武闘大会編2
「エルビオン武闘大会参加者はこちらでーす!」
『入り口』と書いた看板を持ったお姉さんがいたので、入り口はすぐに見つけられた。
「あ、すいません」
「いえ、こちらこそ」
集は人とぶつかり、鞄から灰色の仮面を落としてしまった。
相手の人は急いでそれを拾い、集に手渡す。
「あ……」
「えっと、受付のお姉さん」
相手は見知った人だった。
名前は分からないが、ギルドの受付の人だ。
「えっと、えっ?」
エルナは仮面と集の顔をなんども行ったり来たりし、最終的に集の顔で止まる。
「まさか、出るんですか?」
「はい」
「はあ?!」
突然の大声に、周囲の注目が集まる。
「え、あ、違いますすいません」
エルナは赤面して一通り周りにぺこぺこし、ぎろりと集を睨む。
「いや、俺は悪くないでしょ」
「ふんっ」
膨れっ面も可愛らしい。
「それじゃ、急いでるんで」
「ちょ、やめときなさーい!恥をかくだけよー!」
エルナの声は喧騒に紛れ、離れていく集には届かない。
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『――そして登場ぉぉ!!我らが最強!!アギルダ・レストぉぉぉ!!!』
「「きゃ~~♡」」
現れたのは、貴族の美青年。
金髪をさらりとかきあげ、白い歯をキラリと輝かせる。
『うむ。流石、前回の優勝者じゃ。余裕があるの』
『姫様は誰か気になる人はいますか?』
『うむ。この中じゃと、ヴァンとか言うたか?その新米冒険者に期待じゃ』
『なるほど!初参加ということもあり、実力は未知数!ヴァンさん!姫様に期待されてますよ!』
「あ、ありがとうございます」
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「何実況しとんねん、あのロリ」
集は参加者用の座席で、ぼそりとつっこんだ。
「ねえお兄さん、隣いい?」
後ろから声をかけられる。
黒髪の、淀んだ瞳の少女だった。
薄い笑いをうかべている。
「ああ、いいよ」
「ありがとう」
少女は薄い笑いをうかべたまま集の隣に座る。
「お兄さん、強いでしょ」
「ああ、強いよ」
少女は口の端をより吊り上げた。
掴み所のない雰囲気を集は感じた。
「君は?」
「ボクはソフィア。こんな乙女な名前は似合わないよねー」
「俺はシュウ。うん、似合わない」
「ははは、お兄さん正直だねー」
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『さらにぃぃぃ、なんと、あのフェルト学園の首席、エリーシャ・レストぉぉぉ!!』
「「うおぉぉぉ!!」」
現れたのは、貴族の美少女。
金髪をさらりとかきあげ、魅惑の投げキッス。
男達の目がハートになる。
『そして最後、黒装束の中身やいかに!シャドウ!』
「「ぉぉぉ!!」」
歩み出る、黒装束の少女。
目元しか出てないので、顔が分からない。
『次へ進めるのは上位3人!それでは、一回戦、スターァァァァトォォォ!!』
総勢30人。
皆出方をうかがっているようだ。
一回戦が始まったというのに、静かなものだ。
そんな中、早速動いたのはヴァンだ。
洗練された動きで、あっという間に近くの参加者を切り伏せた。
『うおおおっとぉぉ!!早速一人脱落!やったのは、ヴァンだぁぁ!!本当に新米かぁぁ!』
切られた者は、光の粒子になって消えていく。
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「あれ、どうなってんの?」
「二代目勇者さんが作ったアイテムが地下に埋まってるんだよ。そのアイテムの効果で、一定以上のダメージを受けたら場外に転送されるらしいよ。その時には、損傷した部分も完全に修復されるんだって」
「え、二代目勇者?すごい天才が召喚されたんだね」
「確か、アインシュタインって名前だったと思う」
「マジか………」
「あと、転送される時のダメージは人それぞれ違うんだって。お兄さんは意外と耐えられそうだね」
「どうだろう」
「時にお兄さん、精霊と契約してるよね」
「…………うん」
「はは、お兄さん正直だね。ボク、お兄さんが気に入っちゃったよ」
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「君、僕の愛人にならないかい?」
「兄さん、いい加減にしてください」
ヴァンに色目を使うアギルダを、エリーシャがたしなめる。
「うわ、マジかお前」
ヴァンが引いている。
そこに複数の者が迫るが、アギルダが切り伏せる。
「彼に目をつけたのは僕だ」
「生憎オレには先約がいるんだよ!くたばれ!」
ヴァンに背中を向けているアギルダに切りかかるが、全て弾かれる。
