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天使編2

 


「くたばれ化け物!《灼炎地獄ヘルフレイム》」


 男が放った帝級魔法は、サマエルが腕を振るうだけで霧散した。


「魔法、ですか……私も使えますよ」


 サマエルが集達に手のひらを向ける。


「《断罪の極光ジャッジメントレイ》」


 男は魔法での防御は不可能とみて逃げようとするが、逃げきれずに灰となる。

 対照的に集は魔法で防御する。


「《絶対防御円陣アイギス》」


 無属性の第12階梯―超絶魔法で、完全に防ぎきった。


「あなた、虫けらにしてはやるようですね」


 サマエルは双眸を細める。


「そこの虫けら、邪魔でありんす」


 穴から、女の天使が現れた。

 8枚の純白の翼を生やしている。

 サマエルと同じく凄まじく美しい。


「紹介しましょう。彼女はユリエル。我ら天使の序列1位であり、次期女王です」


「そうか」


 欠伸がでるほどどうでもいい。

 いきなり攻撃をしてきたのだから、敵でいいのだろう。

 神級魔法が使えるので、油断をしていて勝てる相手ではないだろう。


「虫けらなど、私達が手を汚すまでもなかったですね。《眷獣召喚サモン》ペガサス」


 黄金の円陣から、光輝く白馬が姿を現す。


「《火炎球ファイアーボール》」


 集の放った初級魔法は、ペガサスの周りを渦巻く黄金により霧散する。


「これだから虫けらは……効くわけがないでありんす」


「《爆発球ブラスト》」


 中級魔法も霧散する。


「《白吹雪ブリザード》」


 上級魔法も霧散する。


「馬鹿でありんすか?いくらやっても魔法は効かないでありんす」


「《白天使メタトロン》」


 王級魔法でも駄目なようだ。


「《灼炎地獄ヘルフレイム》」


 帝級魔法も駄目。


「《星屑の煌めきスターダストフレア》」


 超級魔法でも駄目。


「《蒼炎の不死鳥フェニックス》」


 神級魔法でも駄目ならしい。

 ペガサスとやら、凄まじい。


「《女神の終曲ヴァルキュリアノヴァ》」


 超絶魔法でやっと通じた。

 ペガサスはふらふらとよろめき、後退する。

 ならば、もういっちょ。


「《女神の終曲ヴァルキュリアノヴァ》」


 水色の美しい女性のシルエットが歩いてペガサスに近づき、女性のシルエットを中心に青い爆発が起こる。

 ペガサスは大きなダメージを負っているようだ。


「《女神の終曲ヴァルキュリアノヴァ》《女神の終曲ヴァルキュリアノヴァ》《女神の終曲ヴァルキュリアノヴァ》《女神の終曲ヴァルキュリアノヴァ》―――」


 青い爆炎が晴れると、光となって消えていくペガサスがいた。


「やはり、ただの虫けらではないようですね」


 サマエルの雰囲気は先程とは一変している。

 氷のように冷たい視線で集を射抜く。

 集はそれを飄々と受け流す。


「光栄に思いなさい。序列3位の私自ら手を下して差し上げます」


「光栄だね」


 氷のように冷たい視線と風のように涼しい視線が交わる。


「はっはー!いっちゃえサマエルー!」


「早くしてー」


「サマエル!あれやれあれー!」


 いつのまにか増えている天使達が、サマエルに声援を送る。


「では、行きます」


「じゃあ俺も」


 互いの拳がびりびりと電気を纏う。

 そして残像を残して消える。

 互いの中間の位置で姿を現した二人の拳が激突する。


「「《雷神の鉄槌ミョルニル》」」


 激突した拳から、黄金の円が縦に広がる。

 それは、海を割り、雲を割り、周りの天使達を吹き飛ばす。

 その余波で、前方の白い大陸の表面が砕け散る。


 天使達は、ユリエルでさえも目を丸くしている。


「まさか深淵魔法まで使えるとは……」


 サマエルは殺気を迸らせながら集を睨む。

 集も先程より若干眼光が鋭い。


「《炎獄流星群メテオプロミネンス》」


 集が唱えたのは、炎属性の深淵魔法。

 空から、炎を纏った隕石が数えきれないほど降ってくる。

 天使達は白い翼で巧みに飛んで躱している。


 氷で出来た白い大陸は、隕石の墜ちたところからぼろぼろと崩れ落ちる。

 ――その最奥に眠る、破滅の存在が目を覚ますまで、あと少し。


 天使達が集に迫る。

 光気を纏い、炎の剣を振りかぶる。

 ――第6階梯―王級魔法《破壊の炎剣ソードデストロイファイア》。

 一振り一振りが凄まじい熱気を放つ。

 更にその剣筋も洗練されていて、避けきれない。

 なので、集は少しずるをした。


「《魔法消去波ディスペル》」


 《破壊の炎剣ソードデストロイファイア》が霧散する。


 いつの間にか《炎獄流星群メテオプロミネンス》が止んでいる。

 集は天使に囲まれていた。

 その中から2体の天使が進み出る。

 炎の剣を持った天使と、氷の剣を持った天使だ。

 どちらも構えからして剣術の素人ではない。


 どちらかに《魔法消去波ディスペル》を使ったら違う方が攻撃してくるので、厄介だ。

 炎の剣は、先程とは違い、《業火の炎剣ソードヘルファイア》。

 氷の剣は、《零氷の氷剣アイスソードニヴル》。

 どちらも王級魔法だ。


 相手が一人だからといって、全員で攻めてこないのは、遊んでいるからなのかもしれない。

 だから集は、天使共に格の差を見せつける。


「《終わりの炎剣レーヴァテイン》」


蒼い炎の剣。

 第15階梯―禁呪《終わりの炎剣レーヴァテイン》。

 集はそれを薙ぐ。

 一振りで、天使共は灰とかす。

 海は蒸発し、白い大陸の氷もごっそりと消滅する。


 ――その存在は、目覚めた。


 一人生き残った天使―ユリエルは、完全な無表情で集を見つめている。

 彼女がこの顔をするときは、本気を出すときだというのは、天使の間では有名だ。


 集とユリエルの決戦が始まろうというとき、白い大陸から巨大な爆音が響く。

 大きな氷の塊が、集とユリエルに飛んでくる。


「《絶対防御円陣アイギス》」


 集は魔法で防ぎ、


「………」


 ユリエルは光気で防ぐ。


 爆音がしたところから、巨大な漆黒が浮かび上がる。

 漆黒の存在は大きく翼を広げる。

 それだけで、周囲の氷が砕け散り、クレーターができる。

 天まで届きそうなその巨体を前に、ユリエルは目を見開いて凍りつく。

 この時初めて、彼女は恐怖を知った。

 ユリエルは大慌てで穴へ帰っていく。

 ユリエルが抜けると、穴は消えた。


 残った集は、漆黒を見上げる。


「《種族名鑑定ネーミング》」


 彼が目にしたのは、終焉の神と呼ばれる、破滅の存在。

 世界に終焉をもたらすといわれる、恐怖の権化。

 幻の、ドラゴン種の最上位種。


 ――神羅バハムートゼロ



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