再会編2
隣の国の姫が、騒いでいるらしい。
とある一人の少年を探して。
「はあ」
ピンク色の髪を揺らし、スティアは溜め息をついた。
《千里眼》でこっそり覗いた隣国――エルビオン帝国の宮殿。
その玉座の間に、複数のお偉いさんが集まっている。
その前で腕をくんで仁王立ちしている一人の少女。
エルビオン帝国皇女、クロエ・エルビオン。
彼女は、尊大に言い放った。
「シュウを探すのじゃ!」
――シュウ。
スティアはその名前を知っている。
……気のせいなのだろうか。
もしやそれは、勇者召喚され、トイレの場所を聴いてきて、現在冒険者に保護されている、あのシュウなのだろうか?
ともかく、こうして隣国では、国家をあげて、一人の少年の捜索が始まった。
これを踏まえ、スティアは、改めて目の前の黒髪の少年を見つめる。
「ん?なに?」
――さて、どうするべきなのか。
もし件のシュウが、目の前の少年のことなのだとしたら、この少年を……。
いや、それだとスティアがそれを覗いていたことがばれる。
ここは、向こうからアクションがあるまで、放っておくのがベストだろう。
そう、スティアは結論した。
まあ、とりあえず、言うべきことがあるだろう。
「お久しぶりです。シュウ」
彼には魔王討伐に、参加して欲しくない。
なにしろ彼は、マナ量が100なのだ。
剣術を極めている訳でもないし。
彼には危険すぎる。
「みんなは今どこ?」
妥当な質問だ。
しかし、これに答えたらまず間違いなく、彼は皆のもとに向かうだろう。
それを是とするのか否か。
「その前に、あなたの実力をみせてください」
条件付きの是とした。
実力さえ伴っていれば問題ないのだ。
むしろ戦力となりうる。
今のところスティアはシュウに期待はしていない。
なにしろマナ量100だ。
ろくな魔法は使えない。
体つきをみても、それほど鍛えているようには見えない。
「では騎士団の方と決闘をしていただきます」
まさか勝てるとは思っていない。
期待もしていない。
騎士を相手に、どこまで戦えるか。
見るのはそこだ。
「分かった」
決闘という単語がでてきても、集は顔色ひとつ変えなかった。
それを見ていたスティアは、僅かに目を開く。
強がっている訳でもなく、ただ平然と流した目の前の少年の、その自信の根拠を求めて。
およそ未来の分かっているこの決闘に、僅かな期待をかけてみる。
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「判断はあなたに任せます」
「はい」
安全面を考慮して、両者とも使う剣は木刀だ。
魔法は禁止。
完全に剣術のみをはかるらしい。
万が一に備え、治癒系の魔法師が複数待機している。
集は自分に立ちはだかる騎士を見る。
白銀の甲冑を通してでも分かる、鍛え上げられた肉体。
短く刈り込んだ金髪の爽やかな青年は、一見しただけで、様々な修羅場を潜り抜けてきた本物だと分かる。
訓練場の白い円形の床に佇む二人を、スティアは城の窓から眺めていた。
ここはスティアの特等席。
訓練場の周りで、暇な魔法師や騎士が二人を見ているのも一望できる。
「フィオ?どうしたの?」
先程から、フィオが何かに怯えている様子。
けれど、それもあやふや。
フィオ自身、何に怯えているのか分からないようだ。
それどころか、本当に自分が怯えているのか分からない。
ありもしないものに怯えている。
そういう感じ。
「ルールは?」
「とりあえず、そこの騎士に一発でも当ててください」
思えば、この少年は、召喚された時から他の人と何かが違った。
いきなり知らないところに召喚されて、第一声が『トイレどこ?』って……。
その時から、スティアは集に興味をもっていた。
けれど、マナ量が100だと分かり、その後冒険者に保護されたので、その方が安全だと、あえて連れ戻さなかった。
それを少し後悔していた。
もっとこの少年を観察したかった。
だけど、彼は戻ってきた。
なんの気負いもなく、ひょっこりと。
第一声は『元気?』だ。
吹いた。
今までなにをしていたのか尋ねても、要領を得ない答えばかり。
――ようやく。
ようやくこれで、彼の何かが分かるかもしれない。
集との会話のときには豆粒程度だった期待が、今ではスイカほど大きくなっている。
「制限時間は3分、それでは」
騎士が木刀を正眼に構え、集が変わらずだらりと下げる。
スティアが身をのりだし、観客が注目する。
ここに、集以外誰も予想すら出来ない――
「始め」
――ただの決闘が始まった。




