再会編4
「つくし、腹、減ってないか?」
「いいえ?」
「………そっか」
二人並んで歩いてはいるが、今までとは関係性が違う。
今までの逆で、隆二がつくしについていく。
「………その、寒くないか?」
「大丈夫です」
「……そっか」
ここのところ素っ気ないつくしに、隆二は焦燥感を感じていた。
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愛しの彼の笑顔。
彼の凛々しい顔。
彼の眠たそうな顔。
彼の寝ている時の無防備な顔。はぁはぁ。
「ぐへへ」
愛はあまり外向けではない顔をしながら、秘蔵の隠し撮り写真集を顔に押し付ける。
大丈夫。今はルームメイトはいない。
「ふあぁぁ、無神くぅぅぅん♡」
ガチャッ
「ひゃああっ!!」
「ん?どしたの、愛?何隠したの?」
「ナーンノー、コートーカナー?」
「あれ?勘違いだった?それよりカラオケ行こー!カラオケー!」
通常よりも少し頭の回転が遅く、様々な事象を見落としてしまう、残念な人種……通称アホの子の崎田 香織。
彼女が愛のルームメイトだ。
「分かった!分かったよぅ?よぅし、着替えるから外で待っててねぇ?」
「分かったー」
ガチャ
扉が閉まると同時に、愛は背中に隠した写真集を、教科書類の置いてある引き出しにしまう。
「やっぱりその前に」
ブチューッ
写真集に濃厚なキスをし、今度こそしまう。
急いで着替え、扉を開く。
「よし、準備出来たよ」
「じゃあ行こー!棺桶ー!」
「カラオケ!」
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「つくし、その、手………繋がないか?」
「いいですよ」
「よ、よし!じゃあ……」
そっと手を近づけていく。
真っ白ですべすべな手まで、あと少し。
「きゃあああ!狂獣よぉぉ!!」
「え?」
つくしの手が離れる。
「ちっ、くそっ」
声のした方には、大きな狂獣がいた。
だが、この前の怪物とは威圧感がまるで違う。
「魔力解放!」
隆二は魔力を解放し、狂獣と距離を縮め、跳躍する。
「いいとこで邪魔しやがってえぇ!」
なにやらご立腹のようだ。
多くの魔力を纏った右の拳が狂獣の顔面に突き刺さる。
「ギュアァァァ!!」
「まだまだぁ!」
自由落下に入る前にもう一撃左の拳を叩きつけるが、こちらはあまりダメージが入らなかったようだ。
自由落下に入った隆二に、狂獣の頭突きが炸裂。
轟音と共に砂塵が舞い上がる。
「ぐっ、なんだこれ」
砂塵が晴れると、隆二は片膝をついていた。
「力が、出せねえ」
「立ってください隆二君!次来ますよ!」
「くっそ」
なんとか力を振り絞り、その場から退く。
ドォォンッ
一瞬遅れてそこに狂獣の拳が突き刺さった。
そこに、『飛斬』が飛んでくる。
狂獣にぶつかり、霧散する。
狂獣は少なくないダメージを受けたようだ。
「お兄さーん、危ないよぉー!」
馬鹿そうな声で、『飛斬』を放った少女の隣の少女が言う。
「第二次解放」
突如暴力的な魔力が荒れ狂う。
『飛斬』の練度といい、これといい、この少女、とんでもない。
しかも、つくしと同レベルといっていい程、なかなかお目にかかることの出来ない美少女。
光の当たる角度によって虹色にも見える茶髪が目を引く。
「ぐっ……」
少女も突然苦しそうな顔になる。
荒れ狂う魔力が止み、元のうっすらした魔力のベールに戻る。
「大丈夫、ですか?」
件の美少女が聴いてくる。
「ああ、大丈夫だ。だけど、力が出しづらい」
「………私もです」
「そこの彼女ー!だいじょぶー?」
「はい、私は見ていただけなので」
つくしは弱いので、戦わないでほしい。
今までも、戦わないように言ってきた。
俺が守るから、と。
「ギュアァァァ!!」
「ぐっ……!」
「う……」
「なに、これ………」
何かに縛られているような、元気が吸われていくような感覚。
「取り憑かれている」
それは、儚く小さな声。
シャリン、シャリン
和服を着た、日本人形のような、これまた美少女が現れた。
「……あなたは?」
つくしが尋ねる。
「私は御鏡 麗花。お姉様の次に強い陰陽師………それより、あの狂獣、なんとかしないと」
「ギュアァァァ!!」
「はあ!!」
愛は渾身の『飛斬』を放つ。
相当キツい。
狂獣は受けたダメージに苦しんでいるが、すぐにまた襲ってくるだろう。
「鎖来たりて破魔と成す」
和服の少女が呟く。
「なんなんだよ………もう訳わかんねぇよ」
隆二は情けなく呟き、もう片膝もつく。
つくしは両膝をつきながらも、冷静に全体を見ていた。
