第六十三幕 血の才覚
卒業シーズンでごたつきました。受験期に入るんですが出来る限り週一投稿できるよう頑張ります
路地の片側で
私の能力は集団戦向きではあるものの狭い場所で戦うのは苦手だ
それを言い訳にするわけじゃない
単に一人一人が強かった
殺さない程度には手加減していたとはいえタフすぎる
能力を持っていないのが救いだったか……弱いアルベリの軍勢と戦ってるみたいだった
攻めあぐねていた時、後ろから誰かに掴まれた
ベィリィーンちゃんだ
マサミチくんの方にいたはずなのにどうしてって最初は思った
でもすぐに意図が分かった
私を掴んだベィリィーンちゃんの手から流し込まれた魔力にマサミチの氷の文字が映っていた
この感じ既視感がある
何しろこれは、ヒバナとの戦いの後のマサミチくんの魔力の使い方だ
あれは技術として確立されていない偶然出来たものだと思っていたけど、ベィリィーンちゃんはなんで使えるのって考えたりするのは仕方ない事だけど、これは後でもできる事だから今はすぐにでも離れなきゃって、そう思ってベィリィーンを抱えて逃げた
逃げたって言っても空中に
いつでもマサミチくんを助ける事が出来るようにって
私とベィリィーンはそういう理由で建物の屋上に当たる所に避難した
そこから緩発入れずに冷気が肌を襲った
屋上にまで届く出力、だからマサミチくんは私たちを逃がしたのかと合点がいった
私の方には特別強いのはいなかったけど、マサミチくんの方にはこれほどの大技を使わなきゃいけない奴がいたって事だ
心配になったから屋上から身を乗り出して一部始終を見た
一瞬だった
終始マサミチくんの方が圧倒しているように見えて、それなのに老人の方は余裕綽々で全部受け切り
そして、後ろからマサミチくんの心臓を刺した
私は跳ねるように屋上から身を投げ、老人に迫った
「どいてっ! 逆境の華」
心臓に刺さった刀が抜かれれば傷口が完全に開いて死んでしまう
それをさせないために刀を根元から叩き折った
マサミチくんの能力の余波で植物が生成しにくかったが、種類を変える事で対応する
定家葛でマサミチくんの身体を包み屋上まで逃がす
今屋上にいるのは言葉ではなく魔力で情報を伝えるという機転の利いた事が出来る子だ
一瞬だけ任せよう
「樹楼の神捻」
凍っている地面を下から剥がし、上塗りする様に樹木が埋め尽くす
樹楼の神捻は根を新しく生成させる技ではなく、地の奥底にある神木を成長させ、任意の場所に新しく根を生み出す技だ
根だけでは自然治癒能力が上がる程度の加護が関の山だがソラにとっては大きな意味をもたらす
自分は得意なフィールドで戦えて相手には不利なフィールドで戦う事を強制できる
錯綜の根合樹、ヒバナに使った時はチョーの為の日影兼足場みたいな感じで使っていたが今回は単純な攻撃に使う
足元に生まれた成長しきっていない根が不規則に動き続ける不安定な足場の中で幾つにも枝分かれする根は避けられない
「ぐっ……」
サンガツの足に刺さった根は、刺さった上で枝分かれしがっちりとサンガツを固定する
動けなくなった所をソラはトドメを刺しに──
行かない
見ず知らずの老人ではない、大好きな人を殺しかけた恨むべき相手だけど、今はまず優先すべきことがある
マサミチくんを上に移動させた定家葛を掴み自分を引き上げるのに使う
私の能力で生まれた植物には二種類ある
一つはすぐに消えるもの
これは世界樹の魔力を使用した場合にのみすぐに消えてしまう
世界樹の魔力性質によるものなのか強すぎる生命力を内包したことによる自壊なのかはわかってない
もう一つは永続的に形を残すもの
これは私自身の魔力を使って創り出した場合のものだ
メリットは消えないこと、デメリットは創り出した植物が生長した姿に近ければ近いほど植物としての寿命が短くなってしまう
でも私はこのデメリットを無視できる
植物の成長度合いは魔力出力に依存する
そして生成した後に魔力を込める事で成長を速める事も可能だ
魔力と言う肥料を使った場合にのみデメリットは意味をなさなくなる
でもやっぱり欠点も存在する
数段階の工程を踏むことで隙が生まれてしまう点だ
だが魔力で成長させた場合にしかできない技術がある
「生逆」
成長に使われていた魔力を私自身の身体に戻すことで省エネにもなるし、元の形に戻る際の収縮を使って移動することもできる
あの老人は足を貫かれて動けないだろう
武器も失った
ここから避難する必要はない
早く、早くマサミチくんを治さなきゃ
屋上を起点に植えていた定家葛に引っ張られ屋上に着地する
そこには倒れたままのマサミチがいた
少ししか離れていないからすぐに気づいてしまう
