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再会編3

 

集は騎士を静かに見据える。

正眼の構えは力みがなく、自然だった。

一見しただけではよく分からない。

だから集は、さっそく切りかかった。


「ほっ」


マヌケな掛け声と共に振るわれた騎士の木刀が集の木刀を弾き飛ばした。

がら空きになった集の胴に、容赦なく木刀が降り下ろされる。


「え、ちょ」


集は脚に少しの魔力を纏わせて横に跳び、それを避けつつ木刀を拾った。

その動きを見た騎士の目が少し細められる。





「なあ、今の見たか?」


「ん?何をだ?」


遠巻きに見ている騎士や魔法師は、こそこそと話し合う。


「で、あの子誰?」


「異世界から召喚された勇者達の一人よ。顔が一番かっこよかったから覚えてるわ」


「たしか、マナ量が100だったわよね、可哀想に」


「あらー。それじゃあ魔法師になれないじゃない。もし魔法師になるんだったら、うちが手取り足取り腰取り教えてあげるのに」


「変態」



「あの騎士誰だ?」


「たしか王妃様の護衛の一人だったような」


「見習いだ見習い。下っぱだ」



∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈


その少年は負けたことがなかった。


「くそぅ!覚えてろよ!今度こそお前に勝ってやるからな!」


煩わしい。

どうしてそんなに自分に勝ちたいのか、少年には分からない。

少年にとって勝つことなんて当たり前。

むしろ負けたいとすら思っていた。


そんなある日、少年は負けた。


「ははは、なかなか手強かったな。少年よ」


その男は、自らを剣聖と名乗った。


―――悔しい


初めての感情だった。

少年はどうしてもその男に勝ちたかった。

だからその日から、少年は血反吐を吐くような修行をつんだ。


全ては、剣聖に勝つために。



∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈


刹那の間に回想を終えた騎士は、目の前の黒髪の少年に、鋭い視線を向ける。


一瞬見えた青い光を、騎士は見逃さなかった。


騎士は久しぶりの高揚を覚えた。

ルール上、勝つために攻めは必要ないのだが、騎士は自分から攻める。


ガンッ


重い。

常人の力ではない。

見ると、少年の腕を、薄く青い光が覆っている。

やはり、彼は勇者のオーラを使える。

面白い。


騎士は目にも止まらぬ二連撃目を放つ。


ガンッ


騎士の木刀が弾き飛ばされた。



「おいおい、今の連撃なんだよ……」


「見習いじゃなかったのかよ」


「てかそれを弾き飛ばしたあいつもなんだよ……」



騎士はこの久しぶりの高揚を、抑えられそうになかった。


「ははは!」


残像を残し、その姿が消える。


ガンッ


「なん、だと」


騎士の木刀が受け止められていた。

今のは確実に決まるはずだった一撃だ。

独特の緩急のつけかたで相手の視界から消えるこの技を使って倒せなかった者は、剣聖しかいない。


「なんだ、これ」


少年を囲むように、半球状に青い光が薄く広がっている。

だが、壁の役割を果たす訳ではないようだ。

であれば一体……


ヒュン


目の前を恐るべき速さの木刀が通りすぎた。

長年の経験がなければ避けられなかっただろうそれは、すぐに次が来る。


「ぐっ」


この少年は一体なんなんだ。

他の勇者はこんなではなかった。

同じように勇者のオーラを使う者もいたが、決してこんな使い方はしなかった。


少年と目が合う。


ゾクッ

まるで全てを見透かすような、神の世界からこちらを見ているような、あるいは何も見ていないような目。


もう我満できない。

騎士は内から溢れ出る衝動に従い、その全力を解放する。


目視は限りなく不可能に近い連撃が続く。

集はそれを全てさばく。

ヒュンヒュンという風切り音だけが響く。




「なんっだよあれ!」


「……速すぎて見えない」


「訳わかんねーよ!なんだよあの戦い!」




やがて決着が着く。


 カンッ


 この間抜けな音が、集の勝利を代弁した。

 集は青年の背に背を向けるように立ち、肩の上から下ろした木刀が、青年の肩に置かれている。