これも非現実的な状況だが、これよりも非現実的な光景を知っているから、冷静でいられる。
「滅せよ」
和服の少女の二言目。
「グル、ギュウ」
狂獣が再び立ち上がる。
もう誰も魔力を纏ってはいない。
地に手と足をつけて苦しむ。
「ギュアァァァ!!」
和服の少女以外。
「――急々如律令」
少女の隣の空間から忽然と現れた数百の純白の鎖が、狂獣を締め付ける。
鎖は狂獣の体に溶けるように消えていく。
「ギュアァァァァァァァァァァ!!!」
皆にはこの鎖は見えておらず、突然狂獣がもがき苦しみだしたように映っている。
「あれ?」
先程までの、何かに締め付けるような、元気を吸われていくような感覚が消える。
つくし、隆二、愛、馬鹿は、不思議そうに立ち上がる。
「ふふ、ふふふ」
「よくも邪魔してくれたなぁ?」
「わったしもー!いっくよぉー!」
愛、隆二、阿呆によるリンチが始まった。
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「じゃあ無神君は今、冒険者なの?無神君を救ってくれた冒険者に憧れて?」
「………ああ、そうそう。ランクEに上がったとこ」
「こら無神、白亜様に近づくな」
集達3人は、暗い洞窟を歩いていた。
白亜の中で集はあくまでマナ量100のか弱い守るべき対象なので、集を背中に、聖剣を出して辺りを警戒している。先程まで泣き崩れていた面影は微塵も残っていない。
それを、照明担当の寛菜が恨めしそうに睨む。
「そういえば、さっき落ちてきた私達を止めた魔法ってなにかしら?」
「………なんのこと?えー?しゅう、分かんなーい」
「なんでいきなりそんな気持ち悪いしゃべり方するの?そうじゃなくて、あれ、魔法よね?」
「き、気持ち悪い………いや、多分、局所的な重力異常だと思う」
「なにそれ?うふふ、無神君面白いわね。ていうか、自分が浮かしたみたいなこと言ってなかった?」
「……あはは、夕立さん面白いね。そんなこと出来るわけないじゃん?俺、マナ量100だし」
「そうなのよねー。それが謎なんだけど」
「白亜様から離れろ」
しばらく歩いていると、不意に体が浮いた。
「うわっ、なによこれ」
「白亜様!私が、私がついてる!」
「なんだろこれ」
数秒間体が浮き、突然重力が戻る。
どさどさっ
集は白亜の上に落ちた。
集の頭がちょうど白亜の胸に乗る。
突然のラッキースケベだ。
「痛っ、あばら骨か……」
「うふふふふ、なにか言ったかしら?うふふふ、さあ、言ってごらん?ん?」
「は、白亜様に近づくな変態!」
この辺りは、重力属性のマナを吸収しており、時々このような現象が起こる。
そしてその特性故、ここで重力属性の魔法は使えない。
「あば…なんだって?うふふふふふふ」
「そういえば、どうしてここでは重力魔法が使えないの?おい無神、答えろ」
「いや、知らないけど」
時々現れるモンスターを、白亜が過剰に、そして残酷に殺していくのが怖い。
「ていうか重力魔法使えないなら、さっき無神が使った魔法って?」
「だからなんのことか、しゅう、分かんなーい」
集が先程使ったのは、《念動力》。
れっきとした無属性魔法なので、ここでも使える。
「多分聞き間違いだから、もう一度言ってくれるかしら?さあ、言いなさい。はい、おっぱい!」
「白亜様、はしたないです」
集は、人影を見つけた。
フードを被っている。
「あそこ、人がいるよ」
「さあ!おっぱい!おっぱい!」
「は、白亜様!止めてください!」
人影は近づいてくる。
若い男だ。
彼は集の目の前で止まった。
「黒目黒髪………目に少しかかる程度の前髪………」
「おっぱむぐっ……もがもがっ!」
「もう言わせませんよ!」
男は集の顔をじっと眺め、深く考える。
「うーん、条件には合うな」
男は顔を上げ、質問する。
「お前、名前は?」
「無神 集だけど」
「………なん、だと」
男は目を開く。
「お前が、シュウか」
「え?なに?」
「来てもらうぞ!異論は認めん!」
「え?」
「待って!無神君にはちゃんとおっぱむがむが」
「絶対に言わせませんよぉー!」
戸惑いながらも、男に手を引かれるがままについていく集。
「え、えと、じゃあね!夕立さん!あとその付属!」
「むがむがー!」
「そんな、白亜様の付属だなんて……畏れ多い」
しばらく手を引かれ、洞窟を出た。
「まぶし」
引かれていない方の手で日光を防ぐ。
そのまま少し進み、
「乗れ」
馬がいた。
男が先に乗り、集に手を差し伸べる。
「姫様が待っている」
集が男の後ろに乗ると、馬はパカパカ進み始めた。




