反撃編1
《大いなる帰還》で蘇った集は、目の前の漆黒の巨体を静かに見上げる。
力が漲る。
「イデア――解放―――」
イデアで空中に浮かぶ。
バハムートゼロは、飛び立とうとしていた。
翼を一度、羽ばたかせる。
突風が吹き荒れ、氷が砕け散る。
集も氷と共に吹き飛ばされ、離れたところに着地する。
「《エクスカリバー》」
純白を主とした光の渦巻く剣を空間から引き抜き、氷のような瞳で飛んでいくバハムートゼロを見据える。
本気になった集に、《エクスカリバー》は情報を与える。
ドクンドクンと剣を持つ手から脈打つ。
今なら、この剣の本当の使い方が分かる。
「死ね」
イデアで加速。
向かった先は、氷の砕け散った白い大地の中心。
遠くでバハムートゼロが飛んでいるのが止まって見える。
「3秒前」
そう言って、何もない空間を切り裂く。
黒い断層は現れない。
時間感覚を戻すと、バハムートゼロの巨体がぶれ、消滅する。
そして、もう少し集に近い位置に現れる。
「GAAAAAAAAaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!」
悲鳴のような咆哮が、周囲の何もかもを粉砕する。
集はそれを冷たい瞳で横目に見る。
「7秒前」
辺りを出鱈目に切り裂く。
「GYAAAAAAAAaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!」
バハムートゼロの姿がぶれ、もっと近くに現れる。
魔力で音から身を守るが、それでも吹き飛ばされる。
「イデア――覚醒―――」
集の左目が蒼く光り、世界から音と色彩が消える。
「8秒前」
灰色の世界で、集は8秒前にバハムートゼロがいたであろう場所で、隅々まで《エクスカリバー》を振るう。
「死んだな」
少し離れ、イデアを解除する。
――過去は改変され、世界は情報を書き換える。
バハムートゼロはぶれて消え、先程集がいた場所に現れ、崩れ落ちる。
ぴくりとも動かない。
「うん?」
集はいつもの涼しい表情に戻った。
「ああ、いいよ」
バハムートゼロの巨体が光になって消えていく。
それを確認することなく、集は《戯れの堕天使》で飛び立つ。
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ペガサス達は、ゆっくりと歩みを進める。
屈強な戦士達によるあらゆる攻撃は光気によって無効化され、さらに光気によって戦士達の体はただの肉塊にされる。
一定の速度で、ゆっくり、ゆっくりと、歩みを進める。
戦士達はゆっくりゆっくりと後退していく。
「つまらない見せ物でありんす」
ユリエルの言葉に、天使達が凍りつく。
行進が止まる。
「で、では、とっておきの召喚魔法をご覧にいれましょう」
「さっさとするでありんす」
「は、はい!《眷獣召喚》クラーケン」
大きなイカが現れ、ぬるぬると動く。
しかし、ぬるぬる動いても、その場から動けない。
「陸上で海洋モンスター召喚してどうするでありんすか!」
ぐちゃ
ユリエルのつっこみで、憐れな天使が一人死んだ。
ドオオォン
「なんだ?」
ドオオォン
「なんでありんすか?」
ドオオォン
天使達の前に現れたのは、一体の巨大なロボットだった。
遠くからそれを眺めていたメレンとマリアはハイタッチした。
彼女達が古代遺跡に潜って起動させた、巨人型古代殺戮兵器――サルジェカムイ。
その口から放たれる白い光線が地面すれすれを薙ぐ。
光気の少ない者は一瞬で蒸発し、並の者は吹き飛ばされ、多い者は耐えた。
「お前は邪魔だ」
序列139位、シラエラが光気を全身に纏って突進する。
音速を超え、ソニックブームがおこる。
大気を切り裂き、激突した。
サルジェカムイの頭部が大きくへこみ、シラエラの体は木端微塵になった。
愛するユリエルのために死ねて、彼は本望だった。
「何してるでありんすか」
ユリエルは呆れたように言い、溜め息をつく。
ユリエルにしてみれば、シラエラがなんのために死んだのか分からなかった。
「《終わりの炎剣》」
蒼い炎が辺りを照らす。
サルジェカムイが白い光線を放つが、ユリエルが蒼い炎の剣を一薙ぎすると、蒼い炎に呑まれて消え去った。
遠くから見ていたマリアとメレンはかたまった。
ユリエルが超高速でサルジェカムイのそばに移動し、《終わりの炎剣》を振るうと、サルジェカムイの巨体は呆気なく両断された。
切断面から蒼い炎が広がっていき、最終的にサルジェカムイは自爆した。
「す、素晴らしいですユリエル様!」
きのこ雲を背景に、わああああ!!と大歓声が響く。
「考えたでありんすけど、一番面白いのはやっぱり召喚魔法でありんす」
「「「分かりました!!!」」」
大勢の天使が一斉に召喚魔法を唱える。
「《眷獣召喚》レッドドラゴン」
「《眷獣召喚》オーガキング」
「《眷獣召喚》ペガサス」
―――――――
――――
化け物達で溢れかえっている天使達は進まず、強力な眷獣を一匹一匹人類側に送ってくる。
最初の一匹、憤撃オーガエンペラーだけで、人類の誇る精鋭は全滅した。他の眷獣は一列に並んでいる。
メレンとマリアはその一方的な殲滅を前に、黄昏れていた。
今までの人生を振り返り、涙していたその時、オーガエンペラーが突如光になって消えた。
静まり返る一帯に、集の声が響き渡る。
「あ、眷獣だったの?これ」
漆黒の翼を生やした少年は、放射状にひび割れた地面から、ゆっくりと立ち上がる。
「じゃあ、召喚魔法対決といこうか」
これから集による一方的な虐殺が始まるとも知らずに――
「《眷獣召喚》神羅バハムートゼロ」
天使達は、その少年の到着を。
人類の反撃の時を、迎えてしまった。




