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異界のアイオライト  作者: アンディオス
六章 一枚のページを捲るために
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第六十二幕 白い華

 死んでしまうかもしれない

 頭によぎったのはそんな言葉だった

 つい先日も、なんなら最近はこういう事が多い気がする

 手が切れたり、腕と腹が吹き飛んだり、自分で死のうとして助けられて

 その全部で僕が生きる事を諦めなかったのはソラがいたからだ

 後ろで感じる、ソラもまだ戦ってるって

 僕が死なないためには、ソラさえも巻き込んでしまうかもしれないくらい本気で能力を使うしかない

 でも、ソラとベィリィーンが巻き込まれるのは良くない

 この子は僕らに比べて子供だけど、きっと賢くて勘が鋭い

 最初、ベィリィーンに助けてもらえなきゃ死んでたしね

 だから、託そう。


『あっちのお姉さんと逃げて』


 氷で創った文字

 微量の魔力と小さな文字

 あのおじいさんには気づかれてないとは思うけど、この子に伝わるかどうか……


 企みがバレないように顔を俯かせ、微力ながら魔力を放出し能力で使った魔力を調和する

 傍から見たら死にかけで魔力が漏れているくらいにしか見られないだろう


 気を張っていた

 この状況であの人が攻撃に移れば僕の首は飛ぶってわかってたから

 でもその緊張の糸は少し切れた


 ベィリィーンが僕の服の裾を引っ張ったのだ

 彼女は見ず知らずの僕らのことを心配してくれているのだろうか

 ……それを言ったら見ず知らずのベィリィーンの事を命を張ってまで助けようとしてる僕らも同じか

 まぁ、誰でも自分のせいで人が死ぬのは嫌だろう、だから


「大丈夫、僕はいなくならないよ」


 この言葉が救いになるだろう


 言い終わった時、そこにベィリィーンはおらず、微かに感じる魔力はソラの元へと向かっていた

 振り返らずともわかる、あの子は僕なんかよりも強いな

 ちょっとだけ笑えてくる

 でも、僕があの子より弱いからって、それが守らない理由にも命を張らない理由にもならない


 ソラの魔力が上に上昇したのを感じた瞬間、魔力の調和に回していたのも、臓器や身体の治療をしていた魔力も全部全部氷に変えて押し流す

 能力の記憶にある技の中でも特に強力で範囲の大きな技

 奥義と呼ぶのにふさわしい技

 その名は──


『四季・冬式 奥義 銀世界』


 世界が白銀に染まる

 空気が凍てつき、音が消える

 身体から一気に魔力を放出したことによる疲労を感じながらマサミチは目の前に立っている老人に声をかける


「貴方は強いので、殺す気で行きます。どうか、死なないでください」

「くぁっはっは! 殺気も出さずに殺すと申すか! 良い、気に入った。儂の名はサンガツ。小童、名を名乗れ」


 白い世界で老人が笑う

 温度も湿度も無い限りなく死に近い世界で少年は声を絞り出す


「ユイガ マサミチ」

「ユイガか……良い名だ。貴様にはもう一つ、技を魅せてやろう」


 遠慮願いたいな

 心の中でそう呟くが、声は出ない、出さない

 辺りが僕の魔力で満ち満ちている

 この世界は僕の為の世界だ


 指向性はない、頭の中でイメージを練るだけで世界がそれに応える

 意志を持った氷がサンガツに飛来するが、そのこと如くを斬り伏せられる


 たった数秒で攻撃が無効化されてしまった

 だがその数秒には意味があった


 この技は、能力の記憶にもない技

 僕が初めて創る、僕の技


「四季・冬式 我流 白氷(ばくひょう)


 これは初めて戦う事を、人を傷つける事を決意した時に創った技

 あの時は名前のないただの氷だった

 今は違う


 八つの氷を自分の周りに浮かし、手に持つ事を起点に自在に形を変える

 状況に応じて臨機応変に戦うための技


「参る」


 誰に言われたでもなく二人は構えを取った

 熟練した構えと素人の構え

 たったこれだけでも格の違いがありありと感じられる

 だが、それは平時での話

 今はマサミチにとって有利な場所、状況での戦闘

 その要素が嚙み合った時、二人の実力は拮抗したものとなった


「ふんッ!」


 最初に動いたのはサンガツであった

 地面が凍り、滑りやすい中でしっかりと一歩を踏み込み速度と気迫をもってマサミチへと向かっていく

 それに対応するためにマサミチは自分の周りにある氷を掴み、変形させる

 盾をかたどった氷がサンガツとマサミチの間に生成された


 縦に一閃、刀が振り切られることで氷が両断される

 その隙間、盾が両断された刹那に刀をもう一度振る

 盾の隙間から見える敵影をサンガツはその眼でしかと捉えていた


()った」


 サンガツの口から自然と出ていたその言葉は今しがた斬り終えた手ごたえから来たものだ

 七十年、人を斬り続けてきたサンガツは片時も人を斬る感触を忘れたことは無い

 

