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天使編3

 

「《終焉の太陽(ラストプロミネンス)》」


 集は右手を天に向け、魔法を唱えた。

 直径1キロメートルの炎の玉が現れる。

 集が手を降り下ろすと、炎の玉はバハムートゼロに飛んでいく。

 巨大な炎の玉がぶつかり、辺りは熱気に包まれる。


「《統べる王の叡智(アブソリュートゼウス)》」


 世界の半分の、あらゆる事象を観測する。


「けっこうまずいな……」


 呟き、魔法を唱える。


「《終わりの炎剣(レーヴァテイン)》」


 蒼い炎の剣が顕現する。

 集はそれをもって《戯れの堕天使(ロストルシファー)》で、無傷で姿を現したバハムートゼロに接近し、直接切りつける。

 氷の大陸はごっそりと削られるが、バハムートゼロの漆黒の体には微々たる傷しかつかない。

 《終わりの炎剣(レーヴァテイン)》を出鱈目に何度も切りつけるが、傷は一向に大きくならない。


 灰色の炎が降り注いできたので、《戯れの堕天使(ロストルシファー)》で加速して逃げる。

 灰色の炎の降り注いだ氷の大地は、原始レベルに分解される。

 大地にぽっかりと穴が開いた。


「《不滅の氷剣(デュランダル)》」


 今度は炎と氷の、禁呪による二刀流で切りつける。

 海や大地が蒸発し、凍りつき、蒸発し、凍りつく。

 しかし、バハムートゼロの体には相変わらず微々たる傷しかつかない。


 また灰色の炎が降り注い出来たので、逃げる。

 しかし、下から迫る大きな漆黒の尾が集を吹き飛ばす。

 集は目を大きく見開き、灰色の炎の中へ消えていく。

 集の体は、原始レベルに分解された。



 ∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈


 神聖シャンメリルに隣接する大国、ラルタン帝国が終わりの時を迎えようとしていた。


「そんな……馬鹿な……」


 皇帝は目の前の白馬に、この国が秘密裏に開発してきた兵器――魔法銃を向ける。

 引き金をひき、放たれたのは人類の到達した極致―帝級魔法を遥かに上回る、赤い光線。

 神級魔法に匹敵するその熱線をくらっても傷ひとつないペガサスに、皇帝は大いに狼狽する。

 ペガサスから黄金のオーラが放たれ、皇帝の体は肉片とかす。


 多くの国を滅ぼし、大いに恐れられた冷徹なる皇帝は、今、呆気なく死んだ。


 ∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈


 ラルタン帝国の反対側で神聖シャンメリルに隣接する小国、メルル公国も終わりの時を迎えようとしていた。


 ロームーハ大聖堂では、バハムート教の信者や、聖女、マリアが祈りを捧げていた。

 世界に終焉をもたらす神は、即ち神自身が終焉をもたらす。

 よって、自身が終焉をもたらすまでは世界を守り続ける。

 バハムート教の聖典、終書の始めに書いてあることだ。


 祈りのかいなく、ペガサスは大聖堂にも進入する。

 刹那の間に半数の体がぐちゃぐちゃになる。


 ペガサスが一歩一歩進む度に、数人が肉塊とかす。

 残るはマリア一人。

 一心不乱に祈っているマリアに、一歩一歩近寄る。

 マリアは死の足音が近くなってくるのを無視して祈る。


「こっちだ」


 耳元で声がし、マリアの体が浮かび上がる。


「少し眠ってろ」


 首にとんっと手刀をおとされ、マリアの意識は飛ぶ。



 目を開くと、とびきりの美少女がいた。

 黒装束に、同じく黒い髪は、影のような印象を与えた。

 マリアは身を起こし、少女に問う。


「あなたは、誰ですか?」


「メレンだ」


 ここは、どこかの部屋のようだ。


「ここはビザン朝プルギスの都、ティウムだ」


「そんなに遠くに……」


「現在ビザン朝も含めて大陸西側の全ての国が、対ペガサス大同盟を結んでいる」


 ビザン朝といえば、西側の最東端。

 ということは、もうじきここにも奴らが来る。

 ああ、神よ。


「ちょうどここ、ティウムが連合軍とペガサスとの戦いの最前線になる」


「分かっています」


