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武闘大会編3

 



「《物質創造思考(マテリアルメモリー)》」


 集がつきだした左手に、灰色のパーカーが出現する。

 それを羽織り、


「《物質創造思考(マテリアルメモリー)》」


 今度は黒いズボンが出現する。

 元の世界で集がよく着ていた服装だ。


 静かな空間に衣擦れの音が……などと一部(桃○愛etc.)を除いて誰の得にもならないので省略し、集は着替え終わった。

 馴染みの服に包まれ、なんだか安心する。


 壁に立て掛けてある安い剣を握る。

 扉の奥から、歓声がくぐもって聞こえる。

 薄暗く密閉した空間。



『――そして最後は、今回初出場、ユウ!』


 偽名がOKなので、『し』を抜いて『ゆ』を大きくした。


 ギギギギ


 扉がゆっくりと開く。

 部屋に徐々に光が射し込み、歓声が精彩を帯びる。


 集は灰色の仮面を装着する。


『ユウさん、出場です』


 部屋に小さくアナウンスが流れた。


 集は、歓声の溢れる光へ足を踏み出す。



 ∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈



「「おぉぉぉぉ!!」」


 他の参加者と変わらぬ歓声を浴びながら、灰色のパーカーの、仮面の少年が現れる。


「え?」


 黒装束の少女がぴくりと反応し、


「ん?」


 聖女が目を細め、


「あぁ……」


 紫髪の少女が頭を抱え、


「………」


 淀んだ瞳の少女が口の端を上げ、


「やっとじゃ」


 皇女が足をばたつかせる。



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 ヒーローのような格好や、侍のような格好など、どこかのコスプレ大会のようになっている。

 その中だと、灰色のパーカーの集は逆に目立つ。


『姫様は、誰か気になる人はいますか?』


『きききき気になる人じゃと?!いいいいるわけなかろう!この戯け!ばーか!ばーか!』


『え、ひ、姫様?』


 いつ始まるのだろうか。

 これで全員出揃ったはずなのだが、一向に始まらない。


『ほら!さっさと始めい!』


『えー、それでは一回戦、スタァァァトォォォォ!!』


 なんだか締まらない幕開けだ。

 司会頑張ってほしい。


「おっと」


 いきなり炎の玉が飛んできたので、ぎりぎり避けた。

 ほどほどの熱が伝わってくる。

 おそらく初級魔法《火炎球(ファイアーボール)》。


「弱そうな奴からってのは、鉄則だよなぁ」


 髪をつんと逆立てた、骸骨のイヤリングをした男だ。

 見た目は強そうだ。

 上半身裸に赤いコートを着ていて、割れた腹筋がむき出しになっている。


「反応ねえなぁ。つかなんだよその仮面、センスねえなぁ」


 ひひひ、と笑い、右手を集につきだす。

 その指5本全てに金色の指輪を嵌めている。

 集の近くの者が息を呑む。


「《爆発球(ブラスト)》」


 小さな炎の玉が放たれ、集の足下で爆発した。


『出たぁぁ!中級魔法ぉぉ!!』


『うむ』


「ぐあぁぁぁ!!」


 集の近くの者が光になって消えていく。

 他にも数人、大きなダメージを受けたらしく、辛そうに立ち上がる。


「おわっと」


 集も吹き飛んだ。

 数メートルか飛び、何度か地面にバウンドして止まる。


「いてて」


 尻をさすりながら立ち上がる集に、男は笑う。


「はっはー!なかなか耐久あるじゃねぇかぁ」


 男は集に近づく。

 そして、至近距離から魔法を放つ。


「《爆発球(ブラスト)》」


「えっと、《氷結吐息(フリージング)》?」


 男の放った中級魔法は、集の初級魔法を打ち消し、そのまま進んで集の足下で爆発する。


「ありゃ」


 集は吹き飛ぶ。



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「あぁ、だから言ったのに……」


 紫髪の少女は、深く溜め息をついた。


「………人違いか」


 黒装束の少女は失望を露にした。


「………まあ、そんな偶然あるわけないですよね。ヒック」


 聖女はしゃっくりした。


「…………」


 淀んだ瞳の少女は薄く笑っている。


「……何を遊んでおるのじゃ、あやつは?」


 皇女は首を傾げた。



 ∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈



 放物線を描いて落下していく集を、優しく誰かが受け止めた。


「アンタぁ、イケメンと見た。守ってやるから、結婚してくれだぁ」


 ふくよかな女性だった。

 体重は優に集の倍はあるだろう。

 ビキニアーマーなので、その溢れる肉が剥き出しで集に密着する。

 ………汗臭い。


「……断る」


 集は女性の腹を蹴って腕の中から脱出する。

 肉の波紋が広がる。

 女性にダメージは無いようだ。


「うだぁ、絶対、手にいれるだぁ!」


 女性は手を広げて集に迫る。

 圧倒的な質量だ。


『シュウから離れろぉぉ!こんのブタが!こんの!こんの!』


『ちょっ、いきなりどうしたんですか、姫様』


『………なんでもないのじゃ』


 実況がなんだか騒がしい。


「お前、なかなかタイプだぜぇ」


 先程の男が女性と集との間に立ちふさがる。

 いやらしい目付きをしている。


「そこどくだぁ!そんないやらしい目で見るなぁ!」


 女性は自分を抱いていやんいやんと腰をくねらせる。

 肉が舞い踊る。


「オラぁ、イケメンにしか興味ないだぁ」


「ふんっ、強情なとこ、ますますそそるぜ。ぜってぇ振り向かせてやる」


「お二人でどうぞ」


 集はその場を離れる。


「待つだぁ!」


「行かせねぇぜ、女」


『いいぞツンツン!そこのブタを引き留めるのじゃ!』


 実況が実況していない。


「もう怒っただぁ!アンタを倒して、イケメンを手にいれるだぁ!」


「俺の強さに、惚れろぉ!《爆発球(ブラスト)》!!」


 女性は男の中級魔法を、華麗な動きで避ける。

 腹の肉も華麗に踊る。


「なにっ!なんだそのしなやかな動きは!誘ってんのかぁ?!」


「オラぁ、そんな安い女じゃないだぁ!」


 男の拳を、女性の肉質な手が受け止める。

 振動が腹にも伝わる。


「おう、頑張れ骸骨の人」


 集は始まったその戦いを見守ろうとするが、それを許すほどこの大会は甘くないらしい。

 集の前に、同い年程の少年が立ちふさがる。


「俺は、勇者タクマを継ぐ者!」


「誰やねん」


 真っ正面から降り下ろされた黒い剣を避けると、その少年はたたらを踏んで再び向き直る。


「勇者タクマを知らないだと?!ふざけるな!魔王を倒した英雄の一人だぞ!あの『コバルト平原の戦い』を知らないとは言わせないぞ!」


「………おう、あれね?あれでしょ?」


「あの凍りついた一帯が、魔王の凶悪さを物語っている!そんな凶悪な魔王を、あの勇者達は倒したんだ!命と引き換えにな!俺はあの勇者達を見たことがある!見た瞬間、次元の違いを悟ったね!それに、命をかけてまで魔王を倒したあの心意気に俺は―――ぐあぁぁ!」


 少年が熱く語りだしたところで、どこからか飛んできた《爆発球(ブラスト)》が直撃し、光になっていく。


「魔王……か。きっと強いんだろうな」


 魔王を倒したという勇者達、きっと物凄く強いのだろう。

 だが、今の話しぶりだと、その勇者達は既に死んでいるのだろう。

 一体どれほどの激闘だったのだろうか。

 想像がつかない。













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