 だからこそ、油断した


 マサミチは賭けていた

 敵対している彼の腕が本物であることを

 盾を生成した瞬間、サンガツもマサミチも相手の姿を見る事は出来ない

 その一瞬の死角を利用してマサミチはもう一つの白氷(ばくひょう)を掴んだ


 手から送られる魔力を通じて、その氷はマサミチのイメージ通りの形になる

 氷の盾から反射して見える自分の姿を模った氷を自分の前に創り出す

 イメージの元となった物が自分自身、その上で血という魔力の変換効率が一番良い物を使った

 その二つの要素が七十年間で培った感覚を騙すことに成功した


 空中での二撃

 確実に命を刈り取るために、サンガツは無茶な動きをしていた

 無茶な動きの代償は、致命的な隙を晒すことだった


「虚構の英技 《ゲイ・ボルグ》」


 自分の氷像を創り出してないもう片方の手で、もう一つの白氷(ばくひょう)を掴み、投げる

 マサミチの頭にある数々の英雄の伝記、その中で最も〝殺す〟事に適しているとマサミチが判断した技が、形を成す


「ぬぅ!」


 三十にも枝分かれした氷の槍はほぼ同時に着弾する

 いくら魔力で防御できると言っても致命傷は避けられないとサンガツは判断し技で受け流す


「月朧 滝流れ」


 幾重にも分かれて向かってくる槍の衝撃を剣先で舐めとり、上に逸らす

 ソラした氷は空へ舞い、受け流した勢いのまま地面へと着地する


 あの攻撃を無傷で避けるのか……ちょっと想定外だ

 僕の力量的にも、脳のキャパシティ的にも白氷は八個が限界

 しかもここまでで傷を負いすぎて血を流しすぎた

 新しいのはもう創れない

 残弾数は五

 すぐに次のが来る、気を抜くな


 残った五個のうちから二個を取り、すぐさま投げる

 一個はサンガツへ、もう一個は下へ


 水分を含まない側だけの氷が踏み締められ、再び速度をもってサンガツが向かってくる

 先程投げた白氷が棘のついた壁となり、サンガツの進路を塞ぐ

 もう片方の地面に向けて投げられた白氷は地面を凍らせる

 生成された氷を蹴り、凍った地面を滑走する


「ぜぇい!」


 掛け声一つ、氷の壁はまたしても容易く斬られる


 残された白氷は三つ


 後ろに滑り距離は稼いだ

 策を練る時間はなくとも、イメージを強固にすることくらいはできる


 白氷を掴んだ手は最初にサンガツの刀を折った手だ

 血が滲んでいる

 その血で白氷を覆うように沁み込ませ、凍らせる

 真紅に染まったその氷は割れ、剣になる


「四季・冬式 (くれない) 氷紅剣(ひょうこうけん)


 真昼時、太陽の光に照らされた紅い水晶の剣が姿を現す


「くぁっはっは! 儂相手に剣を抜くか! 蛮勇とは言うまいて。その心意気、しかと受け取った!」


 今度はこっちからだ


 マサミチは自分の足場の氷を解き、盤石な足場を整える

 魔力の大部分を足に回し、全霊をもって大地を蹴る


 互いの間にあった距離は瞬く間に詰められ、剣が火花を散らす

 氷と言えど命の源()が込められた剣

 そう簡単には砕けない

 三度の打ち合いがあった


 一撃目は互角の打ち合い


 二撃目で力量差が出てマサミチの軸がズレる


 三撃目で完全に体勢を崩され、剣の腹を叩かれる


 パリンと言う音が綺麗に響き、剣先が地面に刺さる


 マサミチはこうなることをわかっていた

 サンガツの剣士としてのプライドは、命を奪う事よりも(プライド)を叩き折ることを優先すると信じていた

 そこが狙い目だ


「らぁっ!」


 サンガツの腹に思いっきり蹴りを入れる

 マサミチの魔力移動の精度は悪い

 故に全霊の力を込めて蹴ることは叶わなかった

 だが、それでもノーガードで蹴られるのはそれ相応のダメージを与える事を可能にした


 先程と同じで氷の上を滑走する

 だが今回は人が違う

 サンガツは不安定な氷の上で倒れない事に集中せざるを得なかった

 でもサンガツはマサミチから目を離さなかった

 残り二つの白氷を弓矢に変えて番えている姿をしっかりとその眼で捉えていた


「虚構の英技 《アーラシュの矢》」


 弓が自壊するほどの威力で矢が放たれた

 凍てついた空気を切り裂き、速度を増しながら矢がサンガツに向かっていく

 その矢はサンガツを貫いた


 やった……勝った……

 生き残れた……


「げほっ……」


 安堵から口に残っていた血を吐き出す


「げほっゲホっ……ごぼぉ……」


 びちゃびちゃと血が止めどなく溢れて来る

 手で口を抑えても血が止まらない

 

 何が……?


 薄れる視界で自分の身体を見る

 そこには刀身が胸の当たりからでていた


「月朧 明鏡止水(めいきょうしすい)


 目の前で殺したはずのサンガツの姿がブレ、世界に溶けていく

 気配も魔力も、そこにあったものは何もない

 全ては、後ろに

虚構の英技とはマサミチが昔読んだ伝記や歴史書の記憶とイメージを頼りに伝説を再現する技です。

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