 静止画のように動かない。

 あり得ない光景だった。

騎士の動きもあり得なければ、集の動きもあり得なかった。


 スティアは、呼吸を止めて震えていた。


もはや何が起きたのか分からなかった。

速すぎて、何も見えなかった。

完全に想像の範疇を越えていた。


 ―――未知


彼は、どこまでも未知だ。

全てを捨ててでも知りたい存在が、そこにはある。

こんなに胸が高鳴ったのは初めてだ。

彼が、欲しい。

隣国の姫なんかに、シュウは絶対に渡さない。

スティアの決意は固まった。


「勝ち……だよね?」


【明鏡止水】を解いた集が頬をかきながら審判に訊ねる。


「……………しょ、勝者、シュウ」


 こうして集は、ただの決闘(あそび)に勝利した。



 ∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈



 夕立 白亜は愛されている。

 男女関係なく、愛されている。

 類稀な容姿に加え、正義感が強く、優しく、おしとやか。

 おまけに聖剣にも選ばれている。

 そんな彼女に、嫉妬を覚えない者がいないはずがない。


 舞欄高校1年1組、出席番号3番、伊藤 寛菜は、機会を伺っていた。

 クラスの人気者にして、選ばれし勇者。

 自分の敵を殺す機会を。

 伊藤 寛菜。

 そこそこ整った顔立ちをしており、白亜さえいなければ間違いなくクラスの中心だったと自負している人物。


 彼女は、絶好の機会を見つけた。

 崖だ。

 目の前に、大きな崖がある。

 そして白亜の残りのマナ量はほとんどゼロといっていい。

 そしてちょうど良いことに、皆の意識は、自分達を挟んで崖と反対側にいるモンスターの群れに釘付けになっている。


 寛菜は白亜の肩を叩き、小声で囁く。


「こっちこっち」


「?……どうしたの?」


 寛菜が白亜を崖の方に誘っていることに、まだ誰も気がついていない。

 白亜のファン達も、目の前のモンスター――オーガの群れにかかりっきりだ。

 マナの尽きた白亜を守ろうと、必死なのだ。


「ほら、こっちからもモンスターが」


「え?本当?」


 適当な嘘で白亜を崖のすれすれまで誘い―――


「―――え?」


「………うそ?」


 二人のいる場所が、崩れ落ちた。

 足場が崩れ落ち、二人は崖に落ちていく。

 それに唯一気付いた白亜のファンは、オーガなど放って二人の方に走る。

 だが――もう遅い。


 落ちつつある視界のなか、寛菜は思った。

 ――これは、天罰だと。

 一時の気の迷いだった。

 ああ、自分は、なにをしてしまったのかと。

 そんなとき――白亜は、寛菜を抱いた。

 自分の体が下向きになるように、優しく抱いた。

 涙が溢れた。

 ―――彼女を助けたい。

 そんな気持ちが溢れてきた。

 寛菜は白亜と体を入れ替える。


 もう辺りは真っ暗だ。

 どれだけ深いのだろう。

 空は線のように細くなっている。

 もう、二人とも助からないだろう。

 下からの空気の暴力を感じながら、寛菜は絶望した。

 今、白亜はどんな顔をしているのだろう。

 そんなことを思いながら、下からの衝撃を待った。

 待った………。

 待った………………。


「…………あれ?」


 いつまでたっても終わりがこない。

 というか、もう落ちてすらない。

 落ちてないのに、背中に地面の感触はない。


「ぐじゅ……ふぇぇ」


 なにこの可愛い生き物?!

 と、寛菜は白亜を衝撃的に見る。

 泣き崩れている美少女がいた。

 お持ち帰りしたい。


「どうした?」


 下から声がした。

 この声……

 聞いたことがあるような……。


「泣いてるの?」


 間違いないこの声は……。

 振り向くと、予想通りの人物がいた。


「ぐじゅぐじゅ……ふぇぇなぎゃみくぅんもどってきてちゃー」


 白亜が可愛い生き物と化している今、質問すべきは自分だろうと、寛菜は少年を見つめる。


「今、どういう状況なの?」


 ぱっと思いついた質問をしてみた。

 少年は、ポケットに両手を突っ込みながら答える。


「なんか落ちてきたから、浮かせといた」


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