 窓の外を見ると、冒険者や騎士ばかりだった。

 それと商人。

 多くの商人が遠くへ逃げているので、残った商人はがっぽがっぽ儲かるのだろう。


「恐らくすぐに負ける。今のうちに逃げておくべきだ」


「え、負ける?30以上の国の連合軍ですよね?」


「それでも負ける」


 メレンは言いきった。

 確信を持っているようだ。

 命の恩人の言葉だ。

 大人しく従っておくべきだろう。


 メレンとマリアは数分後には行動を開始した。



 ∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈


 次の日の黄昏時、奴らは現れた。

 ペガサスの軍勢は、邪魔なものを光気で吹き飛ばしながらゆっくりと歩いてくる。


 連合軍は、静まり返っている。

 一人の男が進み出た。

 彼こそがこの作戦の要。

 男――アルバは、手を前に翳す。


「《眷獣召喚(サモン)》エメラルドドラゴン」


 地面に大きな円陣が浮かび、そこから翠の竜が光の奔流と共に姿を現す。


 連合軍が進めたのは、ドラゴン種の最上位種を眷獣化するという、馬鹿げた計画。

 発案者のセイルは、当初は酷いバッシングを受けたが、計画が成功すると、一転して英雄扱いされた。

 多大な犠牲と引き換えに、連合軍は凄まじい力を得た。


 そして今度は若い女が進み出る。

 彼女は、数少ない精霊契約者のうち、一握りの人しか扱えない魔法、帝級魔法を行使する。


「《覇王の寵愛(エンペラーギフト)》」


 同じような効果の魔法は何度かけても変わらないので、《加護(ギフト)》の最上位互換を1度使う方が、《加護(ギフト)》を何万回かけるよりも断然良いのだ。


「GAAAAAAAAaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!」


 エメラルドドラゴンの咆哮が、皆の魂を揺さぶる。

 今まで恐怖と絶望しか与えなかったこの咆哮が、今では眩しいほどの希望だった。


 エメラルドドラゴンが翠の炎を吐く。

 対抗するように、ペガサス達は光気を放つ。

 ペガサス達の放った黄金の奔流は1つに纏まり、翠の奔流と激突する。

 拮抗していた2つの奔流は、徐々に翠の奔流が押されてきた。


「「「「「《火炎球(ファイアーボール)》」」」」」


 約4000の《火炎球(ファイアーボール)》が殺到する。


「《白天使の演舞(ホワイトワルキューレ)》」


 女性魔法師の唱えた帝級魔法により、12体の《白天使(メタトロン)》が顕現する。

 それが光気を放っているペガサスの周りをハエのように飛び回り、攻撃する。

 攻撃は効いていないが、気は散っているようだ。


 翠の炎が押し返す。

 黄金はみるみる押され、ついに翠の炎がペガサスに届いた。

 3体のペガサスが翠の結晶になった。


 人類(集を除く)が初めてペガサスを倒した瞬間である。

 たった3体でも、人類に可能性を見せられた。


「ほうほう、お見事です」


 ペガサスが歩みを止め、そこから天使が歩み出る。


「わたくしは序列37562位、レトリエルと申します」


 声は近くの者にしか聞こえない。


「これからは、我ら天使もペガサスに加勢します。せいぜい長く持ちこたえてください」


 レトリエルは深く一礼した。

 空から、白い数千の天使が舞い降りた。

 人類は戦慄した。


 エメラルドドラゴンが翠の奔流を吐く。

 1体の天使が対抗して魔法を行使する。


「《絶対防御円陣(アイギス)》」


 白銀の円陣が、翠の奔流を完全にせき止める。


「なんだ……あれは……天使?」


「魔法?!魔法を使うのか?!」


「なんだあの魔法……帝級魔法なのか?」


 先程《覇王の寵愛(エンペラーギフト)》を使った女性魔法師は、がくがくと震えていた。


「帝級魔法よりも、先があるなんて……」


 そこから先は一方的だった。

 数分のうちに連合軍の半分が死に、残りは撤退していくが、撤退していく者も半分ほど殲滅される。


 こうして、人類はこの大陸の約9割を失った。



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