「いいよ。素晴らしい」
恍惚の表情で見つめてくるアギルダに、鳥肌がたつヴァン。
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観客席でエルナはじっくりと観戦していた。
まだ観客がいまいち盛り上がっていないので、エルナも声援は控えている。
前回と比べ、一回戦だけの面子でもかなりレベルが高い。
先程ばったり出くわした、シュウがどのような試合を見せるか、不安で仕方がない。
知っている顔が大恥をかくところなど、見たくない。
だがヴァンは安心して見ていられる。
むしろこの大会で優勝すら出来るとエルナは思っている。
やはりヴァンは優良物件だ。
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運良くクラーケンに襲われず、こちらの大陸まで辿り着くことが出来た。
あとはあの少年を見つけ出すだけだ。
「それらしい人はいませんね」
もしかしたらと思ったが、やはりこの大会には参加していないのかもしれない。
「まさかメレンが、ね」
メレンはあの少年と神話のような軍との戦いをみて、恋に落ちてしまったらしい。
わざわざ危険を犯してまで、少年の飛んでいった方向にある大陸まで追いかけてきたのは、すごい行動力だと思う。
だがそれに同伴した自分も自分だ。
「ふふ」
我が神をも従える、訳の分からない少年。
もう一度、会いたい。
マリアは祈る。
神ではなく、少年に。
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ヴァンは驚くべきものを見た。
「いいよ、いい」
アギルダを薄い青い光が包んでいる。
聞いたことがある。
―――勇者のオーラ。
過去に召喚された勇者の中でも、限られた者しか扱うことの出来なかった、伝説の力。
だがヴァンは怯まない。
エルナが見ている。
怯んでなど、いられない。
「あああああ!!!」
伝説の力だろうと、関係ない。
この剣は届く。
この、ミュルタゴラス製の魔剣ならば。
「《アカシックメア》!!」
無骨な白い剣が、突如光りだす。
その光は神々しく、禍々しい。
「兄さん!」
「ああ、いいよ!そうだよ!はは!」
エリーシャが危険を訴えるが、アギルダは余計に興奮しているようだ。
他の参加者は二人から距離をとっている。
次元が違うことを肌で感じているようだ。
「キモいんだよ!さっさと切られろこの変態!」
「ああ、興奮する!さあもっと!」
ヴァンは果敢に攻めるが、アギルダはひらりひらりと躱す。
苛立つヴァンに、興奮するアギルダ。
その速度は他を圧倒しており、他者の介在する余地がない。
エリーシャは一度に多数の相手をしているが、余裕があるらしく、兄と新人の戦いにほとんどの注意を割いている。
「――っ!!」
だが、突如血相を変えて横へ跳ぶ。
エリーシャのいた場所に、黒い線が走った。
黒装束の者だ。
体型からして、年端もいかない少女だろう。
「これを避けるとは、感服した」
ぼそりと呟き、他の参加者に姿を紛らせる。
もう見失った。
………影のような少女だ。
「どこ……どこに………」
エリーシャは焦る。
このような相手は初めてだ。
対応策が浮かばない。
「うわああ!!」
参加者が一人一人消えていく。
おそらくあの影のような少女だろう。
参加者が減っても、あの少女は見えない。
「まずいです」
既に見えるのは、自分を含めて三人。
だが三人なはずがない。
三人になった時点で、一回戦は終わるのだから。
やはりあの少女だ。
彼女が見えない。
「しまっ!」
気づいたがもう遅い。
既に黒い短刀は喉元に突き刺さろうとしている。
もうどのような動作も間に合わない。
「くっ!」
ブーン
決着が着いた。
残っているのは、シャドウ、ヴァン、エリーシャ。
エリーシャはぽかんとしていた。
負けると思ったら、試合が終わったのだ。
そして、兄が負けている。
あの兄が、負けた。
信じられなかった。
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「お兄さん、次?」
「うん」
「頑張ってね」
「うん」
ほどほどに、という言葉は付け加えなかった。
どうやらアイテムの効果は戦うフロアだけのようで、消えた参加者は観客席の、大きく空いたスペースに転送されている。
そこが転送される用の場所のようだ。
観客席との間には結界が張ってあるらしく、こぼれた魔法が打ち消されていた。
だが、果たして集の魔法に耐えられるだろうか。
まあ、おそらく無理だろう。
《エクスカリバー》も論外だ。
これはかなり手加減をする必要がありそうだ。