既にマサミチの身体からは生命活動を維持している時の動きが見えず、手遅れであると
「いや……だよ。そんな事って……」
身体から力が抜けるのがわかる
そして一つの事に気が付く
大切な存在を失う事がどれだけの痛みなのか
顔を手で押さえて涙を流す
こんな現実見たくないと、目を覆い隠しても現実は無常だ
自分はどこかで勘違いをしていた
死がありふれているこの世界でもマサミチくんは死なないって
なんだかんだで生き残ってずっと私のそばにいてくれるって
そんな妄想が現実になるって勘違いしてたんだなぁ……
へたり込んで泣いている私の肩を何かがそっと触れた
ベィリィーンちゃんだろう
賢くて、優しい子だ
でも今はその優しさも気遣いも欲しくない
一人にしてほしい
大好きな人すら守れない私なんかに情けをかけるのは違うだろう
「ソラ」
心臓が跳ねた
耳元でささやかれたその声は幻聴だろうか
顔を覆っている手をどかし、涙でぐちゃぐちゃになってしまった顔をさらけ出し前を見る
「マサミチ……くん?」
確かにそこにはマサミチくんがいた
でも、さっきの戦いでついていた傷は無い
やはり幻なのだろうか
でもその幻にさえ、今は縋っていたい
そう思い目の前にいるマサミチに身を預ける
ぬくもりを感じた
温かくて優しい、そんなぬくもりを
少しためらるように私の腰に手が回された
男の子にしては小さく華奢な手
だけど、男の子なんだとちゃんとわかるかっちりとした手
抱き寄せられる方向に身体を預けると少し硬い板にこつんと頭が当たる
最初にあった時とは違って男らしくてカッコイイ体つきになったと思う
ちょうど耳の部分が胸に当たる
とくんとくんと一定のリズムが耳を打つ
「僕は生きてる。大丈夫だよ」
その言葉を聞いて私は、また泣いた
彼の、マサミチくんの胸の中で
正直言って僕も何が起きたか分からない
自分の命の器から全部零れたのは感じた
そこに新しい何かが入れられて、意識が戻った
止まったはずの心臓は今もなお動き続けてる
刺されて破れた心臓も、斬られたいくつかの臓器も全部治ってる
僕の胸の中で泣いているソラを抱きしめながら後ろを振り向く
「君のおかげなんだね。ベィリィーン」
そこにいたのは先ほどまで守っていた幼い少女ではなく、僕と同じくらいの年齢の女の子だ
ショートカットくらいだった髪は背中に届くほど伸びている
急成長した……だなんて冗談はいらないだろう
僕もこの世界に来て色んな事を知ったからわかる
能力だ
死んだ人間を生き返らせたとなるとそれ相応の代償が必要なんだろう
感謝してもしきれない
「お兄ちゃん達には感謝してもしきれないよ。見ず知らない私なんか命を賭けるに値しないはずなのに」
「そんなことはないよ、ベィリィーン。君は僕の命を救ってくれたから、命の恩人だよ」
「……違うよ。ただ試すつもりだったのにうちの家族が──」
ベィリィーンは僕の言ったことに何かを言い返そうとしたが口をモゴモゴとさせるだけに留まった
彼女にも事情という物があるんだろう、なにもおかしなことはない
ふと顔を元に戻すとソラがぐちゃぐちゃな顔で僕を見上げていた
ソラと僕の服の間に鼻水の道が出来てるのを見るに相当心配をかけたんだろう
心配をかけた謝罪の意を込めてもう一度ソラを抱きしめた
「……バカっ、……グスッ」
ソラはそういってまた泣き出した
切り裂かれた部分がダイレクトで濡れているのが少しだけ気になるが僕のせいなので甘んじて受け入れよう
「お兄ちゃん、明日、バリオス邸の前で待ってる」
「え?」
ソラの頭を撫でているとベィリィーンがそういった
「もう大丈夫なの?」
全勢力を倒したっていう確信がない以上一人行動は危険だ
それに絶対というわけではないが僕のことを治した時に相当消費しているだろう
「大丈夫だよ、ありがとう。また、明日、絶対来てね」
「うん、わかった」
別れを告げてすぐにベィリィーンは屋上から飛び降りた
魔力の強化があるからある程度の高さは問題ないんだろう
とりあえず、今日は疲れた
「ソラ、帰ろう」
「……ん。……ん」
ソラは立ち上がろうとした僕の身体を掴んで引き寄せる
バランスを崩してしまいまた座ってしまう
「あの……ソラ?放してくれなきゃ立てないんだけど……」
「ん……!」
涙で濡れている顔を胸に押し付けながらソラは手を大きく広げた
まるで「抱っこして」と言っている様なポーズだ
しょうがない、こうなったのは僕のせいだしね
「よっ……と。さ、帰ろう」
「……ん」
まだ昼だっていうのに、今日はもう何もできる気がしないや
……今日の反省は家に帰ってからだ




