葉のラリーが正常に行えるって素晴らしい事だって感じたよ。
個性的過ぎる人達だったから会話を成り立たせるだけで一苦労だったから。
そういえば、彼女が言うには幹部はもう一人いるらしいが、今は外にいるらしい。
アカツキと同じ感じだろうかとデジャヴを感じる。
輩みたいな人、セイアン
まさかのアルベリより大きい人で威圧感が凄かった。
でも話は通じる方……だったのかな?
メグリジェと話している時に急に後ろから匂いを嗅がれたから、この人も第一印象は変な人だった。
まぁ能力の影響だと教えられたから変な人ではないと分かったんだけど……。
……本当に個性的な面々だった。
たった数分くらい喋っただけなのにどっと疲れた。
にしてもツクモさんが貸してくれたこの椅子、やけに豪華だな……ふかふかだしキラキラしてるし、座っても大丈夫なやつなんだろうか?
ソラやグレイ、アルベリ達も幹部の方々と話していると、部屋の扉が急に開かれた。
純白の長髪を靡かせて入って来るその人は、見るものすべてを魅了し、引き込んでしまいそうな紅の眼で僕を真っすぐに見つめている。
その人が入って来た瞬間に、それまであった和気藹々とした雰囲気がなくなりピシッとした空気に変わっている。
空気の変わりように思わずボーっとしていると、その人が僕の目の前まで歩いて来て、こう言った。
「そこ、退いてくれない?私の席なんだけど」
特徴的な八重歯を魅せつつ、彼女はそう言い放つ。
どこか懐かしい雰囲気を感じさせながら……。




