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-- 白井 咲良 --
「とりあえず少し確認したら慎重にもどろう・・・。これは管理局に連絡しないとだめだな・・・」
リーダーのタツアキがメンバーに向けて神妙な顔で提案した。
皆の視線の先には、ダンジョンの部屋の奥を覆い尽くすようなモンスターの群れが映っていた。
ダンジョンの部屋の3分の1くらいで主には蜘蛛型のモンスターがうごめいている。
音もなく素早く近づいて飛びついてくる攻撃は事前に気付きにくく、油断していると非常に危ないモンスターだ。
幸いモンスター達は部屋の奥の方に密集しているため、気づかれないように部屋の入口で息を殺して観察する。
すぐにでも逃げ出したい気持ちもあるが、管理局が駆除部隊を出すにしてもある程度の情報があったほうが良い。
一応証拠のためにカメラで動画の撮影もしている。
まぁこれについてはチームの活動の一貫でもあるのだけど・・・。
「モンスターハウスか・・・。ここまで多いのは見たこと無いね・・・」
モンスターハウスとは、その名の通りダンジョン内でモンスターが大量に発生した部屋のことを言う。
普通は他の部屋に散らばったりするのだが、極稀にこのように一箇所に多くのモンスターが集まることがある。
原因ははっきりとわかっていない。
これでもそれなりに名のしれた探索者チームであり、それなりにダンジョンに潜っている。
モンスターハウスもそれなりに見たことあるし、低階層であれば討伐を検討する場合もある。
しかしここは7階層だ。流石に私達だけで対処するのは無理だろう。
確認できるだけでも100匹は超えていそうだ。
正確にはわからないがもしかしたら数百匹くらいはいるかも知れない。
10匹もいれば逃走を即断するモンスターだ。戦うという選択肢はない。
しばらくして十分な情報を得られたと判断した私たちは、この後も予定していた探索を急遽取りやめてダンジョンの外へ向かうことにした。
その途中、先ほどのモンスターハウスについて話題があがる。
「なんであそこまで増えたのかな?」
「ここらへんは普段あまりモンスターが発生しないからな・・・。俺たちも結構スルーしてることが多いし」
「それにしても溜まりすぎでしょ・・・」
話しながらもなるべく周囲を警戒して、いつもよりも早足で戻っていく。
幸いにもあの部屋からモンスターには遭遇していない。
もう少しで6階層へと戻る階段まで行こうというところで、私たちは他の探索者に出会った。
非常に若そうに見える男女の2人組であった。
「こんにちは」
2人の挨拶にこちらも返し、改めてその2人の探索者を見る。
見るとその若すぎる年齢に違和感を覚えたが、それどころではない考え、その2人に先ほどのモンスターハウスについて情報を提供することにした。
探索者同士こういう情報はきちんと共有しないといらぬ事故を招いてしまうからだ。
「--と言うわけで、ここから奥は今は危険だから今日は戻った方が良いと思うぞ。俺たちも戻って管理局に連絡するつもりだ」
2人はそれを聞いても驚いたような表情も見せず、なるほどと頷く。
「情報提供ありがとうございます」
「ちなみにどんなモンスターがいましたか?」
若い2人の内でさらに若そうな女の子の方が尋ねてきた。
私は特に気にせず見てきた内容を話す。
「ほとんどは蜘蛛型のモンスターね。大きさはいろいろだったけど、大体50cmは超えていたと思うわ」
「なるほど・・・。蜘蛛はあまり好きではないですね・・・」
私の言葉を聞いても全く動揺もせず、ただ蜘蛛が苦手なだけだという風な女の子。
男の子の方も全く危機感を感じられない。
その様子に少し疑問を覚えたが、長々と彼らにかまっているわけにはいかない。
気にはなるが彼らにすぐにこの階層から出るようにと伝え、彼らと別れて6階層の方へと向かった。
※
6階層に向かった私たちだが、すぐに先ほどの2人の探索者がついてきていないことに気がつく。
確かに比較的急ぎ足で戻っているとはいえ、そこまで速いわけでもない。
それに先ほどの危機感のない反応が気になっていた。
「ねぇ・・・、さっきの2人ことだけど・・・」
「どうしたの?」
「ちょっと待たない?なんかすごい若い子達だったしちょっと不安で・・・」
「たしかになんか反応も薄かったわね」
モンスターハウスから離れてだいぶ余裕が出てきたのもあり、カナエもあらためてさっきの2人の探索者について思い返したようだ。
モンスターハウスが発生した階層が1、2階層のような低階層であれば問題ない場合もあるが、基本的にはモンスターハウスが発生した階層からはできるだけ素早く脱出することが望ましい。
探索者なら誰でも理解していることであるし、仮に初心者であっても探索学校や先輩探索者から口を酸っぱくして教えられる。
教えられた方も自分の命がかかっているのだ。普通はそれを守ろうとする。
しかし中には無駄に自信があるのか、自分なら大丈夫とモンスターハウスに挑む探索者もいるのだ。
その探索者の末路は考えるまでもないだろう。
確かに高ランクの探索者チームがモンスターハウスを攻略したという話が話題になることもあるが、それはあくまでもきちんと計画を立ててしっかりと準備した上でのものだ。
一般的にまねできるものでは決してない。
「7階層に来れるような奴らなら分かってると思うけどなぁ・・・」
「けど確かに若かった。あれは下手したら中卒すぐとかじゃないか?」
そこにケンスケとタツアキが答える。
タツアキが言ったように、女の子の方はそのくらい若いように見えた。男の子の方も若干年上なくらいではないかと思う。
「そう言われると私も不安になってくるわ・・・。そんな無謀な子達には見えなかったけど・・・」
「気になるなら少し待つか?少しくらいなら大丈夫だろ」
皆の同意も得て私たちは少し6階層への登り階段の前で待つことにした。
しかし、しばらく待ったがあの2人はやってくることはなかった。
「うーん、情報は伝えた以上、自己責任ではあるんだがなぁ・・・」
普段なら無視するのが普通であり、それで何の問題もないのだが、件の2人が非常に若い探索者であったことが気になる。
「ちょっとだけ戻って見てみない?」
私は危険は承知でチームのメンバーに提案をした。
どうしてもさっきの2人が気になったのだ。
皆もどうやら気になったようで、私たちは彼らと会った場所まで戻ることにしたのであった。




